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2004.11.03

新選組!35の3

新選組! 第43回「決戦、油小路」その3

月が群雲に隠れていき、雨が降り出してきました。近藤の別宅で対座している近藤と伊東。強風が部屋の中に吹き込み、今にもろうそくの火を吹き消しそうです。それを見て立ち上がり、開け放した障子から外の様子を窺う近藤。その近藤を背後から見つめる伊東の表情に殺気が宿ります。その気配を察しつつ、近藤は静かに障子を閉めます。

別宅の近くの路上に佇み、様子を窺っている土方。そこへ島田がやってきます。周囲の様子を探っていたのでしょうか。本当に一人で来たのかと土方。伊東も随分と見くびられていたものです。

再び、近藤の別宅。ろうそくの明かりの中で対座している二人。息詰まる様な緊張感の中、言葉を武器に立ち会う二人。軽くいなそうとした伊東に、それでは自分を誤魔化す事は出来ないと迫る近藤。一度は浮かんだ微笑が消え、近藤を射るような視線で見つめる、真顔の伊東。

御陵衛士の屯所新選組の屯所から戻って本当の事情を聞かされた藤堂が、伊東が近藤を射すつもりだと聞いて驚いています。篠原はそれを無視して、新選組の襲撃に備えろと主張します。しかし、藤堂は不満を露わに、思い詰めた表情をしたまま答えません。そんな藤堂を責める篠原ですが、藤堂は、自分はやはり信用されていないのかと泣くような声と表情で、篠原に訴えかけます。そこへ、全てはお前のためだと割り込んでくる加納。加納は、はっとして振り返る藤堂の前に進み出て、お前を使者に立てたのは、新選組と手を切る前に、昔の仲間に会わせるためだったと藤堂に言って聞かせます。それを聞いて、少しの間考え込み、はっと気付いた様に顔を上げ、息をのむ藤堂。

新選組の屯所。井上を中心にして、隊士達が酒盛りをしています。そこへやってきた大石達。大石は伊東と近藤が会っていると聞き、この機会に伊東を亡き者にしようと意気込んでいます。それをたしなめる井上。井上に釘を刺されたものの、納得がいかずに不満な様子がありありと浮かんでいる大石。

近藤の別宅。今度は伊東が立ち上がり、さっき近藤が閉めた障子を開けて、庭を見ています。外は雨が降っていました。御陵衛士頭取となって、判った事がある、新選組に居たという事実が行く手を塞ぐ、新選組の名はそれほど大きいという事だという伊東の述懐を、黙って聞いている近藤。このとき、ろうそくの火を外から吹き込んできた風が吹き消して、室内は真っ暗になってしまいます。伊東はゆっくり振り向いて座っている近藤を見下ろし、薩摩の大久保から近藤を斬るように持ちかけられたと真実を打ち明けますが、近藤は依然として黙って聞いています。自分が薩長と共に行くには、自らの手で新選組を葬り去るより他に無かったと、ここまで伊東が言ったとき、ようやく近藤がよくぞ打ち明けてくれたと口を開きます。伊東は近藤の前に座り込み、人は所詮その過去を消せはしない、自分が近藤と手を結んだのは、紛れもない事であり、それを受け入れた上で己の意思を相手に伝えるべきでないか、今ではそう思っていると口では改心したような事を言いながら、その右手は懐へと動いて行きます。その手の動きに気付いたかのように近藤は、一つだけ申し上げたいと言って、伊東の機先を制します。その言葉に手の動きを止めた伊東は、落ち着いたふりをして聞きましょうと答えます。伊東の意見が通らないのは、新選組に居たせいではないだろうと言い出す近藤に、伊東は何を言い出すのかといった具合に、どういう事かと聞き返します。薩長は徳川を倒して、新しい国を作ろうと動いている、しかし、それは薩長を中心とした仕組みで、一握りの者が自分の利益の為に世の中を変えようとしている。新選組だから除かれたのでは無く、薩長の出では無いから除かれるのだと近藤にそう説かれて、伊東は動揺が隠せない様子です。私を斬っても何も変わらないと続ける近藤を、じっと見つめる伊東。近藤はそんな伊東を見つめ返し、私も、散々生まれの事を言われ悔しい思いをして来た。だからこそ、新選組は誰でも入れるようにした。出身に係わらず、能力のあるものが上になる。それが新選組であり、自分が望む世の中だと、自分の中に有った本懐を、初めて他人に見せたのでした。それを聞き、伊東は明らかに自信を無くした様子で、ふらりと立ち上がり、しばらく呆然と外を見つめて、やがて自分の席へと帰ります。そんな伊東を、じっと見つめている近藤。伊東はようやく顔を上げて、口を開きますここへ来るまで、あなたを斬るつもりだったと告白し、近藤は気付いていたと答えます。困惑した表情で、気付いていながら会ったのかと言う伊東に、黙って頷く近藤。命がけで話をしたと言う近藤の迫力に、圧倒された伊東は、やがて膳を横に押しやって、懐から短刀を取り出し、近藤の前に差し出します。暫く見つめ合った後、自分の負けを潔く認める伊東に、これは勝ち負けなどではないと答える近藤。伊東は、今にも泣きそうな表情になっています。国を思う心に変りはない、また、手を取り合う事があるかも知れないと言う近藤の言葉を聞いて、伊東も目を上げ、黙って頷きます。

近藤の別宅近くの路上。雨が上がって、月が雲から出てきました。提灯を持った伊東が、月を眺めながら歩いています。その表情は穏やかで、晴れ晴れとしていました。やがて、伊東を取り囲むように現れた4人の武士。大石とその仲間です。大石は槍を構え、他の3人は刀を抜きました。槍を構えながら、伊東に声を掛ける大石。伊東は、提灯を大石の方に向かって差し出し、落ち着いた声で答えます。そのとたん、背後から斬りかかってきた一人の隊士を、伊東は振り向きざまに拳で当て身を食らわせ、倒してしまいます。伊東は、大石を睨み付け、愚か者が、局長の気持ちを踏みつけするなと叫びます。その迫力に、思わず刀をおろし、槍をおろして構えを崩す大石達。伊東は、悠々と大石達の間を歩いていきますが、数歩歩いたところで、背後から衝撃を受けます。伊東の背中に突き刺した槍を、ねじる様にして引き抜く大石。力無く振り向いた伊東は、大石を見つめるようにして微笑み、やがて仰向けに倒れて息を引き取りました。

別宅で、一人で酒を飲んでいる近藤。伊東との対決を無事に終えて、満足そうな様子です。そこへ、島田が駆け込んできます。島田に案内されてやって来た道端には、倒れ込んだ伊東と、その死体を改めている土方が居ました。路上に仰向けに倒れていた伊東を、木組みの塀にもたれ掛させてやったのは、土方なのでしょうか。近藤を認めた土方は、立ち上がって近藤を迎えます。伊東の死体を黙って見下ろし、やがて座り込んで痛ましげに伊東の顔を覗き込む近藤と、その様子を気遣うように見ている島田。若いやつを責めてはいけないという土方の言葉を黙って聞いている近藤。御陵衛士が黙ってはいまいと土方に言われて、ようやく立ち上がる近藤。土方は、そんな近藤を上目遣いに一瞥し、あたりの様子を調べる様に歩きながら、ここから先は、自分に任せろ、この機会に御陵衛士との決着を付けると放ちます。そんな土方を、黙って見つめている島田と近藤。

このドラマの下りは、局長としての近藤の器の大きさと、才がありながら策に走ってしまった伊東との対比が見事に現れていて、なかなか見応えのある場面だったと思います。暗闇の中での二人のやり取りが、絶妙な間の取り方とあいまって、あたかも真剣勝負を交わしているかのような迫力がありました。特に伊東の心理描写は見事で、最初は近藤を丸め込んで一気に片を付けるだけの自信にあふれていた伊東が、次第に近藤の持つ静かな迫力に押され始め、ついには己の負けを認めるに至るまでの心の揺れを、微妙な表情や手の動きで鮮やかに表現仕切っていました。

そうしたドラマとしての出来はさておき、史実においては、近藤と伊東の役割は全く逆でした。伊東は、罠かも知れない近藤の誘いに乗って近藤の妾宅に赴き、近藤を説得しようとしたと言います。このとき同席したのは、土方、原田、吉村、山崎らで、決して一対一の話し合いではありませんでした。席上は特に用談もなく、近藤達はただひたすらに伊東をもてなして酒を勧め、酩酊させるに努めたと言います。

次に、近藤は伊東が受け入れられないのは、薩長の出ではないからだと言っていましたが、明治以後ならともかく、この時期においては薩摩も長州も幕府軍と戦うには決定的に兵力が不足していて少しでも味方が欲しかった時であり、他藩だからと言って拒絶するような真似はしたくても出来ませんでした。だからこそ、伊東達御陵衛士も受け入れて、庇護していたのだと言えます。伊東達が受け入れられなかったのは、やはり元新選組という履歴と、昨日も書いたような両属とも取れる伊東の曖昧な態度が原因だったと思われます。

ただ、ここで近藤が言っていた薩長が政権を私するために戦っているという言葉は、幕府側から見ればまさにそのとおりであり、その考えはそのまま新選組の故郷である多摩の人々に引き継がれ、やがて薩長閥が支配する明治新政府に対する自由民権運動へと繋がっていく事になります。

無論、これは幕府側から見たときの話で、明治維新そのものに対する評価は別に考えなければいけませんし、薩長が自らの権利欲によって動いていたと言い切るのは、明らかな誤りです。少なくとも西郷や大久保あるいは桂が考えていたのは日本の行く末であり、島津幕府や毛利幕府を作るつもりなど、かけらも無かったはずです。結果として、明治以後、政府の枢要な位置を薩長閥が占めてその後の日本のあり方を歪んだものにしてしまった原因は、また別な次元で考察されるべきものと思われます。

さらに、近藤は、新選組を身分を問わず、力のある者が上に立つ組織にしたかったと語っていますが、これは半ばは正しく、半ばはそうでもなかったという事になりそうです。確かに、新選組を構成していたのは様々な階層の人々で、能力があれば監察や伍長、場合によっては助勤に取り立てられる事もあるという、ある意味革新的な組織でした。しかし、その一方で、枢要な位置は全て試衛館出身者で固めており、多摩出身者は比較的優遇されやすいという側面も持っていました。そしてなにより、この風通しの良いはずの組織を危うくしたのは、他ならぬ近藤自身でした。近藤は、組織が大きくなるに連れて次第に増長し、隊士達に対して主君同然に振る舞うようになったと言います。これに反発したのが永倉達の建白書であり、島原の長逗留事件でした。そして、幕臣取り立て以後は、土方にもその傾向が見られたと言います。近藤や土方が目指したものはあくまで武士であり、その象徴とも言うべき幕臣に取り立てられた以上、武士らしい秩序感覚を隊士に求めたのは、むしろ自然な成り行きだったと言うべきかも知れません。

近藤の言うような、身分を問わずに力のある者が上に立つ世の中を考えていたのは、どちらかといえば伊東の方でしょう。伊東が著した大開国策の中では、儒教思想の中にいる人らしく四民の別は温存するつもりだったようですが、その一方で国民皆兵を掲げており、武士階級が支配する世の中に実質的に終止符を打つ内容でした。もし、伊東と近藤がこのような席を設けていたとしたら、ドラマとは全く逆のセリフ回しになっていたはずです。このあたり、伊東にとっては気の毒な展開だったと言えそうですね。

そして、大石鍬次郎。彼は周平とそう変わらないような若者として描かれていますが、実際にはこの頃は30歳になっており、監察として幹部の列にあった人物です。「人斬り鍬次郎」の異名を取る人ですが、決して近藤や土方の命令を待たずに突っ走るような人間ではありませんでした。このドラマでは、近藤はおろか土方までが良い子になってしまっているので、新選組のダーティーな部分を一人で背負わされてしまっているような観があり、なんだか気の毒な気がします。彼が伊東を刺し殺したのは事実ですが、それは当然ながら近藤の命に基づいての事でした。

新選組にとって、御陵衛士である伊東を殺すという事は、実は大変重大な意味を持っていました。御陵衛士とは、天皇陵をお守りする役目を持つ者の事を言い、口先だけの自称勤王家とはまるで異なる、いわば究極の勤王の士と言うべき存在でした。尊皇の看板を掲げている新選組がこの正真正銘の勤王の士を討つという事は自らの主義を放棄する事になり、ひいては朝廷に弓を引く事にも繋がります。事実、油小路事件の後、朝廷は新選組の行為に対して激怒し、関係者の処分を迫ったと言います。結局、鳥羽伏見の戦いの勃発によりうやむやにされましたが、御陵衛士と戦うという事は、下手をすれば朝敵にされかねないという危険極まりない賭けでもあったのです。そのような重大事を一隊士の判断で出来る筈もなく、もし仮にやったとしたら直ちにその隊士を処分し、新選組としての潔白を証明しなければならなかったでしょう。ドラマの土方は、「若い者を責めるな」と言っていましたが、これはそんな甘い事を言っていられるような事態ではなかったのです。

以下、明日に続きます。

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