新選組血風録の風景 ~長州の間者その4~
(新作が通っていた道場のあったとされる場所 柳ノ馬場綾小路下がる)
(新選組血風録概要)
(新選組の入隊考試で沖田総司と立ち会った新作は、わざと力を抜いて自分が受ける評価を低くしようとした。長州藩士と斬り合わないで済む様に、第一線に配備される事を避けようとしたのである。しかし、そのことは沖田に不審を抱かせる元となった。)
(沖田は新作の本当の技量を見抜き、彼がわざと弱く見せようとした事を疑問に思い、その事を土方に告げた。土方は念のために山崎に命じて新作の周囲を探らせた。しかし、特に不審な点は見あたらず、おそのとの夫婦約束の事だけが判っただけだった。)
・新選組入隊時の考試について
「新選組に入隊する際に、武芸に関する試験があったという事は常識の様になっています。大河ドラマ「新選組!」でも、映画「壬生義士伝」でも、考試の場面は出てきましたよね。しかし、実際の隊士募集では、特に試験は行われなかった様です。」
「新選組の末期の事になりますが、稗田利八が江戸で入隊した時の様子が新選組始末記に記されており、そこでは次の様な手順を踏んだ事が判ります。」
「1.募集の場所に行くと、取り次ぎの隊士が出て来て、面談が行われた。」
「2.面談が終わった後、二、三日してから出直してくる様にと言われ、指定された日に出直すと、仲間が20名ばかり集まっていた。」
「3.そこへ江戸へ下っていた土方が現れ、細々とした話があった後、隊士となる事が認められた。」
「4.その日は支度金を貰って引き取り、後日土方と共に京に上った。」
「5.京都の屯所に着いた日に、大石鍬次郎から隊士としての心得を言い渡された。」
「6.翌日、鎖帷子を渡され、武芸自信の者は師名を添えて申し出よと言われた。」
「7.その後、自分の所属を言い渡された。」
「この事から、隊士を選ぶ基準は面接だけだった事が判ります。即決せずに2、3日開けたのは、本人の覚悟を試す為だったのかも知れません。実際にも、面談だけ受けて、指定された日には現れなかった者も多く居た様です。あるいは、この期間は、新選組側において応募者の身元を確認をするために必要な時間だったのかも知れません。」
「そして意外な事に、武芸に関しては一番最後に自己申告をさせていたのです。」
「その代わり、入隊した後の鍛錬は徹底したものだった様です。日々の稽古はもちろんの事、寝込んでいる所に突然切り込んだり、暗闇の中で刃引きをした真剣で立ち会わせたりといった、実戦を重視した訓練を行っていました。そして、どうしても使い物にならない場合は、隊から追放されるという事もあった様です。」
「それにしても一番最後の頃とはいえ、隊士の募集の手順は案外しっかりと確立していたという印象を受けます。新選組も年月を経るに従って、組織化が進んでいたという事なのでしょうね。」
・小説の舞台の紹介(柳ノ馬場綾小路下がる)
「次に上の写真は、新作が通っていた道場があったとされる場所「柳ノ馬場綾小路下がる」の付近の現状です。当然ながら、ここには剣術の道場といったものは現存しません。」
・綾小路通
「綾小路通は四条通の一本南の筋にあたり、平安京から今に続く道の一つです。新選組とのからみで言えば、壬生の前川邸の門前を通る道がそうですね。」
・柳馬場通
「一方、柳馬場通は麩屋町通の二筋西にあたります。この通には天正年間に二条柳町という当時日本一と言われた遊里がありました。通り名の「柳」はそこから来ているのですね。」
「その後、二条城の造営にあたってこの遊里は六条に移転させられたのですが、その跡地で豊国祭臨時例祭の馬揃えが行われた事から、「柳馬場」と呼ばれる様になりました。ちなみに、六条に移った遊里は再度移転を命じられ、島原遊郭となっています。」
・高橋提灯
「綾小路通も柳馬場通も共に一方通行の狭い道で、典型的な洛中の道ですね。繁華な四条通とは違って、商家と民家が入り交じった、これと言って特徴のない町並みです。」
「その中で、ちょっと面白い店がありました。写真の真ん中に写っている高橋提灯がそれで、1730年(享保15年)に創業されたという老舗です。当初は扇子問屋だったのですが、その後提灯業に転じました。京都御所御用達を勤めるという由緒ある店でもあります。」
「実は、東京にある雷門の大提灯を作っているのがこの店なのですね。実際の制作は山科にある工場で行われている様です。何気ない京都の街角にあるこの店が、誰でも知っている東京の名物提灯を扱っているというのも、なかなか面白いものですよね。」
以下、明日に続きます。
考文献
子母澤寛「新選組始末記」、小学館「京都の大路・小路」、伊東成郎「閃光の新選組」
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