義経 46の2
義経 第46回 「しずやしず」その2
鎌倉、大倉御所。密かに鎌倉に送られていた静が頼朝直々の詮議を受けています。頼朝を前にして怯むことなく、挑む様な視線を放つ静。
頼朝からなぜ何も答えぬのかと聞かれた静は、義経やそれを助けた人々に災いが及ばない様にするのが自分の勤めであると答え、逆に頼朝に向かって尋ねたい事があると切り返します。弟でもあり、平家追討に功のあった義経を討つのは何故か、評判へのねたみか、あるいは憎しみかと真っ直ぐに問いかける静に、暫く間を置いて弟故だと答える頼朝。その言葉を聞き、上目遣いに頼朝を睨み付ける静。
詮議を終え、廊下を歩く頼朝、政子、義時の三人。政子は静が身籠もっていると見抜き、その強さも母となる身故だと頼朝に告げます。頼朝は生まれてくる子が女ならば生かし、男ならば良いなと政子に向かって言い含めます。驚きつつも、だまってうなずく政子。
「吾妻鏡に依れば、静が鎌倉に着いたのは3月1日の事でした。付き添いとして、母の磯の禅師も同行しています。そして、3月6日から取り調べが行われており、静は大峰山の手前で義経と別れた後、蔵王堂までたどり着いた事などを答えていますが、一行に手を貸した僧の名前については失念したとして答えていません。その後も取り調べは続けられ、彼女は義経の行方は知らないとの一点張りを通します。事実知らないのだから答え様も無かったのでしょうけれども、3月22日に至って彼女が妊娠している事が判明し、取り調べを一時中断して産後に再び再開するよう命が下ります。」
追捕の兵から逃れる為に、山中の獣道を行く義経の一行。行く手に白旗を掲げた兵士を見つけ、思わず身を隠します。
山中のとある堂に隠れた義経達。あたりの様子を探ってきた喜三太と義久が戻ってきて、周辺には追捕の兵士が溢れていて、街道を行く事は出来ないと報告します。山伏の姿なら怪しまれないで済むのではないかという伊勢三郎ですが、弁慶はまだ都に近く、自分たちを見知っている者が居ないとも限らないとこれを退けます。
夏に至っても、近江と越前の国境を越えられずに彷徨う義経の一行。
「義経がどうやって奥州にたどりついたのか、その足取りは判っていません。わずかに吾妻鏡に伊勢、美濃等の国を経てとある事から、北陸道を回ったと考えられる程度です。一方、義経記に依れば、東海道は名所が多く、東山道は険しい箇所が多くていざと言うときに逃げ場に困り、北陸道なら越前国敦賀から出羽国まで行く船に乗る事が出来るという理由で、逃亡ルートを決めています。そして近江から越前に至り、途中のんびりと越前の平泉寺の見物に訪れて危機に陥ったりしていますが、弁慶の機転に依り見事に切り抜け、これ以後も主として弁慶の活躍により奥州までたどり着く事になります。義経記の主役は、実は弁慶だと言われる所以ですね。」
鎌倉、大倉御所。産みの苦しみに耐えて、無事に赤子を出産した静。その子が男であったと聞き、驚きつつもうなずく政子。
翌朝目覚めた静は、産んだはずの子供が居ない事に気が付きます。侍女達に子供の行方を聞きますが、彼女たちはうつむくばかりで、何も答えません。異変を悟った静は、回復しきっていない体で子供を求めて廊下へと飛び出します。そこに通りかかった政子に子供の行方を聞きますが、政子は我らが引き取ると冷たく答えます。なおも、子に会わせよと迫る静ですが、ここには居ないという政子の答えを聞き、子供が殺された事を悟り、半狂乱になって泣き叫ぶ静。懸命に平静を装う政子。
その頃、何も知らずに山中の洞窟で雨を凌いでいる義経。
「静が子供を産んだのは閏7月29日の事でした。ドラマとは違って、舞を舞ったのはそのずっと以前の4月8日の事です。産んだ場所は、頼朝の雑色安達清経の家で、静は鎌倉に来たときからここに滞在していました。産まれた子が女ならそのまま、男なら殺せと頼朝が命じたのはドラマにあったとおりです。頼朝の命を受けた清経が子供を受け取ろうとしたのですが、静は子供を抱きしめて伏したまま、何時間にも渡って泣きわめき続けてこれを拒否します。清経は静を叱りつけなんとか子供を奪い取ろうとするのですが、埒があきません。これを見ていた磯の禅師は、このままでは静もろとも殺されてしまうと危惧を感じ、静から子供を奪い取って清経に渡してしまったのでした。子供は直ちに由比ヶ浜に捨てられたと言います。ドラマで磯の禅師を鎌倉に行かせなかったのは、こういう役回りをさせたくなかったからかも知れないですね。
一方、既に静の舞を見て彼女に同情していた政子は、この事態を見て大いに嘆き悲しみ、誰にも慰めようが無かったと記されています。」
以下、明日に続きます。
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