ねこづらどき版「新選組!!土方歳三最期の一日」13
総裁に話があると切り出す土方。あんたとは一度話がしたかったと軽く受け流し、ワインの入ったグラスを勧める榎本。西洋の酒はやらないとにべもない土方。ではこれをとサンドウィッチの皿を差し出す榎本ですが、土方は嫌悪感も露わに顔を背けてしまいます。やむなく皿を引っ込めた榎本は、西洋カルタをしながら片手で食べる事が出来る様にと発明されたのがサンドウィッチだと講釈を始めますが、土方は日本には握り飯があると取り合いません。
あくまで西洋の食物を拒否する土方に、榎本は、西洋を嫌いながら髷を落とし、洋服を着ているのはどういう訳かと問いかけます。これに、西洋が嫌いな訳ではなく、西洋かぶれが嫌いなのだと答える土方。洋装にしたのは戦の時に動きやすく、髷は手入れに手間が掛かる、無駄を省いただけだと続ける土方に、それが西洋流の考え方だ、私たちは似たもの同士なのだと語りかける榎本。しかし、土方は榎本の口ひげをとらえ、そんな手入れに手間の掛かる事をしていて無駄の無い西洋流と言うのは聞いて呆れる、西洋の形ばかり真似ている榎本と理に適ったものを受け入れている自分とではまるで違うと同意しません。
あまりに頑なな土方の態度に辟易したのか、榎本はまあいいやと言いながら白けた表情で自分の席に着きます。しかし、榎本もさるもので、サンドウィッチを一つつまんで口に入れると、旨いよとなおも土方に勧めます。その榎本の態度に業を煮やした様に、降伏を撤回しろと榎本に詰め寄る土方。出来ない相談だと一蹴する榎本。ならば仕方が無いと言って刀を抜き放ち榎本に突きつける土方。榎本は表情も変えずに、斬りたければ斬るが良い、しかし、その前に私を斬った後どうするつもりか聞かせてくれと土方に尋ねます。おまえを斬った後で、自分が全軍を掌握すると答える土方。それは無理だ、この部屋を出たとたんに捕まるのがオチだと反論する榎本。その時は腹を切るまでと言い切る土方。
土方の決意を知り、そう来たかと少し退く榎本。俺は本気だと更に刀を突き出す土方。しかし、榎本はひるまず、それでは自分は全くの無駄死にになる、それはつまらないから、私を斬るのはやめてこの刀を引きなさいと言って、土方の刀の峰を軽く叩きます。無言でその手を払いのける土方。呆れた様に、どうしても降伏しないと言うなら、どうするつもりかと土方に問いかける榎本。まだ勝機はある、自分に100人の兵を預けてくれれば、形勢をひっくり返してみせると答える土方。それは無理だと言下に言い切る榎本。あまりに明快な答え方に、なぜだと訝る土方。椅子から立ち上がり、おまえさんには、はなから勝つ気なんてまるでねえからだよと、一転して江戸っ子のべらんめえ調で語り始める榎本。彼は、この戦に勝ち目が無いのは、誰よりも勝ち方を知っているあんたが一番良く判っているはずだと話しかけながら土方に向かい、あんた死にたいんだろうとズバリと言ってのけます。図星を衝かれたのか、凝然と榎本を見つめる土方。榎本は突きつけられた刀を押し下げながら、あんたは死に場所を求めているだけだ、そんな物騒な奴に大事な兵を預けられるかと土方を一喝します。
虚を突かれたように呆然としていた土方でしたが、すぐに気を取り直して、どうしても降伏するつもりかと再び榎本に刀を突きつけます。いまさら薩長に頭を下げるつもりはないと言う土方に、今斬られなくても私は明日腹を切る、自分の命と引き替えに皆の命を救ってくれと頼むつもりだと答える榎本。事の意外さに驚く土方。私だって本気だ、だからそいつを下げてくれねえかと言われ、忌々しげに刀を収める土方。せっぱ詰まった土方は、榎本の前に跪き、自分一人で良いから突撃させてくれ、自分が死んだ後で降伏でも何でもすれば良いと頼みますが、榎本は自分以外の誰も死なせないと決めたんだとその申し出を断ってしまいます。俺はどうすれば良いんだと叫び声を上げる土方に、どうするかねえと言いながら近づき、まずワインでも飲みなよと言ってグラスを渡し、知らないねえものを一度は試しておかないと了見を狭くするよと話しかける榎本。
「榎本軍が降伏するかも知れないと聞いた時に、土方が言ったとされる言葉があります。
「我、近藤昌宜とともに死さずは、すなわち一に故主の怨をすすがんと欲せしむのみ。万一、赦に遇う、何の面目をもって地下における昌宜にまみえんや。」
ここで言う故主とは近藤の事を指し、自分は近藤の恨みを晴らすためにだけに生きてきたのだ、万一、降伏を許されてしまったら、あの世で近藤に会わせる顔がないという意味ですが、ドラマの中でも永井に対して同じ様なセリフを言っていましたよね。実際には、土方が新政府軍から降伏の打診があった事を聞いた時に言った言葉らしく、誰に対して言ったのかは判っていません。しかし、ここからは土方の武士としての意地がひしひしと伝わってきますよね。ちなみに、榎本が降伏を決意するのは、土方が戦死してから後の事です。
また、二股口の戦いに際しては、
「我が兵に限りあり、官軍に限りなし。いったんの勝ちあるといえども、それついに敗れん、鄙夫すらこれを知る。しかるに吾、任ぜられて敗るるは、すなわち武夫の恥なり。身をもってこれに殉ずるのみ。」
と語ったと伝えられます。
ドラマで榎本が言っていた様に、土方はこの戦いに勝ち目が無い事を知っていました。頼みの綱の開陽が沈み、蝦夷地以外の日本中が新政府の手に落ち、外国もまた新政府を正統な政権と認めるに及んで、函館政権を援助しようという勢力は地上のどこにもなく、完全に勝機を失っていたのです。
土方は全てを熟知しており、なおかつ降伏の意思は毛頭無く、敗れれば死ぬ覚悟でした。しかし、だからと言って、死に場所を求めていたというのは少し違う気がします。土方は、戦って勝つ事を宿命付けられた武将として、使命を全うしようとしていたのではないでしょうか。死に方よりも、生き様を貫こうとしていた。銃弾に撃たれて死ぬその直前まで、土方は最善を尽くして戦い続けようとしていました。そのあたりについては、その下りにまで進んだ時に触れたいと思います。」
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コメント
そうです。
土方は生き様を貫こうとしていたのです。
私もそう思います。
投稿: merry | 2006.01.25 16:15
このあたりの展開は、ラストサムライに似ていますよね。
土方は最後まで侍である事を貫いたのだと思います。
投稿: なおくん | 2006.01.25 20:08