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2006.08.19

坂の上の雲の世界 ~愚陀佛庵~

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今松山を訪れると、『「坂の上の雲」を軸とした21世紀のまちづくり』というフレーズを良く耳にします。司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」に登場する3人の松山人、正岡子規、秋山好古、秋山真之の生き様を軸にして、日本一の街作りを目指そうという動きです。具体的には、市内各所にある関連箇所をピックアップし、有機的に関連づける事によって町おこしに繋げようと言うのですね。屋根のないミュージアムというのがキャッチフレーズになっていますが、単なる観光客誘致だけではなく、市民の意識向上から教育環境の改善に至るまでを含んだ、大々的な構想なのですね。これは2008年に放送が予定されているNHKの21世紀スペシャル大河「坂の上の雲」とも連動している様です。

その拠点となるのが松山城周辺のフィールドミュージアムセンターフィールド。松山地方裁判所の東隣に建設されている坂の上の雲ミュージアムが、この構想の中心施設となります。このミュージアムは単なる小説の展示場に止まらず、市内の関連施設に関する情報発信の場として位置づけられている様ですね。総工費30億円と言いますから、さぞかし見事な施設が出来上がる事でしょう。

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このミュージアムに隣接してあるのが「萬緑荘」と「愚陀佛庵」です。「愚陀佛庵」とは、夏目漱石が松山赴任中に下宿していた家の事で、漱石の別号から名付けられたものです。元は二番町という市街地にあり、上野義方宅の離れとして建てられた家でした。漱石は1895年(明治28年)の6月に移って以来、翌年4月に熊本へ転任して行くまでここに住みました。

「愚陀佛は 主人の名なり 冬籠」 漱石

この愚陀佛庵で特筆すべきなのは、漱石と子規が同居していた事実がある事です。子規は明治28年3月から日清戦争の従軍記者として中国に渡っていましたが、その帰りの船中で結核を発病し、兵庫県の須磨の地で療養を余儀なくされていました。そして、わずかに体力の回復を見たため、故郷の松山にて療養生活を続けるべく帰郷します。しかし、すでに子規の実家は人手に渡っていたため、漱石の勧めでその下宿に転がり込んだのでした。同年8月27日の事で、それから52日間に渡る共同生活が始まったのです。

「桔梗生けて しばらく仮の 書斎哉」 子規

愚陀佛庵では、2階に漱石、1階に子規が暮らしていました。この頃すでに子規は俳壇で重きをなしており、松山の俳句結社「松風会」の同人が子規を慕って連日のごとく訪れてきました。そのあまりの賑やかさに漱石は迷惑だった様ですが、次第に自身もその輪の中に入り、俳句の道に目覚めていった様ですね。10月29日、子規は療養生活を切り上げて松山から東京へと向かい、二人の共同生活は終わりを告げました。この間の様子は「坂の上の雲」にも描かれており、親分肌の子規に翻弄されつつも、親友との生活を楽しむ漱石の様子が活写されています。

明治の文壇に偉大な足跡を残した二人が暮らした愚陀佛庵は、残念ながら昭和20年7月の松山大空襲により焼失してしまいました。今の建物は昭和57年に再建されたもので、漱石が最初に下宿した「愛松亭」跡にほど近い現在の位置が選定され、愚陀佛庵に関する各種の資料を駆使して、細部に至るまで忠実に再現されているとの事です。なお、子規記念博物館においても、再現された愚陀佛庵を見る事が出来ます。

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愚陀佛庵が建っているのは、萬翠荘の敷地にあたります。萬翠荘とは、旧松山藩の子孫にあたる久松定謨伯爵が、別邸として建てたものでした。1922年(大正11年)の建築で、愛媛県庁なども手がけた木子七郎という人の設計になります。鉄筋コンクリート造で、地上3階、地下1階、純フランス風という外観はなかなか見事なものがありますね。

現在は愛媛県美術館分館郷土美術館となっており、主として郷土出身の美術家を顕彰する展示会が開かれています。

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館内の一階部分は無料で公開されており、大正ロマンの香りのする洋館の雰囲気を味わう事が出来ます。このステンドグラスは階段の踊り場の壁面に嵌められているもので、ハワイから輸入したものだそうですね。何故ハワイに特注したのかは判りませんが、玄関から入ってすぐのところにあり、一際目を惹く見事なものです。

「坂の上の雲」は司馬作品の中でも傑作の一つで、青年期にあった日本の苦悩と、苦闘の果てにようやくたどり着いた栄光が描かれています。松山も、向上心に溢れる明治の日本の精神にあやかって街作りを進めようとしており、大河ドラマの放映時には大勢の観光客で賑わう事でしょうね。ただ一点、このキャンペーンが戦争賛美の方向に向かわないかだけが気掛かりです。

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コメント

昔の建築物ってどうしてこんなに味があるんでしょう。
いい仕事してますよねぇ(*^_^*)

投稿: Milk | 2006.08.20 16:46

Milkさん、コメントありがとうございます。
洋館と言えば神戸の異人館が有名ですが、萬翠荘も負けてはいません。
観光で訪れる人は少ない様ですが、
もし松山に行かれたら是非寄ってみられると良いと思いますよ。

投稿: なおくん | 2006.08.20 19:45

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