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2007.05.15

新選組血風録の風景 ~鴨川銭取橋その4~

Koudaijisita0606171

(新選組血風録概要)

(翌日、山崎は誓願寺裏の髪結「床与」の主人と河原町四条の餅屋治兵衛を呼び出し、事件当夜に河原町の薩摩藩邸で人の出入りがあったかどうか調べる様に命じた。二人とも新選組の密偵を勤める人物である。)

(夕刻、三年坂で調査を命じた同心から2つの報告があった。一つは当夜三年坂の界隈では武士の会合は一件も無かった事、もう一つは死んだ狛野のなじみであったらしい女が居る事であった。女の名は花といい、高台寺下の借家で暮らしているという。)

(山崎は花の家を訪ねた。花は30を過ぎたばかりの京美人であった。突然の山崎の訪問にしばらく呆然としていた花だったが、問われるままに狛野との馴れ初めを語り始めた。)

(花は三年坂近くにあるあけぼの亭という茶屋に手伝いに通っているのだが、狛野はそこの客であった。狛野ははじめ観柳斎に連れられて来たのだが、次は一人で現れたという。どうやら花が目当てであったらしい。花も狛野を憎からず思っており、二人は自然と結ばれる事になった。)

(山崎は観柳斎の事を訊ねた。花の話に拠れば観柳斎も一元の客だったらしい。彼を案内して来た人物は誰かと重ねて聞くと、彼女は店の奥に勤める下働きだからはっきりとは知らないが、大男で目鼻立ちのくっきりとしたいい男だという。そして、男は薩摩なまりを持っていた。)

・新選組の密偵

「新選組が使っていた密偵の消息については、新選組物語に登場する床伝のエピソードが知られています。床伝は東本願寺近くで床屋を営んでいたとされる人物で、天才的と言われた剃刀の腕を生かして、勤王派の根拠地であった東坊に髪結いとして出入りする事に成功します。そして、巧みな話術を駆使しては勤王派の情報を聞き出していました。」

「床伝の娘「みの」もまた、父を助けて密偵として活躍していました。彼女は女としての体を張って志士達に近づき、寝物語に情報を聞き出していたのです。床伝がもたらす情報は新選組にとって大いに利益になるりものばかりでした。」

「しかし、ある日ついに床伝の素性が知れる日が来ました。勤王派の間でも、みのに近づいた志士達から機密が漏れているらしい事に気づいたのです。彼らは罠を張り、わざと偽りの情報をみのに漏らしました。その情報どおりに幕府方が動いた事を確認した志士達は、すぐに床伝を襲ってその首を刎ねました。そしてみのを河原に呼び出し、みのの眼前に彼女と関係した志士達が勢揃いしてこれを辱めたのです。」

「この話を後世に伝えたのは、東房の住職の娘であり篠原泰之進の二度目の妻となったチマだとされます。このエピソードは長く創作された物語だと思われていたのですが、床伝は和泉屋伝吉という実在の人物だった事を示す資料が見つかり、意外にも事実を伝えているらしい事が判りました。この話をすべて鵜呑みには出来ないでしょうけれども、新選組が髪結いを密偵として使っていたという事実はあったと考えても良いのでしょう。」

・物語の舞台について

「花が住んでいたとされるのは、高台寺下の長屋とされています。高台寺は広大な境内を持っていた大寺でしたが、明治以後は廃仏毀釈の洗礼を受け、さらには土地に課せられる税金を逃れるために、次々と土地を手放して行きました。その土地が民間の手に渡って開発され、貸家などが多く建てられています。その一つが石塀小路で、料亭や貸座敷を念頭に置いた高級貸家街として、計画的な開発が行われました。」

「庶民に向けた長屋も建てられており、その面影は維新の道への登り口付近に残っています。「暗夜行路」で描かれた貸し家を巡る情景は、このあたりを舞台にしていたものと思われます。こうして明治から大正にかけて開発が進み、今の町並みが形成されました。」

「花が住んでいた幕末はというと、二年坂界隈(桝屋町)は江戸時代の半ばに開発されており、また古写真を見ると下河原あたりにも家が建ち並んでいた事が判ります。高台寺の周辺は明治以前においても相当に開発が進んでいた事が窺えるのですが、明治以後はそこに高台寺の境内であった土地が加わって、さらなる広がりを見せたという事なのでしょう。」

「これからすると、花が住んでいたのは下河原界隈という事になるでしょうか。現在の景観から石塀小路や祇園閣、霊山観音や護国神社の鳥居などを除いていくと、当時の情景が浮かび出てくるかも知れないですね。むろん道はアスファルトではなく地道だったでしょうけど、狭い道を挟んだ低い町並みの向こう側に八坂の塔が見えている情景は、今とさほどの違いは無かったものと思われます。」

(参考文献)
子母澤寛「新選組物語」、歴史読本2004年12月号「新選組をめぐる女性たち」

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