京都・洛東 真葛ヶ原 ~双林寺~
わが恋は 松を時雨の染めかねて 真葛ヶ原に風さわぐなり 慈円 (新古今和歌集)
京都・円山公園の南、野外音楽堂の東に、公園の飛び地の様な一角があります。ここが真葛ヶ原と呼ばれる所で、鎌倉初期の天台座主慈円僧正が詠んだ歌により、和歌の名所として有名になった場所です。往時の真葛ヶ原は、その名のごとく葛や茅の生い茂る原野であり、東山から流れ出る菊渓川の氾濫原でした。範囲も今よりずっと広く、知恩院の三門のあたりまでの一帯を指していた様です。
その真葛ヶ原にある小さな寺が双林寺。京都屈指の観光ルートの中にありながら今は忘れられた様になっていますが、かつては都屈指の繁栄を誇った大寺でした。
双林寺の創建は805年(延暦24年)に遡り、伝教大師の開創と伝えられます。(御本尊の薬師如来もまた伝教大師作と伝えられ、重要文化財に指定されています。)延暦寺の建立後はその別院となり、鎌倉期には数万坪の境内に17の子院を有する大寺として栄えました。平安時代末期の歌人として知られる西行法師も、この地で修行を積んだと伝えられています。しかし、南北朝の動乱によって荒廃し、一度は再建されたものの、応仁の乱によって再び灰燼に帰してしまいます。そして、1584年(天正12年)に豊臣秀吉がこの地で花見を催した事を期に、秀吉の手によってやっと本堂が再建されました。
どうにか一息をついた双林寺でしたが、その後は次第に衰退の一途を辿ります。1605年の高台寺の創建、1653年の東大谷廟の造営にあたってそれぞれ寺域が削られ、境内のかなりの部分を失ないます。そして明治になると円山公園の整備によって、さらに大正期には野外音楽堂の建設によって境内が縮小し、現在では本堂と飛び地境内である西行堂を残すのみとなってしまいました。
今はほとんどの人が、真葛ヶ原と聞いてもピンと来ない事でしょうね。東大谷墓地への入り口と言った方が判りやすいかも知れません。双林寺にしても参道に墓石の見本が並べられており、一見して石屋なのか寺なのか判らないといった状況にあります。境内には頓阿法師、西行法師、平康頼の供養塔もあるのですが、ほとんど知る人も居ないでしょう。観光に力を入れる気は無い様に見受けられますが、せっかくの由緒ある寺が埋もれているのは残念な気がします。
真葛ヶ原は西行法師が、
願わくば 花の下にて春死なん その如月の望月の頃
と詠んだ場所とも言われ、かつては桜の名所として知られていました。また萩の名所だった事もあり、近年これを再現しようとした事もあったのですが、残念ながら失敗したらしく、萩の木は根付いていない様ですね。正直に言って殺風景な場所なのですが、わずかに一群の紫陽花が植えられており、今の季節には見事な花を見せてくれています。
西行堂の前には、いつ頃作られたのかは判りませんが、高台寺から清水寺に向かう人のための道しるべが置いてありました。「左へ左」という面白い案内の仕方ですが、確かにこの場所からなら、ひたすら左の方向に行けば清水寺に行き着きますよね。ただあんまり目立っていないので、どれだけの人にこの道しるべが役に立って来たのかは定かではありません...。
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コメント
はじめまして、雙林寺住職です。
いつも、ホームページにてご紹介くださり、ありがとうございます。
この写真はおそらく、17日午前ではないかと思われます。
次回お越しのときは、ぜひにお声掛けくださいますよう、お待ち申し上げております。
合掌
投稿: パンチ和尚 | 2006.06.21 00:23
パンチ和尚さん、コメントありがとうございます。
まさか、ご住職直々にコメントを頂けるとは、なんとも恐縮です。
また、ホームページ開設の際にはお世話になりました。
この写真を撮っている時、
玄関でお話をされていたのがパンチ和尚さんだったのですね。
ちょっと取り込んでいる雰囲気がありましたので、
外観だけを撮らせて頂いて退散いたしました。
本文中には余計な事を書いてしまいまして、申し訳ありません。
ただ、写真を撮っている時、道に迷ってやってきた様な人達が居まして、
双林寺を目の前にしながら、ここには何もないなと言いながら帰って行ったのです。
今までこういうパターンを何度も目にしていまして、
せっかくの由緒ある寺なのに、これではちょっと寂しいと思った次第です。
他意はありませんが、失礼の段がありましたらお許し下さい。
投稿: なおくん | 2006.06.21 18:27