義経 3の2
義経 第3回 「 源氏の御曹司 」その2
遮那王が修行する場となった鞍馬寺の創建は、奈良時代に遡ります。770年(宝亀元年)、鑑真和上の高弟である鑑禎上人が、夢に現れた鞍を付けた白馬の導きによって鞍馬山に登りました。ところがそこで上人は鬼女に襲われ、危ういところを毘沙門天に救われます。上人はその功徳を尊んで草庵を結び、毘沙門天をお祀りしたのが鞍馬の始まりとされます。
その後、796年(延暦15年)に、かねてから観世音を祀る堂を建てたいと念願していた造東寺長官の藤原伊勢人は、貴布禰明神のお告げを受け、さらに白馬の助けを得て鞍馬山に登ります。そこには、先に鑑禎上人が建てた草庵があり、毘沙門天が祀られていました。観世音を祀りに来たのにといかぶる伊勢人に、「毘沙門天も観世音も、根本は一体のものである」と再び夢のお告げがあります。そのお告げに納得した伊勢人は草庵を王城鎮護の道場として立派な堂舎に造り替え、毘沙門天と千手観音を併せ祀りました。そして鞍を背負った馬が鞍馬山に導いた事にちなみ、鞍馬寺と呼ぶようになったと言います。
この鞍馬寺にまつわる伝説に出て来る白馬が、ドラマのオープニングに現れる白馬のモチーフになっている様ですね。あの白馬は毘沙門天の使いとして義経の前に現れ、波乱の人生に彼を導く運命の象徴という事になるのでしょうか。
鞍馬寺は最初天台宗に属し、その後一時真言宗の寺になっていましたが、遮那王が入った頃には天台宗に復していました。そしてさらに時代が下って、1947年(昭和22年)に新たな宗教として鞍馬寺を総本山とする鞍馬弘教が立教され、現在に至っています。
遮那王の師である東光坊の律師覚日。律師とは僧侶の僧階の一つで、現在の天台宗に当てはめて言えば大僧正から権律師までの13級があり、律師は下から2番目という事になります。
このあたり平治物語には、「牛若は、鞍馬寺の東光坊阿闍梨蓮忍が弟子、禅林坊阿闍梨覚日が弟子に成て」とあり、覚日は東光坊蓮忍の弟子で、禅林坊に居たという事になりますね。また、義経記では「鞍馬の別当東光坊の阿闍梨は、義朝の祈の師にておはしける程に、」「鞍馬へ参らせ候べし。」とあり、元々遮那王の父である義朝の祈祷の師であったという縁があったため、その伝手で遮那王を東光坊の阿闍梨に預ける事にしたと書かれています。義経記では、覚日は「覚日坊の律師」として登場し、遮那王の師ではなく、その勉強ぶりを褒めるだけの人として描かれています。ちなみに「阿闍梨」とは、他の僧を教え導く資格を持った僧侶という意味です。
そして、なにやら妖しげな存在の鬼一法眼。「きいちほうげん」とも「おにいちほうげん」とも読まれますが、義経記で「一條堀河に隠陽師法師に鬼一法眼とて文武二道の達者あり。」と登場する人物です。義経記では、法眼が所有する門外不出の兵法書「六韜」を読むために、義経が法眼の娘を誘惑してこれを盗みださせ、四月ほどかけて全てを写し取るというストーリーになっています。さらに、謀られた事を知った法眼がその弟と示し合わせ、義経を五条天神におびき出してだまし討ちにしようとしますが、かえって弟は義経に返り討ちにされてしまいます。このように、「義経記」においては鬼一法眼は敵役として描かれており、ドラマのように鞍馬山で義経と出会うという記述は見あたりません。
一方、鞍馬山で遮那王が鞍馬天狗と出会うという記述が平治物語にあります。「僧正が谷にて、天狗と夜々兵法をならふと云々。されば早足・飛越、人間のわざとは覚えず。」とあるのがそれで、この記述から能の「鞍馬天狗」などが創作され、義経は鞍馬天狗に兵法を授かったという説が一般に知られる様になりました。
時代が経つにつれてこの鞍馬天狗伝説と鬼一法眼がいつの間にやら融合し、鬼一法眼は実は鞍馬天狗だったという新たな伝説が作られて行きます。例えば浄瑠璃の「鬼一方眼三略巻」がそれで、ここでは法眼が鞍馬で兵法を教えたのは自分だったと義経に告白する場面が出て来ます。このドラマの鬼一法眼はこの系統に近いタイプですが、天狗では無く最初から人間として登場している事を考えると、また新たなタイプが生み出されたとも言えそうですね。
後白河上皇に、厳島詣を申し出る清盛。訝りながらも、それを認める上皇。
清盛の厳島詣は、全部で6度に及びました。それには既存の都の祭祀体系とは異なる、西国を中心とした新たな祭祀体系を築くという狙いがあったと言います。当時の政治は祭祀と一体であると言って良く、京都の神社仏閣の影響下に居る限り、藤原氏中心の体制から抜け出す事が出来ませんでした。清盛は厳島神社を中心とする祭祀体系に基づいた政権を打ち立て、併せて都を福原に移す事により、旧来の勢力を一掃しようと考えていたようです。上皇はそんな清盛の狙いを感じて、釘を刺そうとしたのでしょうね。
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