ねこづらどき版「新選組!!土方歳三最期の一日」12
榎本の部屋。君と大鳥は会えばいつもいがみ合っている、実に愉快だと言いながら棚からワインを取り出す榎本。険しい表情で座っている土方。その前に置かれているのはサンドウィッチの皿。総裁にはすまないが、あの男はと言いかける土方を制して、大鳥はいつも勝っている君をやっかんでいるんだととりなす榎本。そして、我が軍は君と大鳥のおかげで今までやってこられた、間違いなく日本で最強の軍隊だと二人の功労者を立てながら、グラスにワインを注いでいきます。そう言いながらも、後は天気さえ味方していてくれたらこんな事にはならなかったと後悔の言葉が口を衝いて出るのは、やはり新政府軍には負けたくはないという本音の表れなのでしょうね。
「天気が味方をしてくれていたらというのは、榎本艦隊の主力であった開陽が、江差沖にて暴風雪に巻き込まれ、座礁した挙げ句に沈没してしまった事を指しているのでしょうね。開陽は当時最新鋭の軍艦で、この一艦があれば日本の制海権を押さえられるとまで言われた船でした。榎本が蝦夷地における新政権樹立の構想を建てたのは、一つにはこの開陽があったからであり、彼の自信の根拠となっていました。明治元年11月15日に開陽が沈んだ時、榎本は「闇夜に灯りを失うがごとし」と嘆いたと言いますが、この沈没は元はと言えば彼の判断ミスから起こった事故でした。
開陽は江差に籠もる新政府軍を砲撃すべく函館から出撃したのですが、この敵は松前からの敗残兵であり、陸軍だけで十分に打ち破る事が可能な相手でした。海からの援軍などは必要なかったのですが、榎本は大雪が降る悪天候を衝いてあえて出航させています。これはなぜかと言うと、蝦夷地上陸以来、戦っているのは陸軍ばかりで、海軍の出番はありませんでした。このため、海軍の将兵の間で不満が高まっており、その気分を鎮めるために江差へと向かったのです。榎本は、将兵の不満を解消するには大砲の2、3発も撃たせれば十分だろうと軽く考えていたのですが、冬の北の海の猛威は彼の想像を遙かに上回っていました。
江差の沖合にて暴風雪と荒波に晒された開陽は、蒸気機関を目一杯焚いて流されない様に耐えていjました。しかし、午後10時頃、開陽を海底につなぎ止めていた碇が切れてしまいます。こうなると蒸気機関の力をもってしても抵抗は不可能で、開陽は陸地に向かって押し流され、岩礁に乗り上げてしまいます。榎本は、座礁した側の砲を一斉に放って、その反動で抜け出そうと試みますが上手く行きません。それどころか、開陽を助けようとして近づいた神速までが転覆してしまうという始末で、榎本は遂に開陽を放棄する事を決意し、総員退去を命じます。その後、荒波に揉まれ続けた開陽は、数日の内に跡形もなく砕け散ったと言います。
この事故の第一の責任は榎本にある事は明らかです。将兵の不満を鎮めるという理由で無用の出撃を強行し、その挙げ句に北の海の天候と江差の地形を読み誤って、2隻の船を沈めてしまったのですから。ドラマでは天気が味方してくれたらと嘆いていましたが、実際には自らの判断ミスが招いた災いであり、自業自得の結果と言えそうです。
(追記)
天候に恵まれなかったと言えば、甲鉄艦を奪い取りに行った宮古湾海戦も含まれますね。この時は、回天、蟠龍、高雄の3隻で出撃し、甲鉄艦への接舷攻撃は蟠龍と高雄の2隻が担当する予定でした。ところが、航海の途中で荒天に遭い、3隻の船はばらばらになり、高雄はそのまま行方不明、蟠龍はかろうじて宮古湾に到着したものの機関の故障を起こして攻撃への参加を見送らざるを得なくなりました。結局、最初の予定になかった回天が接舷攻撃を行う事になったのですが、外輪船の回天は接舷攻撃には不向きで上手く行かず、作戦は多数の死傷者を出しただけで失敗に終わっています。その後、回天と蟠龍は函館に帰る事が出来ましたが、高雄は捕捉され、最後は船を自焼した上で乗員は投降しています。この作戦については、もしも好天に恵まれていたらどうなったか判らないという意味では、榎本の嘆きももっともかも知れませんね。」
以下、続きます。
この項は、木村幸比古「新選組日記」、別冊歴史読本「新選組を歩く」、「新選組日誌 コンパクト版 下」を参照しています。
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コメント
そうですね~。
江差沖での開陽の座礁、宮古湾海戦での甲鉄奪還の失敗・・・両方 海が荒れていたために計画が狂いましたね。
まるで神に見放されたような・・そんな悲劇です。
投稿: merry | 2006.01.25 16:10
歴史に「if」は付き物ですが、
開陽が沈まなかったら、
甲鉄艦を奪い取っていたらと思わずにはいられませんね。
負ける時はこんなものなのかも知れませんが、
あまりにもツキが無さ過ぎたという気がします。
投稿: なおくん | 2006.01.25 20:06