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2005.09.14

義経 36の2

義経 第36回 「源平無常」その2

壇ノ浦、義経の陣。梶原景時以下諸将が居並ぶ中、上座に着く義経。その義経に、型どおり戦勝の祝言を奏上する景時と、諸将のお陰であると答える義経。景季に顔色が優れぬと問われた義経は、多くの味方を失った故と言葉を濁し、死者への供養を忘れまいと皆に諭します。そんな中、景時は宝剣が未だ見つからない事を口にし、何も答えられない義経に代わって景季が平家の誰かが隠し持っているのではと推測しますが、弁慶はそんな様子は見えないとこれを否定します。

そこに佐藤忠信が、捕らえた平家の人々の名が判ったと知らせてきます。それは、建礼門院徳子、平時忠、守貞親王(安徳天皇)、明子、平宗盛、清宗、輔子、廊の御方の8人でした。義経の妹が助かったと知り、どよめく一同。安堵した様子の義経ですが、景時から妹に会うかと聞かれ、まず会わなければならないのは敵の大将だと答えます。

「平家物語に依れば、捕らわれた将領は宗盛以下38名、女人は建礼門院以下43名であったと記されています。そのうち、平家の幹部クラスの中で唯一入水しなかった時忠は、公家の出であるが故に自害の風習は無く、座して囚われの身となる事を選んだのでした。また、ドラマでは名前が上がっていませんが、実際には彼の妻である領子も、捕らわれ人の中の一人としてその名が残っています。」

義経の陣の一室に捕らえられている宗盛親子。その前に現れた義経。名乗りを上げ、宝剣と主上の行方を問いかける義経ですが、宗盛はそれには答えず、知盛、重衡とすまいを取っていたあの牛若よなと、絞る様な声で義経に確かめます。その宗盛に、奇しき因縁であったと答える義経。これから我らはどうなると問いかける清宗と、首を刎ねられるしかあるまいと開き直る宗盛に、義経は京並びに鎌倉の沙汰を待つと答え、その間は敵といえども平家の大将にふさわしくもてなすと気遣いを見せます。しかし義経の申し出に、今度の大将は知盛だったと吐き捨てる様に答える宗盛。そして彼は義経に時子の消息を問いかけ、入水する姿は見たものの引き上げられた人の中には居ないと知らされると、涙を流して悲しみに暮れるのでした。

建礼門院を初めとする女人達の前に現れた義経。その義経を、射る様な眼差しで見つめる女院、明子、輔子の3人。女院から、父清盛と浅からぬ因縁があったにも係わらず平家を滅ぼしたのは、何か恨みでもあったのかと聞かれた義経ですが、自分が源氏であるという宿命に従ったのだと答えます。そして、主上を失った女院に悔やみを言う義経に、それも主上の持っていた宿命と答える女院ですが、義経は女人達の様子がおかしい事に気が付きます。さらに、宝剣の行方を問う義経に、時子と主上と共に海に沈んだと答える明子。その時、なぜが能子が庇っていた男の子の顔を思い浮かべた義経。彼は疑念を胸に抱いたまま、女院の下を後にします。

「源平盛衰記に依れば、三種の神器のうち鏡(内侍所)は御座船にあり、源氏の手の者によって確保されています。また曲玉(神璽)については、時子が入れ物の箱ごと小脇に抱えて入水したのですが、その後波間に浮び上がったところを、義経の郎党の一人である片岡太郎経春が掬い取ったとあります。

そして、宝剣については奇怪な話が記されています。それによれば、日本武尊に宝剣を奪われた八又の大蛇が、これを取り戻すために一計を案じたのが源平合戦でした。神世の時代からずっと機会を窺っていた大蛇は、安徳天皇に成り澄ますチャンスを得ると源平の合戦を引き起こし、まんまと宝剣を海に沈めて自らの下に取り返す事に成功したと言うのです。この話は、後白河法皇の霊夢に現れた老松という海女が、宝剣を探すために海に潜った時に竜宮城に行き当たり、そこで出会った大蛇が語ったものであるという事でした。これを聞いた法皇は、それならば宝剣が戻らないのも仕方がないと、ついにこれを取り戻す事を諦めたとあります。宝剣が失われた事を正当化するための作り話ではありますが、時空を越えた壮大な物語であり、これだけでも一つの絵物語になりそうな話ではありますね。」

夜明けの浜辺に出た義経。そこには、流木に一人腰掛けて、海を見つめる能子が居ました。義経は相手が能子であると確かめると、彼女が産まれた時の事を語り始めます。そして、もはや平家は滅びた、誰憚る事無く都で一緒に暮らそうと言う義経ですが、能子は首を横に振ります。彼女は清盛の血を引く平家の女であり、一門の女人と共に宿命に従って生きる覚悟をしていたのでした。妹の心を知り、気を落とす義経。しかし、すぐに源氏の大将という立場を取り戻し、戦の最中に彼女が庇った子供は誰かと能子に問いかけます。能子は守貞親王だと答えますが、どこか不自然な様子があり、義経はますます疑念を深めます。暇を告げ立ち去ろうとした能子ですが、ふと立ち止まると、義経から貰った文がとても嬉しかったと兄に告げます。そして、兄が居るという事を心の支えに、これからも一人で生きていくと言って、義経の下から去っていったのでした。遠ざかる妹の背中を、寂しそうに見送る義経。

「義経と能子が会ったこのシーンは、宮尾本平家物語における創作です。平家物語には、廊の御方が捕らわれの身となった事が記されているだけで、兄妹が言葉を交わしたとはどこにも書かれていません。しかし、2人が肉親であった以上、きっと対面はあった事でしょうね。もっとも、もの心が付く前に離ればなれになっているのですから、そう親しい会話というのも成立しなかった事でしょう。ましてや、勝者と敗者という立場に別れて居たのですからね。

このドラマにおける2人の会話にも、平家の女人として生きてきた能子が、平家を倒した兄に対して抱く違和感が表れていました。特に、文の中に源氏の大勝は疑いが無いと書いてあった事、平家は既に滅んだと言った事に、能子は反発を感じていた様子ですね。そして、最後に能子が兄に対して感謝の気持ちを表したのは、原作には無いドラマの演出です。やはり、源氏と平家に引き裂かれたまま、2人を別れさせるのは寂しすぎると考えたのでしょうね。能子の見せた笑顔と涙によって、見ている側もまた救われた様な気がします。」

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