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2010.01.18

龍馬伝3 ~偽手形の旅~

「武市半平太の道場。大勢の門人達と共に、龍馬と半平太が形の稽古をしています。稽古が終わり、仲間に明日旅立つと告げる龍馬ですが、江戸は厳しいところだと脅されると、辞世の句でも用意した方が良いかと途端に弱気になります。そんな龍馬に大きくなってこいと発破をかける半平太。仲間に景気づけとばかりに井戸水をぶっかけられ、笑顔で行って来ると応える龍馬。」

このドラマにおいては、この時点では龍馬はあくまで普通の青年として描かれるのですね。取り柄と言えばまさに剣術だけ、あまり仲間からも尊敬されているとは言えないキャラクターですが、これからどういう風に成長して行くのかが見物です。

「役所とおぼしき屋敷で、自分を江戸に行かせてくれと訴える岩崎弥太郎。しかし、地下浪人の息子に過ぎない彼は、全く相手にされません。」

弥太郎もまた江戸に出て安積艮斎の門下に入る事になるのですが、それはこの年から3年後の事です。ドラマでは自分で秀才と売り込んでいましたが、14歳の時に藩主の前で御進講をしたと伝わっており、彼の秀才ぶりは周知の事だった様です。

「とある神社で、龍馬の無事を祈る加尾。そこに龍馬が現れます。彼は自分も加尾が好きだと告げますが、それが女性としてなのか、妹としてなのかは判らないと言い、自分が何者かを知るために今から江戸に行くと別れを告げます。」

「龍馬の家。父と兄が上座に座り、龍馬に修行中の心得を言って聞かせます。その様子を見守る坂本家の女性達。」

父から龍馬に贈られた修行中心得大意とは3箇条からなるもので、片時も忠孝を忘れず修行第一にせよ、諸道具に心移りし、金銭を無駄に消費するな、色情にうつり、国家大事の事を忘れてはいけない、心得違いをするなと認められていました。署名は老父とあり、龍馬はこれを守と書いた封書に納め、肌身離さず文字通りのお守りとして持っていたと伝わります。

この心得の原本は京都国立博物館にあるそうですが、現在霊山歴史館で開催中の「大龍馬展」においてその複製を見る事が出来ます。それはドラマに出てきたものよりももっと太い字で黒々と書かれており、まさしく父の権威そのものといった風格があります。

龍馬と言えどもそこは江戸時代の人、家長の権威は絶対だったのでしょうね。そしてまた、こうした訓戒状を与える事は、当時の父としての愛情表現でもあったのでしょう。龍馬はそんな父親の愛情を、真っ直ぐに受け入れていたのでした。

「溝渕広之丞と一緒に旅立つ龍馬。ふと振り向くと加尾が見送ってくれていました。」

ドラマでは父の知り合いとなっていた溝渕でしたが、通常は龍馬の旧友とされています。あるいは新しい研究が行われたのでしょうか。溝渕は龍馬よりも8歳年上で、江戸では佐久間象山塾で砲術を習っていました。龍馬と一緒に江戸に行ったというのは溝渕家の子孫に伝わる話であり、二人して下駄履きで歩いた気楽な旅であったとの事です。

なお、この溝渕との旅行きについては異説もあり、溝渕が佐久間門に入った日付などから事実とは異なるという研究もあります。

「祖母を看病する半平太。そんな夫に江戸に行きたいのかと問いかける妻。親を大事に出来ない者は武士ではないとたしなめる半平太。」

「国境の山中を行く龍馬と広之丞。その背後を不審な人物が付けてきます。足下に転がり出て来た男を誰何すると、なんと弥太郎でした。彼は江戸行きの手形は貰ったが金がないと言い、龍馬に同行を願い出ます。広之丞は渋りますが、龍馬は断る事が出来ません。」

弥太郎の江戸行きは前述のとおり3年後の事であり、この下りは完全なフィクションです。しかし、個性的な弥太郎の描写が秀逸であり、ドラマとしてはとても面白い演出ですね。

「最初の番所。広之丞と龍馬はすんなりと通行を認められますが、弥太郎は倉田安兵衛と名乗ります。唖然とする龍馬達を尻目に、平然と受け答えをする弥太郎。」

「弥太郎の持っていた通行手形は、彼が偽造したものでした。ばれたら打ち首だぞと問い詰める広之丞に、誰にも見破られる訳がないと自信たっぷりに応える弥太郎。弥太郎を振り切るべく道を急ぐ二人と、後を追う弥太郎。」

「弥太郎の家。ばくちに勝ったと上機嫌で帰ってきた弥次郎でしたが、弥太郎が家を出たと聞き、飛び出していきます。」

「半平太の道場。激しく撃ち合う岡田以蔵に、見込みがある、修行次第では龍馬にも勝てると声を掛ける半平太。感激の声を挙げる以蔵。」

「城下の橋で上士とすれ違い、膝を付き見送る半平太。龍馬が先に江戸に行った事が悔しくて仕方が無い様子です。」

半平太の江戸行きもまた、この3年後の事です。自己負担での修行だった龍馬とは違い、藩からの命令を受けてのものでした。ドラマでは龍馬に嫉妬する半平太ですが、藩内で剣術の師匠としての地位を固めていた彼と、一介の郷士の次男に過ぎない龍馬とでは立場に違いがありすぎ、ちょっと無理がある設定ですね。これから先の展開のための伏線なのかしらん。

「半平太の道場に弥太郎を探しに来た弥次郎。あまりに居丈高な弥次郎は、門弟達と大げんかになってしまいます。」

「平井の屋敷。一人部屋の中で一弦琴を弾く加尾。そこに帰ってきた兄、収二郎。これから縁談先に話に行くという兄に、この話は断ってくれと懇願する加尾。」

一弦琴を弾くところは始めて見ましたが、たった一本でなかなか深い音が出るものなのですね。以前にも書きましたが、加尾は一弦琴の稽古を通じて乙女と知り合いになったとされており、ドラマの様に素養があった事は確かな様です。

「宿場町。宿に泊まった龍馬達と、その目の前の路上で寝ころび、これ聞こえよがしに皮肉を言い募る弥太郎。可愛そうに思った龍馬は、彼を宿に入れてやります。」

「風呂から上がり、ばくち部屋の前を通りがかった弥太郎に、やくざ者が声を掛けます。やくざ達は弥太郎の父に貸しがあり、それを返せと迫ります。宿の者の注進で、弥太郎の危機を知った龍馬は、斬り掛かってきたやくざ者を軽くあしらい、弥太郎を救ってやります。しかし、感謝の言葉も返さない弥太郎。父の言いつけを守れなかったと悄然とする龍馬。」

「弥太郎の家。喧嘩でぼろぼになった父が帰ってきます。弥太郎が見つからなかったと妻の膝に泣き崩れる父。情けなさを込めて、夫を拳で叩き続ける妻。」

「夜、龍馬の父の書き付けをそっと覗き見る弥太郎。起きていた龍馬は書き付けを大事そうに仕舞い、父は自分をとても大事にしてくれている。この書き付けは宝物だと言い、弥太郎の父の思いもきっと同じだと語りかけます。しかし、地下浪人として辛酸を嘗めてきた弥太郎は、金持ちの家に生まれ育った龍馬に、自分の何が判るのかと毒づきます。何も言い返せない龍馬。」

「多度津の番所。広之丞と龍馬はお咎め無しでしたが、弥太郎の手形に不審を覚える関所役人。何とか弥太郎を通して貰おうと頑張る龍馬ですが、書き付けの文字の風格が違うと言われ言葉に詰まります。その時、突然弥太郎が、龍馬達とは赤の他人、ばくちで負けた金を取り返そうとつけ回されているのだと言い募ります。呆然とする龍馬に、突っかかる弥太郎。暴れる弥太郎は役人達に取り押さえられ、龍馬達はやむなく関所を後にします。」

「瀬戸内海を渡る船に乗った龍馬達。弥太郎の安否を気遣う二人でしたが、その船の向こうの岩場に弥太郎が現れます。どうやら彼は、関所から逃げ出してきた様ですね。御前なんか大嫌いじゃと叫ぶ弥太郎に、御前の志も自分が背負って連れて行くと応える龍馬。」

今回は弥太郎の逞しい性格と、龍馬への複雑な思いが描かれた好編だったと思います。むしろ主役は弥太郎なのかも、と思ってしまいますね。香川照之の演じる弥太郎には、これからも要注目ですね。

参考文献:「龍馬 最後の真実」 菊池 明、「坂本龍馬」 松浦 玲、「坂本龍馬 海援隊始末記」 平尾道雄、「龍馬の手紙」宮地佐一郎、「「武市半平太伝」 松岡 司

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