平清盛 第39回 「兎丸無念」
(五条大橋。赤い被衣を被って橋を渡ろうとする遮那王。その前に立ちふさがる、高下駄を履き長刀を手にした弁慶。行き過ぎようとした遮那王に、その年格好で赤い衣を着ているからには禿に違いないと因縁を付ける弁慶。禿などではない、急いでいると言って立ち去ろうとする遮那王。待てと行って長刀を振り回し、襲い掛かる弁慶。身軽に長刀を躱す遮那王。)
(弁慶の腰から刀を奪った遮那王。その時、歌と共に禿の群れが現れます。正体を現したなと言って、禿に立ち向かう弁慶。弁慶と共に禿と対峙する遮那王。しかし、禿たちは何もせず、赤い羽を撒いて立ち去ります。後に残された二人。)
(自分は禿などではないと言う遮那王を信用せず、再び襲い掛かる弁慶。刀の峰で弁慶の脛を打った遮那王。泣き所を討たれてもんどり打つ弁慶。大事ないかと側による遮那王に、こんな事で自分に勝ったと思うなと強がる弁慶。)
(自分はこれまで999人の武者に挑み、999本の太刀を奪った腕自慢だと話し出す弁慶。これは全て奪った太刀ですかと驚く遮那王。なぜそんな事をするか教えてやろうと弁慶。いえ結構ですと遮那王。構わずに、いずれ源氏が挙兵する時の為だと話を続ける弁慶。源氏と聞き、反応する遮那王。何も知らないのか、平治の戦の時、平家の棟梁清盛が源氏の棟梁であった義朝を倒したのだと語り続ける弁慶。清盛の名を聞き、色めき立つ遮那王。清盛を父と慕っていたと聞き、いぶかる弁慶。そして、遮那王が常磐の子であると知り、牛若、大きくなったなあと言って遮那王を抱き上げます。)
(福原。承安二年(1172年)3月、民の寄進によって万灯会を開いた清盛。)
(消えぬべき 法の光の灯火を かかぐる和田の 泊なりけり)
(歌を詠んで万灯会を成功させた清盛の権勢を称える西行。あたりの民の世話をしてきたのは兔丸たちだと清盛。兔丸の手によって着々と進む大和田泊の普請。)
(都。禿を放ち、平家に異を唱える者を次々と断罪していく時忠。)
(内裏。清盛の企みの形が見えないと兼実。口をつぐめと基房。ふと気付くと、縁の下に禿が潜んでいました。慌てて立ち去る兼実と基房。)
(福原。万灯会の成功を喜び、兔丸たちを労う清盛。)
(清盛に向かって、悔い改めた罪というのは禿の事かと問う兔丸。あの質の悪い禿をあのままで良いと思っているのかと兔丸。思っている、禿を放ったおかげで平家に異を唱える者が居なくなり、こうして泊造りが出来ていると清盛。判っていないと兔丸。年端も行かない者にあんな生き方をさせては、ろくな者に育たない。このまま放っておけば、いつかえらい目に遭うと警告する兔丸。)
(海賊の棟梁は義に厚すぎて困ると清盛。だからこそ、長い付き合いなのではと盛国。自分の目指す国造りは若い頃の兔丸が思い描いていたもの、出来上がった時に全てが報われると清盛。)
(泊の普請を見に来た子兎丸と桃李。侍女だけを残して都に帰れと兔丸。いぶかる桃李に当分は人夫たちの宿になる、普請が終わるまでの辛抱だと諭す兔丸。)
(内裏。中宮となっていた徳子。中宮権大夫となった時忠。正四位下、中宮亮となった重衛。)
(六波羅。宴に興ずる一門。屋敷を訪ねてきている西行。宴は清盛からの言いつけ、舞や歌に親しむのは公卿たる一門としてのたしなみである、常々行えと言われていると時子。それを聞き、人は変わるものだと苦笑する西行。)
(近頃の清盛は、どこか生き急いでいる様で心配だと西行。それでも平家は常に一蓮托生、どんな修羅の道でも共に歩く覚悟と時子。)
(福原。宋からの文が届き、喜ぶ清盛。そこには、日本国王及び太政大臣にこれらの物色を賜うとありました。送り主は明州の長官。それは皇帝の兄でした。宋の皇帝が日本との交易を認めたと高笑いする清盛。)
(宋からの贈り物を朝廷に届けた清盛。贈り物を確かめる公卿達。何もかも古のしきたりから外れている、無礼千万だと兼実。賜うという文字もけしからぬと基房。かような無礼な物は送り返すべしと兼実。)
(院の御所。公卿達の決定を後白河院に伝える成親。万事先例が大事、つまらぬ奴らだと法皇。構わないから、品々を貰っておき、返書を作らせよと命ずる法皇。たかだか州の知事の贈り物に法皇の名で返書を出すなど屈辱だと成親。清盛に返書を作らせては如何と西光。)
(福原。兔丸たちの普請の様子を見る清盛。)
(兔丸に普請は何時終わると問う清盛。あと半年と兔丸。三月で完成させよと清盛。驚く兔丸。あまりに無体なとたしなめる盛国。三月後には宋国皇帝の兄が来ると清盛。長官に新しい泊ーの姿を見せ、この国が侮りがたい力を持っている事を示す。そして、天下にこの国の頂きに立つ者が平清盛である事を示すのだと清盛。憮然とする兔丸。)
(六波羅。平家一門の昇進祝いに訪れた貴族達。武士上がりの者に祝いなどと陰口を利く貴族。それを聞いていた禿たち。たちまち貴族を取り囲む禿達。悲鳴を上げる貴族。)
(二ヶ月後。福原。けが人が続出している普請場。これ以上無理をしたら死人が出る、今回は諦めろと兔丸。自分の命は動かないと清盛。ついにいかれたか、また次があると兔丸。一度負けたら終わり、次などないと清盛。何の為の泊か、民のためではないのかと兔丸。長官を迎えるのは新しい泊でなくてはならない、そうでなければ宋との交易は叶わない、この国の頂きに上る事も出来ないと清盛。)
(虫の息で、自分を人柱にしてくれと言い出す、怪我をした蝉松。それを黙って聞いている清盛。目を覚ませと言って清盛を殴り飛ばす兔丸。あいつの上に泊や国が出来て何になると兔丸。今こそ長年自分たちを見下して来た王家や朝廷を見返す絶好の機会、些末な事でこの機会を逃す事は出来ないと清盛。些末と言われて切れた兔丸。もう泊造りは止めだと叫びます。これまで義と悪をひっくり返そうと思ってお前に付いてきた、しかしお前のやっている事は悪だ、悪と悪がひっくり返っても、また悪が天辺に上るだけだと兔丸。平家の餅などついていられないと言って、仲間を引き上げさせる兔丸。じっとそれを見ている清盛。清盛を振り返り、お前の国造りは盗賊が物を盗むのと同じだと捨て台詞を残す兔丸。)
(縁に立ち、海を見ている清盛。傍らに座り、かつて漁師であった頃の事を語り出す盛国。白河院に異議を申し立てたのが清盛だったと言う盛国に、何が言いたい、自分が白河院の様だと言いたいのかと清盛。誰にも判らない、兔丸にも、盛国にもと清盛。)
(五条大橋の下。あの時、海賊船で殺しておけば良かった仲間達と気炎を上げる兔丸。そこにやってきて、途中で投げ出すなどらしくない、福原に戻ろうとせかす桃李。もう終わりだ、平家の棟梁にはついて行けないと兔丸。なぜ何十年もあんなやつについてきたのかと兔丸。面白いと思ったからでしょうと桃李。だから余計に腹が立つ、昔海賊船であいつが言った、平家の下でなら面白い事が出来る、面白い事が出来れば父の義の証しが立てられると。しかし、あいつは平家がのし上がる事しか考えていなかったと兔丸。桃李に、朝には帰る、今夜はここで呑ませてくれと兔丸。黙って立ち去る桃李。)
(これからどうしよう、また海賊船に乗るかと兔丸。そして、宋の船を襲ってやれば清盛が困るだろうと兔丸。酒が切れた、どこかで調達してこいと郎党に命ずる兔丸。言いつけに従う郎党たち。一人残った兔丸。そこに歌声と共に現れた一人の禿。もう止めろ、ろくな大人にならないとたしなめる兔丸。歌いながら、赤い羽を兔丸の腹に刺して立ち去る禿。)
(禿を追って橋の上に来た兔丸。そこに現れ、兔丸を囲む禿達。この餓鬼どもと兔丸。歌いながら四方から兔丸を羽で刺す禿達。体中に羽を突き立て、崩れ落ちる兔丸。もう一度兔丸を刺す禿達。)
(福原。兔丸たちが使っていた道具を見ている清盛。そこに、頭は来ていないかと現れた兔丸の郎党達。)
(京。兔丸の郎党達と共に兔丸を探す清盛。)
(赤い羽が積もった五条大橋。その羽に埋もれた兔丸の面。その面を拾い、橋の下を見る清盛。同じ方向に向かって手を合わせる人々。)
(橋の下に駆け下り、倒れている兔丸を見つけた清盛。そして、兔丸の遺体に駈け寄り、全身に突き立った羽を抜き取ります。兔丸を抱きしめる清盛。郎党と共に現れた桃李。悲鳴を上げて駈け寄ろうとする桃李を止める盛国。呆然と兔丸を抱きしめている清盛。)
(六波羅。一門に向かって、兔丸の葬儀は一門を挙げて福原にて盛大に執り行うと告げる清盛。その時、庭先に現れて清盛を見る禿達。彼らに気付き、部屋に入る清盛。そして、時忠に向かって、禿は始末せよと命じます。)
(福原。じっと海を見ている清盛。すべては清盛が邁進するために起こった事、どれだけ思っても兔丸は戻ってこない、それでも修羅の道を進む覚悟があるのかと問うと盛国。黙っている清盛。ならば共に修羅の道を歩くと盛国。涙する清盛。)
(六波羅。夜、一人で禿の装束を焼く時忠。悔し紛れに、装束を炎の中にたたき込む時忠。)
(五条大橋。父を呼んで泣き叫ぶ子兎丸。傍らに立つ桃李。二人を見つめる清盛。)
(福原。夜、屋敷の中で石に字を書いている清盛。そこには兔丸の名がありました。突然現れ、清盛を取り囲む兔丸の郎党達。仇を取りに来たと清盛。太刀を抜いて清盛に斬り掛かろうとする郎党達。それを止める兄貴分。清盛に何をしていると兄貴分。経文だと清盛。人柱など立てなくても、こうして経文を書いた石を沈めれば良い、兔丸の志と共にと清盛。黙って話を聞いている郎党達。兔丸の志こそ、新しい泊の礎だと清盛。頭と叫んで、泣き崩れる郎党達。)
(経文を書いた石を船に積む子兎丸。兔丸の遺髪を添えた石を積み、合掌する清盛。それに倣う、子兎丸、桃李、郎党達。兔丸と過ごした日々を回想する清盛。1年の歳月を掛けて完成した大和田泊。宋の国の使者を迎入れた清盛。)
今回は経が島の築造に絡めて、兔丸の死が描かれました。経が島は、平家物語に人柱の代わりに一切経を書いて築いたとある島で、清盛紀行にもあった様に神戸に実在したとされています。
かなり創作色の強い回でしたが、冒頭の千灯供養は実際に行われた事で、久々に現れた西行の歌もその時に詠われたものと言われます。今の様な明かりの無かった頃、千灯の灯火はさぞかし大和田泊の海に荘厳に映った事でしょうね。
そして、宋の国から贈り物と国書が届いたのも事実で、そこには日本国王に贈する物色、太政大臣に贈する物色と記されていたのも史実にあるとおりです。これに対する朝廷の反応は概ねドラマにあったとおりで、国王に賜うとは奇怪であるとされ、また明州の長官からの贈物であった事から送り返す事とされています。しかし、清盛は経宗に働きかけて返書を出す事とし、結果として法皇からも返礼として蒔絵図子、砂金、清盛からは剣などが贈られました。この事について、兼実はその日記の中で強い批判を行っていますが、これによって日宋間に正式な交易が開かれる事になったのは確かです。
禿については、以前にも書いた様に平家物語に拠る創作である可能性が高いのですが、仮に事実であったとしても、ドラマにあった様に平家に拠る独裁が行える程の実力はまだありませんでした。少なくとも、八条院や摂関家を力尽くで黙らせるほどの腕力はまだ無かったはずです。このあたりは、奢る平家を演出する為の脚色でしょうね。
ドラマに戻って、弁慶と遮那王の出逢いに禿を絡めてきたのは新鮮でした。良くあるのは平家の公達と間違えたという演出なのかな。ただ、あの禿達は何をしに出て来たのやら。弁慶と遮那王の実力を恐れて逃げたという設定なのかしらん。訳の判らない演出ではありました。
それにしても、清盛はなぜああも事を急ぐのでしょうか。誰も自分の心の内は判らないと言っていましたが、見ている側にも判らないですね。さすがに兔丸を失って自らの非を悟った様子でしたが、それでも修羅の道を進むという覚悟は変わらない様です。
彼を生き急がしているものとは何なのでしょうね。一つは自らの健康に自信を持てなくなった事が挙げられそうです。彼は福原で寝転がっている事が多いですからね。大病をして、死にかけた事があせりに繋がっている事は間違いないのでしょう。
もう一つは、白河院が言った、頂点を極めたその先にあるものを見てしまったという事なのでしょうか。そこにあるものは上り詰めた者にしか見る事が出来ない世界であり、誰にも理解できない事なのでしょう。清盛はその世界に取り憑かれてしまい、足下が見えなくなっているのかも知れません。
何にしても、その犠牲となった兔丸は哀れでした。彼は清盛の右腕であると共に、若い頃の志を残した良心の象徴でもあったのですからね。それが、平家の奢りの象徴とも言うべき禿に殺されたのは、平家の没落を予見させるものと言えます。
次回は法皇の側にあって平家を支えていた建春門院の死が描かれる様です。法皇との絆が断ち切られ、いよいよ平家の暴走が本格化するという予感がしますね。そして、厳島神社が舞台として描かれるようです。これも、この夏に訪れたばかりですから、私的には楽しみにしているところです。平家の栄華を語るには、相応しい場所ですよ。
| 固定リンク
「義経・平清盛」カテゴリの記事
- 平清盛 第50回 「遊びをせんとや生まれけむ」(2012.12.23)
- 平清盛 第49回 「双六が終わるとき」(2012.12.16)
- 平清盛 第48回 「幻の都」(2012.12.09)
- 平清盛 第47回 「宿命の敗北」(2012.12.02)
- 平清盛 第46回 「頼朝挙兵」(2012.11.25)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント