新選組血風録の風景~胡沙笛を吹く武士 その3~
(慶長19年の大坂の陣の時、時の殿様である南部利直は家康から出陣を命じられた。南部の武士が100騎、200騎と群れをなして上方の地を踏んだのは、これが最初で最後の経験だと言う。)
(しかし、その内実はそんなに勇壮なものではなかった。奥州から見れば、上方は雲煙たなびくはるかな地であり、従軍を辞退する者が続出したのである。ある者は仮病を使い、ある者は暇を願って帰農した。ほとんど動員が不可能になった殿様は、窮余の策として蝦夷を雇った。)
(殿様は、上方に行くとは言わず、甘言をもって彼らを誘い、足軽の格好をさせて大坂にまで連れて行った。大坂の陣での攻め口は加賀前田藩の右翼で、平野川の西岸に布陣した。)
(蝦夷と言えば勇敢で知られる伝説的な種族だった。南部藩では、内心彼らの剽悍な戦い振りを期待していた。ところがいざ戦いが始まってみると、鉄砲の音に驚いた蝦夷達は四方八方に逃げ散ってしまった。彼らにしてみれば、火薬の爆発音というのは初めての経験だったのである。南部の武士達は、戦どころか、彼らを捕まえに走る事で精一杯だった。)
南部氏は確かに大坂の陣に参戦していますが、その時に蝦夷の民を連れてきていたかどうかは定かではありません。話としては面白いのですが、調べた限りでは根拠は無いようですね。でも、地元に行けばそういう話が残っているのかも知れません。
奥州の軍勢が上方に現れたのはこれが最初で最後だとありますが、南北朝の頃に南朝方の戦力として活躍したという説がある様です。それ以外は義経の時代には実力はあったのに攻めてこなかったし、ずっと下って関ヶ原にも参戦していないですね。確かに奥州の軍勢が上方に現れるたのは、きわめて異例の事だったと言えるのかも知れません。
(鹿内は自分の故郷はそういう土地だと言って可笑しそうに笑い、その南部人が花の都に来て今あなたの目の前に居ると言ってまた笑った。小つるは、思い切って好きどすと言った。しかし、鹿内は顔を赤らめただけだった。長い沈黙の後、ようやく鹿内は小つるを押し倒した。)
(鹿内は所帯を持とうとこつるに言った。身寄りの無い小つるには、所帯という言葉が激しく響いた。鹿内に抱かれながら、小つるは様々に計算した。髪結いで貯めた小金があれば貸家の敷金にはなる。隊の手当てがあれば、日々の暮らしも成り立つ。鹿内が助勤になるまでは、非番の時に通ってくるかくし妻でも良い。)
(鹿内に聞くと、隊の手当ては月によって違うが3両はあると言う。それならやっていけるのではないかと言うと、鹿内は躍り上がる様な声を上げて喜んだ。)
隊士の手当ての額については諸説があって、はっきりした事は判っていません。新選組始末記には、局長が50両、副長助勤が30両、平隊士が10両だったとありますが、これは少し多すぎる様です。実際には時期によって異なっていたらしく、壬生の頃には一人あたり3両だったと言われています。まさに、この小説の額と一致していますね。
原田がまさと所帯を持った頃は、原田は月に10両から15両を手渡してくれ、さらに三度の食事も局の賄い方が炊きだしをして、岡持に入れて配っていてくれていたそうです。これは副長助勤の場合であり、かつ原田が自分の取り分を別にしていた可能性もありますから一概には言えないけれども、最盛期にはまずまずの高給取りだったと言えるのかも知れません。
(小つるは、出入りの茶屋や贔屓にしてくれた芸妓の置屋を一軒一軒回って、仕事を辞めるあいさつをして回った。ただ、所帯を持つとは言わず、体の調子が優れないとたげ言った。)
(二人は七条を下がった塩小路に手頃な家を見つけて所帯を持った。ほどなく新選組の隊士が増員になり、鹿内は助勤に抜擢され、暮らしも楽になった。原田も嬉しかろうと喜んでくれた。)
新選組の隊士募集については各時期によって隊士に増減があるため実施されていたと思われますが、いつとは明確には判りません。浅野について言えば、池田屋事件直前には調役並監察に就いていたと思われます。ただし、島田魁の日誌に島田と共に探索をしていたとある事からの推測で、明確に記された資料がある訳ではありません。
また、永倉新八が記した同志連名記には副長助勤と記されており、もしかすると池田屋事件後に助勤となっていた可能性もあります。いずれにしても、池田屋事件の際に副長助勤として参戦したとは考えにくい状況ではありますね。
なお、吉村貫一郎については慶応元年4月の入隊とされていますので、この時期にはまだ隊士とはなっていませんでした。
以下、明日に続きます。
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