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2007.02.08

新選組血風録の風景 ~芹沢鴨の暗殺その14~

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(新選組血風録概要)
(一同は密かに前川邸の裏門から出ると、道を渡って八木家の玄関に躍り上がった。そして襖を蹴倒し、屋内へと突入した。)

「芹沢鴨の暗殺は新選組の仕業とされていますが、実のところ、それを証明するのは当夜唯一の目撃者であった八木源之丞の妻の証言だけです。実行犯とされる土方達は黙して語っていませんし、浪士文久報国記事に当夜の様子を記した永倉新八にしても、長くその事実を知らされないままでいました。彼が書き残したものは、維新後に八木家を訪れた時に家人から聞いた話を元に、永倉なりの推測を加味して書いたものと思われます。」

「新選組始末記に記された当日の様子は次のとおりです。この話は八木為三郎が母から後日聞いた話であり、為三郎自身が直接見たという訳ではありません。実は為三郎もその場に居合わせたのですが、肝心な時にはすっかり寝入っており、自分たちが寝ている上で芹沢が殺された事にも気付かなかったのでした。為三郎は全ての事が終わった後で目を覚まし、事件直後の現場を見ているので話が混乱しやすいのですが、芹沢暗殺の目撃者はあくまで彼の母一人です。」

(芹沢達が島原から帰ったのは午後10時頃の事でした。駕籠で門の外まで帰ってきた様子で、芹沢はぐでんくでん、平山は完全に酔いつぶれており、玄関に倒れ込んだまま起きあがれないといった具合でした。普段から酒を嗜まない平間だけがしっかりしており、八木家の男衆と一緒に芹沢と平山を部屋の中まで運び込んだのでした。)

(芹沢と平山が入ったのは玄関から真っ直ぐに入った奥の部屋、為三郎と勇之助の兄弟が寝ていたのはその部屋とは壁を一枚隔て縁続きの西側の部屋、母が寝ていたのは玄関の左手の部屋でした。平間はその反対側の部屋に入りました。)

(12時頃、玄関の障子をそっと開けて入ってきたものがありました。この日の夜は、仲秋も過ぎたというのに蒸し暑く、その上雨でうっとうしいものだから、唐紙は開け放してありました。玄関の障子は、新選組が来てからというもの、夜中でも出入りするものですから、雨戸などはついぞ閉めた事はありませんでした。そんな状態ですから、母の寝ている部屋の中からでも玄関の様子は見えたのです。)

(為三郎の母はまだ寝入って居らず、今時分誰だろうといぶかりました。もしかすると、この日村の寄り合いで祇園へ行っていた源之蒸が帰ってきたのかと気を付けていたのですが、どうも体つきからすると土方の様でした。その土方は、そこだけは閉めてあった芹沢の部屋の唐紙をそっと開けで、中を覗いている様子なのです。よほど土方さんと声を掛けてみようかと思ったのですが、男はすぐにまたそっと出ていったのでした。)

「ここまでの状況説明はさすがに当夜の目撃談だけあって実に具体的で、そっと入ってきたという土方の姿が目に浮かぶ様です。しかし、実際の八木家の現状と照らし合わせると、少し困った事になります。」

「八木家のホームページに八木家の見取り図があるのですが、これと新選組始末記の記述と照らし合わせると、まず平間が入ったという玄関の右手の部屋が見あたりません。子供の寝部屋だったという事なので狭い部屋だったと思われるのですが、もしかしたら明治以後になってから改造されてしまったのでしょうか。どなたかこのあたりの事情についてご存じの方は居ませんか。」

「次に、土方は玄関に上がって唐紙を開けて中を覗いていたというのですが、芹沢が寝ていたのは6畳の中の間を隔てた奥の間でした。しかし、玄関の唐紙を開けただけでは、間に仕切があって芹沢の様子は判らないと思うのですが...。彼等が寝入っている事さえ判れば良かったという事なのでしょうか。」

「さらに、為三郎の母が寝ていたというのは内玄関の事と思われます。確かにここなら本玄関に入ってきた人物を見る事は可能だと思われるのですが、反対に土方の方にしても、そこに誰か寝ていると判るはずと思うのです。土方ほどの敏感な人物が辺りの気配を窺いながら忍び込んでいるですから、隣の部屋から自分を窺っていた母の気配に気づかないはずは無いと思うのですが...。ここが一番の疑問点ですね。」

「また、この証言では、誰がどの部屋で寝ていたかを土方達が知り様がありません。浪士文久報国記事ではその点について補強がされており、島原から帰った後も土方が八木家で芹沢達の相手を務め、それぞれが女と共に部屋に入った事を確かめてから、前川邸に戻ったと記されています。これは永倉が想像で書いたのか、八木家で聞いた事だったのか、どちらなのでしょうね。」

「重箱の隅を突く様な見方ではありますが、わずかな疑問点は残ります。しかし、そこはあえて不問に伏して、明日に続きます。」


考文献
子母澤寛「新選組始末記」、木村幸比古「新選組日記」

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