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2007.03.04

新選組血風録の風景 ~池田屋異聞その8~

Ikedaya0606171

(新選組血風録概要)

(探索方の隊士は、全て市中にまかれた。山崎は薬屋に変装して池田屋に潜入した。池田屋を選んだのは、最近この旅館に浪士風の男達の出入りが激しいという調べが上がっていたからである。)

(山崎の潜入の仕方は実に手が込んでいた。一旦大阪に下り、大量に薬を仕入れて天満橋の船宿に泊まり込んだ。そして、そこの亭主と親しくなって、池田屋への紹介状を書かせたのである。池田屋ではすっかり山崎を信用し、一室を用意した。)

(山崎は毎日薬の行商に出たから、宿の者も、そして宿泊している尊攘派の志士達もすっかり気を許し、山崎と親しく口をきく様になった。そこは山崎も如才なく、商人らしい応対をしてみせる。)

(山崎は毎日、池田屋に出入りする浪士達の人数や言動、それに生国などを紙に書いて、窓の下に落とした。そこには乞食に化けた同心が寝ており、彼はその紙を拾っては三条大橋へ行く。そこで女乞食に化けている新選組の川崎勝司がその紙を受け取り、夜陰屯所へ運ぶという仕組みであった。)

・「新撰組始末記」作者・西村兼文について

「山崎に依る池田屋への潜入は、長く史実と思われてきました。この作品の下りは、そのまま子母澤寛の「新選組始末記」にあるとおりで、さらに遡れば西村兼文の「新撰組始末記」がその典拠となっています。」

「新撰組始末記には山崎が取った巧妙な手口が具体的に記されており、事実に基づく記述と思われたのも当然と言えるでしょう。しかし、これが全くの創作であった事は広く知られている通りです。」

「山崎のこの活躍が無かったとする根拠は、同時代資料には全く登場しない事、事件後に報奨金を支給された隊士の中に山崎が含まれていない事が揚げられます。さらには、志士達の池田屋への参集は当日の夜に急に決まった事であり、事前に知る事が出来るはずも無かった事もその傍証となるでしょうね。」

「それにしても西村兼文の記述は見事の一言です。西村は一時期新選組の屯所があった西本願寺の寺侍で、隊士との間に様々な交流があった人物でした。新撰組始末記の他にもいくつかの著作を残しており、今で言うならフリーのルポライターというところでしょうか。」

「この西村は西本願寺の人間らしく勤王派で、慶応元年の初め頃には西国に行き、当地の志士達と交流していたようですね。そして、閏5月に京都に戻ってきた時には、新選組が西本願寺に入り込んでいたのでした。彼の記述が新選組に辛いのは、西本願寺を困らせた新選組に対する敵対意識が強かったからなのでしょう。」

「その後は、新選組の中でも思想的に近い伊東甲子太郎とその一派を中心に、隊士達と接触があった様です。ですから、彼が著した新撰組始末記については、慶応元年閏5月以降の伊東派がらみの記述については信用できるものが多いのですが、それ以外の事についてはあやしげな伝聞や憶測が多く混じっている様です。」

「それからすると、池田屋事件については直接隊士から知り得た事柄ではなく、間接的に仕入れた情報を元に書いている事が判ります。山崎が古高捕縛に関して活躍していた事は島田魁日記によって明らかになっていますが、西村はそうした情報を元に話を面白おかしく脹らませていったのではないでしょうか。あるいは、戯作本などに元ネタがあるのかも知れませんが...。」

・新選組探索方

「島田魁日記に依れば、島田魁、浅野藤太郎、川島勝司、それに山崎が古高探索に従事し、手柄があった事が判ります。このうち、川島については、作品中に川崎勝司として登場していますね。」

「川島は池田屋事件に出動し、さらに蛤御門の変においても活躍しているのですが、後に臆病であるとして除隊処分になっています。新選組に除隊制度があった事が判る希有な例なのですが、その後隊の名前を騙って金策をしていた事が判明し、富山弥兵衛の手によって斬首に処せられました。これも新撰組始末記に記されている事なのですが、伊東派の富山がらみの出来事ですので、概ね信用しても良いのでしょうか。」

「新撰組始末記に依れば、さらにもう一人、浅野藤太郎(薫)もまた川島と同じく臆病の廉で除隊になったとされています。そして、やはり隊の名を騙って金策していた事が判明したため、沖田によって斬られたとあります。実に池田屋事件で活躍した探索方の内二人までが、同じ運命を辿っているのですね。ただ、彼に関しては異説もあり、「胡沙笛を吹く武士」の中で触れる事になると思います。」

以下、明日に続きます。

(参考文献)
伊東成郎「閃光の新選組」、子母澤寛「新選組始末記」、木村幸比古「新選組日記」、新人物往来社「新選組資料集」、別冊歴史読本「新選組の謎」、宮地正人「歴史の中の新選組」

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