ねこづらどき版「新選組！！土方歳三最期の一日」３

土方の戦線復帰

治療を終えて戦線に復帰した土方について、島田魁日記及び中島登覚書の双方ともに全快したと記されていますが、実際には最前線に立てるほどには回復しきっていなかった様です。新選組は長沼口を経て町守屋へと向かい、そこで陣を休めていますが、土方はこの部隊の指揮を執っていなかった様ですね。

母成峠の戦い

町守屋に暫く止まっていた新選組は、１８６８年（慶応４年）８月１日に仙台口に向かう様に命令を受けますが、二本松城、三春城が共に落城したために出陣を見合わせ、三代、中地、船津の３カ所に別れて休陣します。そして、８月１８日に猪苗代に転戦し、さらに翌１９日には母成峠へと出陣が命じられます。この時期の土方が直接新選組の指揮を執っていなかったらしいと判るのは、この１９日に福良に居たとする日記が存在するからなのですが、これからすると母成峠へは行っていない可能性が高そうですね。

この母成峠は、会津の防衛上最も重要とされた地点であり、ここが落ちれば城が落ちると考えた旧幕府軍は、石筵、将軍山、母成峠の三陣を張って新政府軍を迎え撃とうとします。新選組は５０名の兵力で、伝習隊と共に勝岩という渓谷に陣を構えていました。母成峠は急峻な地形をなし、守備側に有利なはずだったのですが、いかんせん戦力がわずか８００に過ぎず、この兵力で護るには広すぎると大鳥圭介は危惧していたようです。そして、その危惧は現実のものとなり、２１日に２６００の兵力でもって新政府軍が押し寄せると、旧幕府軍は至る所で不利となり、戦闘開始からわずか７時間で先陣を払って将軍山へと後退する事になります。兵力差もさる事ながら、この日は濃霧で、新政府軍は巧みにその霧を利用して旧幕府軍の背後に回って奇襲するなど、用兵面でも新政府軍の方が勝っていた様ですね。ちなみに、新政府軍の指揮官は名将として知られた大山弥助（巌）であり、後に日露戦争の現地における総司令官として名を残す人物です。

翌２２日には完全に母成峠の陣が突破され、旧幕府軍は猪苗代城へと敗走する事になります。この猪苗代城は若松城と対をなす重要な支城で、土方は２１日の夜に会津藩の家老と第一砲兵隊長宛に猪苗代にまで援軍を派遣するよう要請する手紙を書いており、ここで迎撃するつもりだったようですね。しかし、旧幕府軍はこの城で踏み止まる道を選ばず、火を放って城を放棄し、そのまま会津城下へと逃げ込んでいます。途中、日橋川に架かる十六橋を落として新政府軍の進撃を防ごうとしたのですが、これも間に合わず、新政府軍はあっという間に会津城下に迫る事になりました。

白虎隊の悲劇

有名な白虎隊の悲劇があったのはこの時の事でした。白虎隊は１５歳から１７歳の少年によって編成された部隊でしたが、怒濤の勢いの新政府軍を迎え撃つための援軍として城下の東北にあたる滝沢峠へと派遣されます。白虎隊一番隊は松平容保公の護衛として峠に残りましたが、二番隊はさらに前進して２２日の夜、戸の口原で他の部隊と共に新政府軍と戦闘に及びます。しかし、衆寡敵せずに会津軍は敗れ、白虎隊で生き残った者は飯盛山へと逃れました。ここまでたどり着いたのは翌２３日の事で、総勢４２名中わずかに２０名に過ぎませんでしたが、彼等が目にしたのは炎上する若松城でした。実際には城下町が燃えているのに過ぎませんでしたが、絶望した彼等は自刃の道を選びます。そして、一命を取り留めた一人を除いた全員がここで果てたのでした。

以下、明日に続きます。

この項は、新人物往来社「新選組を歩く」、「新選組銘々伝」、「新選組資料集」（「中島登覚書」）、木村幸比古「新選組全史」、「新選組日記」を参照しています。