« 京都・洛中 京都梅事情2012 ~京都御苑 3.10~ | トップページ | 平清盛 第11回 「もののけの涙」 »

2012.03.17

寺田屋事件 ~三吉真蔵日記より~(前編)

(「桂の木の下で」と「薩長同盟の夜」に続く創作の第3弾です。今回は2回に分けて掲載します。)


三吉慎蔵日記より

慶応2年1月19日

薩摩藩大坂藩邸で木場伝内氏から薩摩の船印を借りた我々は、八軒屋の船宿を訪れた。ここで船を仕立てて伏見に向かうのである。同道は坂本氏、新宮氏、池氏の三名。八軒屋では新選組が人別改めを行っていた。前日に大久保越中守に聞いたとおり、京都に向かう坂本氏を捕捉すべく警戒は厳重を極めている。しかし、薩摩藩の名は効き目が抜群で、特に怪しまれる事無く船に乗り込む事が出来た。

船は人足に曳かれて順調に淀川を遡る。途中八幡では淀藩が警戒に当たっていたが、ここでも薩摩藩の船印のおかげで怪しまれる事無く通過する事が出来た。伏見に着くと今度は水口藩が警戒していたが、やはり薩摩藩の名のおかげで咎められる事は無かった。こうして我々は無事に寺田屋に入る事が出来た。

慶応2年1月20日

この日、4人で京都に向かうはずだったが、薩摩藩の都合で3人にして欲しいと言う。やむを得ず、坂本氏、新宮氏、池氏の三名が京都に先行して現地の状況を探る事になった。私は遅れて京都で落ち合う事を約束し、寺田屋に潜伏して京都の情報を待つ事にした。

慶応2年1月21日

我々が伏見に入った事が幕府に知れたらしい。今日は朝から新選組が何度も人別改めにやって来た。その都度、二階の夜具入れや物置に隠れて凌いだが、警戒はとても厳しくなっている。

慶応2年1月22日

一橋公が伏見に来るというので、人別改めが厳重を極める。いよいよ進退窮まったかと思われたが、薩摩人という名目が効を奏し、怪しい者ではないと調べが付いたという知らせを受け、ほっとする。しかし、いよいよ用心しなければと思い、かねて用意してあった槍と拳銃を、寝るときも夜具の中で抱いて寝る。

慶応2年1月23日

坂本氏が京都から帰ってきた。過ぐる21日に桂小五郎と西郷吉之助が談判し、王政復古のための盟約を結んだ事を聞いた。そして、かねて打ち合わせのとおり明日京都まで同道する事とする。近来に無い快事であり、王道回復のために祝杯を挙げることにした。

祝宴は深夜まで続いた。八つ半頃に至り、そろそろ打ち上げと思った頃、不審な気配を感じた。外で六尺棒が鳴るような、からからという音が聞こえたのである。耳を澄ますと、階下でも忍び歩く気配がする。そうこうする内に、坂本氏の妾、お龍さんが部屋に飛び込んできた。素肌に袷一枚というあられもない姿である。お龍さんは、御用改めが来た、階下は捕り方で一杯だと言う。

私は手槍を構え、坂本氏には拳銃を手渡した。坂本氏は拳銃を手に、腰掛けに座る。坂本氏の袴は次の間に置いたままだ。

やがて一人の男が上がって来て、障子を薄く開けた。すかさず坂本氏が、

「何者か。」

と声を上げる。男は障子を開けて中に入って来る。しばし無言でにらみ合っていたが、男はそのまま部屋を出て行った。この隙に、坂本氏はお龍さんに唐紙を取り除けろと言う。お龍さんがそのとおりにすると、唐紙の向こうには手槍や六尺棒を持った捕り方がずらりと並んでいた。中には 盗賊灯を持った男も居る。

やがて先ほどの男がまた部屋に入ってきた。双方無言のまま、また暫くにらみ合った。やがて、坂本氏が声を出す。

「なにゆえ薩摩藩士に無礼をいたすか。」

「調べは付いている。嘘を言うな。」

これをきっかけに、捕り手たちは口々に、

「上意、上意。」

「御用、御用。」

と叫び始めた。彼らは槍や六尺棒を構え、盗賊灯を私たちに向ける。

「疑いがあるなら、薩摩藩屋敷に問い合わせていただこう。」

「何故にかように武器を所持しているか。不審がある。」

「武器を持つは武士の倣い。何の不審があろう。」

「話は奉行所にて聞く。尋常に同道されたい。」

このまま押し問答が続くかと思われたとき、突如坂本氏が拳銃を轟発した。天井へ向けての威嚇射撃だったが、捕り手たちの肝を潰すには十分だった。恐怖に駆られた彼らは、発狂した様に騒ぎ始めた。

「上意、上意。」

「神妙にしろ。」

口々に叫びながら、ある者は手元にあった火鉢を投げ込み、ある者は灰神楽の中を槍を構えて迫って来た。

(以下、後編に続きます。)

|

« 京都・洛中 京都梅事情2012 ~京都御苑 3.10~ | トップページ | 平清盛 第11回 「もののけの涙」 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/14874/54226822

この記事へのトラックバック一覧です: 寺田屋事件 ~三吉真蔵日記より~(前編):

« 京都・洛中 京都梅事情2012 ~京都御苑 3.10~ | トップページ | 平清盛 第11回 「もののけの涙」 »