ねこづらどき版「新選組!!土方歳三最期の一日」15
会議室に集まった指揮官の面々。共通しているのは、硝煙によって黒く汚れた顔。疲れ切ってうたた寝をしている者、うつろな表情で呆然と座っている者、闘志を剥き出しにして今にも噛み付きそうな顔をしている者など様々です。そこに入ってくる大鳥、榎本、土方の3人。注目!と号令を掛ける大鳥。その声に反応して、一斉に立ち上がる指揮官達。彼等を前にあいさつを始める榎本。彼はここまで戦ってきてくれた事に礼を言い、戦は今日で終わりだと降伏を宣言します。水を打った様に静まりかえる会議室。その中から、本当に降伏するのかと飛び出してきた者が居ました。勝っているのに降伏しなければいけないのかと土方に訴えたのは、二股口で共に戦った指揮官なのでしょうか。それをきっかけに、関を切った様にまだ戦える、共に戦おうと言って榎本の足下に殺到する指揮官達。事の意外な成り行きにとまどう榎本。その横で、悔しさを噛みしめながら、黙ったまま座り込む大鳥。その横顔に気付く土方。
「指揮官達の顔が黒く汚れていたのは、二股口での激戦の後に、フランス人指揮官であるホルタンが仲間のブリューネに宛てた手紙の中で、「味方の人、火薬の粉にて黒くなり、あたかも悪党に似たり」と書いているところから来た演出でしょうね。この時は16時間にも戦いが及び、休む間もなく鉄砲を打ち続けた結果硝煙で顔が真っ黒になってしまったのですが、その後も前線の将兵達は、顔を洗っている暇もないほどの激しい戦いを続けているという事なのでしょう。いかにも最前線で戦っているという雰囲気は出ています。後方で髭の手入れをしていた榎本とは好対照な姿ではありますね。だからこそ、土方も最初は榎本を嫌っていたという事なのでしょうね。」
会議室を出て、自室に戻るべく廊下を歩く榎本。その背後から、何も思わないのかと声を掛ける土方。土方には背を向けたままですが、榎本の表情にはありありと動揺している様子が浮かんでいます。しかし、その揺れる気持ちを押さえながら、すでに決まった事だと絞り出す様に答える榎本。その声に被せる様に、降伏はするなと叫ぶ土方。その言葉に反応してしまったのか、一瞬言葉を失う榎本。しかし、すぐにいつもの冷静な顔にもどって、さっきまでの話はなんだったんだと言いながら振り向きます。俺たちは大事な事を忘れていたと言いながら榎本に近づく土方。そして、俺は死に場所の事ばかりを考えてきた、あんたは降伏の事ばかりを考えてきた、しかし、大事な事はあきらめないという事だと気付いたと語りかけます。さらに、あんたは馬鹿なロマンチだ、だが俺はもう一人のロマンチを日本一の武士にする為に人生を費やした、どうやら俺はそのロマンチとやらに付き合うのが性に合っているらしいと言い、俺はあんたの夢に賭けることにすると榎本に告げる土方。夢は終わったと言ったはずだと答える榎本。いいや、終わっていない、夜が明けるのはまだまだ先だ、これから俺たちは生きる為に戦うんだと説得を続ける土方。その言葉に、遂に心を動かされた榎本。判ったと言う代わりに、ロマンチではない、ロマンチストだ、変なところで切らないでくれと間違いを訂正します。知った事かと土方。ここは俺に任せてくれと言う土方に、中身次第だと答える榎本。まずは軍議だと会議室に戻る土方。その背後から、どうやら私の見立ては間違っていたようだと声を掛け、君こそ筋金入りのロマンチだと告げる榎本。まんざらでもなさそうに、にやっと笑う土方。
一人会議室に残っていた大鳥。彼は勝ちたいとつぶやき、ふらふらと立ち上がって、立体地図の前まで歩み寄ります。そして、将棋の盤面を見るかの様に地図を見つめ、彼我の形勢を比べながら香車の駒を手に持って策を練ります。その駒を地図に置こうとして、うっかり床に落としてしまう大鳥。その駒を拾おうと腰をかがめた時、榎本と土方が入ってくる気配に気付きます。
大鳥が隠れているとも知らずに入って来る二人。葡萄酒やサンドウィッチを勧める榎本ですが、土方は地図の前に立ち、話しかけないでくれとにべもありません。白けた表情で椅子に座る榎本ですが、すぐに君は新選組に居た時もそうやって策を練っていたのかと問いかけます。池田屋に切り込んだ時もと聞かれ、あの時は俺と山南さんとで考えていたと答える土方。山南と聞き、誰だそれはと聞き直す榎本。江戸に居たころからの仲間だ、俺が全体の策を考え、そいつが細かい陣割をする、それが新選組のやり方だったと答える土方。では、私がその山南さんの代わりをするとしようと地図を眺め出す榎本。その榎本を見て、無理だと一言で拒否する土方。驚いた様に土方を見つめ、プライドを傷つけられた様にため息をつきながら地図から離れる榎本。その背中に、あんたはあんたで良いんだとフォローしてやる土方ですが、とつぜんプっと吹き出してしまいます。その笑いに反応して、何が可笑しいんだと振り向く榎本。これまでは死ぬためにこの地図を見てきた、今は生きるためにこの地図を見ている、同じ地図なのにまるで違って見えると土方。そして、決まったと言って、榎本と二人だけの軍議の開始を宣言します。
土方の考えた策とは、桶狭間戦法。函館は天然の要塞と言われ、南には城壁の様な函館山、港には軍艦があり、町を見渡す高台には新選組が控えていました。これだけ守りが堅ければ易々と上陸は出来ず、後方には憂いはありません。一方、新政府軍は北と西から3方に別れて攻めて来る。目標はここ五稜郭。土方は首に巻いたマフラーを外して両手で広げて地図の上に乗せ、敵は数に任せて帯の様につらなってここを襲うと予測します。どう防ぐと聞く榎本に防がないと答える土方。彼は数に対して数で対抗すれば、少ない方が負けるに決まっていると言いながら、広げたマフラーを榎本に持たせ、数が多いほど小さなほころびは見えなくなる、俺たちはそこを衝くと言って、手にしていた笄(こうがい)をマフラーの解れ目に突き立て、縦に引き裂きます。信長が今川勢を破った時と同じく、少ない兵しか持たない者は、その少なさを生かして攻めるしか無いと説く土方。だから桶狭間戦法かと得心した榎本。土方は、新政府軍が知らない間道を使って全軍の背後に回り、手薄になった富川にある敵の本陣を襲い、総参謀である黒田清隆を斬るという策を示します。兵はわずかに50。少数にしたのは機動力を重視したからでした。黒田を斬った後、土方達は指揮系統を失った新政府軍の背後を襲う。五稜郭からは榎本が主力を率いて正面を衝く。挟み撃ちにされた新政府軍は混乱に陥り、大軍の利を失って敗れざるを得ない。土方の作戦を聞いて、勝てそうな気がしてきたと榎本。良く考えついたな感心する榎本に、こっちに来てからは陸の上で負けた事が無いのでねと得意そうな土方。やつらは、土佐だの薩摩だのが集まって出来た鵺だ、その鵺を最後は人が倒すと、かつての試衛館での山南の言葉を思い出しながら語る土方ですが、榎本には何のことだか判りません。土方は改まって、総裁と榎本を呼び、この戦は勝てると語りかけます。生きるための戦いだなと念を押す榎本と、そうだと答える土方。
榎本は、土方が出ていった後の全軍の指揮を大鳥に任せてはどうかと言い出しますが、土方はあの人は自分の策には同意しない、ここは総裁にやってもらうしか無いと答えます。しかし、榎本は、ここは本人に聞いてみようと言って、あんたはどうなんだいと大鳥に声を掛けます。それに答えて、刀を杖にして、机の下からはい出てくる大鳥。ばつの悪そうな大鳥と驚く土方。何をしていたと毒づく土方に、総裁に録でもない事を吹き込んだら切り捨てるつもりでいたと答える大鳥。そして、これ以上も無いというほどの録でもない策をきかせてもらったと言いながら、刀を腰に差して土方に向き合います。殺気を感じたのか、刀の柄に手を掛ける土方。一歩前へ進み出る大鳥の肩を持ち、よせと引き留める榎本。しかし、大鳥は意外な行動に出ました。礼を言うと言って土方に頭を下げたのです。何の事だと驚く土方に、総裁をもう一度戦う気にさせてくれたと答える大鳥。そして上着の内ポケットから香車を取り出し、地図の反対側に回って五稜郭の前にその駒を置き、守りは俺の専門だ、存分に戦ってこいと土方に声を掛けます。土方もまた、さっき総裁が降伏すると言った時、あんたは誰よりも悔しそうな顔をしていた、計算だけの男には出来ない顔だったと大鳥を見直した事を教えてやります。そして、後は任せたと大鳥に託す土方。だまってうなずく大鳥。間に入って、自分を抜きにして心を通わすのは止めてくれと嬉しそうな榎本。
山中の急斜面を上り続ける新政府軍。
明日の戦いに勝てば、新政府軍を追い返したという事実が残る。そうすれば、やつらも少しは考えて、未開の土地の開墾ぐらいは認めてやろうと言い出すかも知れない。そうなればしめたもので、我らが新しき国の誕生だと明るく語る榎本。その国では、近藤勇は罪人では無いのだなと念を押す土方。この国の礎になった英雄の一人として、未来に語り継がれると榎本。だまってうなずく土方。右手を差し出す榎本。そのあいさつに何の意味があると渋る土方。榎本は、これからはこれがこの国のあいさつだと土方を促し、嫌々ながら応じる土方。榎本は大鳥に目配せをすると、始めは驚いた大鳥ですが、すぐに二人の手の上に自分の手を重ねます。さらにその上に左手を重ねる土方。
指揮官達に、明日の戦いの指示を出す大鳥。無茶をせず、余力を残しながらじりじりと下がり、敵を引きつけよと叫ぶ声を聞きながら、目をつぶってつかの間の休息を取る土方。
崖を上り続ける新政府軍。
遠くから響いて来る砲声に目を覚ます土方。北だと大鳥。斥候を出せと命ずる榎本。
その砲声は、新選組の本陣にも届いていました。始まったなあと北の空を見上げる島田。
「土方の考えた桶狭間戦法は、全くのフィクションです。残念ながら、そんな策を取る余裕はもう無かった様ですね。ただ、これに似た戦法は二股口の戦いにおいて土方が採用しています。敵の大軍が嵩に懸かって攻めてきた時、土方は数に対して数で対抗しては少ない方が必ず敗れると言って、奇策を考え出しました。彼は25人の勇士を募り、険しい山中を迂回させて敵の背後を襲わせたのです。不意を突かれた敵は算を乱して敗走し、土方軍は大勝利を収めたのでした。ドラマでは、この戦いを五稜郭に持ってきたのですね。
この戦いに勝てば未開地の開拓ぐらいは認めてくれるだろうという見通しを語っていた榎本でしたが、彼は蝦夷地上陸直後に、新政府に対して旧幕臣に依る蝦夷地開拓を認めてくれる様に嘆願書を提出しています。自分たちの手による開拓を認めてくれるなら、見返りとして日本の北辺の守りを請けおうという内容でしたが、これは完全に無視されてしまいました。ここで勝ちを収めたら、新政府軍もこの嘆願を受け入れざるを得なくなるという事なのかも知れませんが、正直言って甘い見通しだと言う他はないでしょうね。仮に黒田一人を倒したとしても新政府軍にはその代わりと成りうる人材が幾人も居り、唯一の主君である義元を倒された今川勢とは訳が違います。一度は追い返せたとしても新政府による攻勢が止むとはとても考えられず、結局は降伏せざるを得なかったでしょうね。まあ、それを言ってしまってはこのドラマが成り立たないのですけど...。
新政府軍に依る函館総攻撃が始まったのは5月11日の早暁の事でした。攻撃はまず海軍による艦砲射撃から始まり、同時に七重浜、大川口での戦闘が開始されています。」
以下、続きます。
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コメント
じわじわと新政府軍が忍び寄って来ていますね。四面楚歌とは、このような状態をいうのでしょうか。
今日はここまで録画を見ました。
続きはまた明日です。
投稿: merry | 2006.01.25 16:38
5月11日の函館政権は、
まさに四面楚歌の状態だった事でしょうね。
そんな中でも戦い続けた土方達を思うと、
切ない気持ちになってきます。
投稿: なおくん | 2006.01.25 20:18