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2004.11.02

新選組!35の2

新選組! 第43回「決戦、油小路」その2

高台寺の御陵衛士屯所で、枯山水の庭を前に思い悩んでいる伊東甲子太郎。ついに決心が付いたのか、「加納。」と腹心の部下を呼びます。「斉藤君を呼んでくれ。」と伊東に指示された加納は、無言で頷いて部屋を出て行きます。

1867年(慶応3年)11月18日。斉藤に向かって、指示を出している伊東。「手筈は、こうだ。まず、近藤に書状を送り、新選組に戻りたいと訴える。取り決めにより、御陵衛士から新選組に移る事は出来ない事ななっておるゆえ、密かに会って話がしたいと持ちかけ、近藤を一人で呼び出す。やってくれるね。斉藤君。」と伊東に言われて、無言で小さく頷く斉藤。「同志達の間には、君が新選組の間者ではないかという声が、未だに聞こえてくる。このへんで、疑いを晴らしておき給え。」伊東自身がどう思っているかは判りませんが、斉藤は内心の動揺を隠すように感情を消したまま、「承知。」とだけ答えます。そこに、加納が「斉藤君一人では、心もとない。誰か付けた方が良いのでは。」と伊東に助言し、それを聞いた伊東は試す様に斉藤をじっと見つめます。斉藤はここで初めて表情を動かし、「侮るな。」とぎこちなく笑います。それを見た伊東は厳しい表情になって、「篠原を呼んできなさい。」と加納に命じます。「かしこまりました。」と席を立つ加納。後に残った斉藤はやや上目遣いに伊東を見つめ、伊東は依然としてきびしい目をして斉藤を見据えています。

御陵衛士屯所の一室で、藤堂と会っている斉藤。斉藤から伊東の話を聞かされたのでしょう、「近藤さんを?」と藤堂が驚いています。「伊東さんは、新選組を、潰す気でいる。」そう斉藤に言われて、一瞬呆然となった藤堂は、すぐに気をとりなおして走りだそうとしますが、斉藤に腕を掴まれて引き留められます。藤堂はその手を振り払って、「伊東先生に会って、考えを改めてもらいます。」と伊東の下へ急ごうとしますが、斉藤に「もう遅い。」と言われて立ち止まり、「斉藤さんは近藤先生を斬るおつもりですか。」と背中越しに聞き返します。暫く考えた斉藤は、やがて「お前にだけは言っておく。俺は、土方さんに言われて、御陵衛士に加わった。」と真実を告げます。それを聞いた藤堂は辛そうに目を閉じて、「噂は、本当だったんですね。」と努めて平静を装って答えます。「俺は、ここを出て、そのまま戻らない。お前も来い。」と斉藤に誘われますが、藤堂は揺れる気持ちを抑えて、「出来ません。」と断ります。「お前を、守るよう、土方さんに言われた。」となおも誘う斉藤に、「伊東先生を裏切る訳には行かない。」と叫んだ藤堂は、「そして、」と斉藤の方へ振り返り、「本当の事を知ってしまった以上、斉藤さんを行かせる訳には行かない。」と静かな決意をみなぎらせながら斉藤を睨み付け、刀を抜きます。八相に構えた藤堂を前に、刀も抜かず、平然と藤堂を見据えている斉藤。

史実においては、御陵衛士に潜入していた斉藤は、全く疑われることなく間者としての使命を果たしたようです。彼は、伊東が近藤の暗殺を企てているという事実を掴むや、隊の公金50両を盗み出した上で屯所から脱出しています。このため、御陵衛士側では、斉藤は金欲しさに隊費に手を付けた上で脱走したものと、ずっと後まで思いこんでいた様子です。また、この伊東が画策したとされる近藤の暗殺ですが、書かれているのは全て新選組側の資料であり、御陵衛士側にはこれに触れた資料はありません。このことから、近藤の暗殺計画など始めから無く、伊東の暗殺を正当化しようとした新選組の工作ではないかと考える説もあります。

また、このドラマにおいては、伊東は大久保から近藤暗殺を示唆されたという設定になっていますが、先日書いたように佐野七五三助達が会津屋敷にて命を落とした事に激怒して決意したとする説や、勤王方になかなか信用が得られない為に、身の潔白を証する為に伊東自らが考えたとする説が有力です。また、伊東ではなく、その配下が考えていた事だとする説もあるようです。

そして、大久保が「新選組が幕府の屋台骨」と新選組を評価していましたが、実際にはこれは過大評価という事になるでしょうね。新選組が従事していたのはあくまで京都の治安維持が主で、元々幕府の行く末を左右出来るような組織ではありませんでした。新選組は、確かに京都にあって過激浪士達を取り締まり、幕府の権威を守る為に力を尽くしてきましたが、本当に政局を左右するような活躍をしたのは池田屋事件が最初で最後であり、皮肉な事にその池田屋事件によって、志士個人の活躍がが政局を左右するという時代は終止符を打ったのでした。それ以後は、個人ではなく組織としての藩が中心になって政局を動かす時代に突入し、新選組がその間取り締まって来た過激志士達は、実は既に時代に取り残されつつある存在で、大勢からみれば新選組の働きは歴史を動かすという事は無く、文字通りの治安維持活動以上の意味は無くなっていました。この幕末ぎりぎりの段階においては、時代を動かしているのは幕府と雄藩と言われる存在で、その原動力はそれぞれに有している軍事力でした。この点に置いても、刀槍が中心の新選組は実質的に戦力外であり、屋台骨とはなり得ない組織だったのです。

新選組の屯所。近藤が斉藤からの密書を読んでいます。近藤の前に居るのは、土方と井上の二人。近藤が読み終えた書状を受け取った土方は、それを井上に渡しながら「斉藤が戻ってくる。」と告げます。無言で、書状に見入っている井上。「伊東さんは、俺を殺す腹らしい。」とつぶやく様に言う近藤を、えっというふうに見つめる井上と、横目で見やる土方。「すぐに、永倉君を呼んでくれ。」と命じる近藤。

御陵衛士の屯所の物置で、縛り付けられて身動きが出来ない藤堂。どうやら、斉藤に手もなくひねられてしまったようですね。

京の町を歩く斉藤と、間を開けてその後を付いてくる篠原。角を曲がったところで斉藤は立ち止まって、篠原を見つめ、そして無造作に刀を抜きます。それを見て驚きながらも、「やはり、そうだったか。」と同じく刀を抜き合わせる篠原。

御陵衛士の屯所。物置から助け出された藤堂が、二人の隊士に支えられながら、伊東の部屋へやって来ます。息も絶え絶えの藤堂の様子を見て、「藤堂君!」と驚く伊東。その伊東を上目遣いにみつめながら、「先生!」と訴えかけるように言葉を吐き出す藤堂。

その頃、路上で争っている斉藤と篠原。篠原の腕も相当なもので、斉藤と互角に渡り合っています。やがて、篠原を町屋の板壁に押しつけて斉藤が有利になったと思われたそのとき、3人の御陵衛士達が駆けつけてきます。「斉藤!」「篠原さん!」さすがの斉藤も4人掛かりでは不利で、篠原に右腕を切られてしまいます。斉藤がついに追いつめられようとしたとき、永倉が2番隊士を引き連れて応援に駆けつけてきます。「斉藤!」と叫びながら、御陵衛士達に斬りかかる永倉達。永倉は、乱刀の最中に冷静に斉藤に向かって逃げる様に合図を送り、斉藤は危うく虎口を脱する事に成功します。

新選組屯所。すでに夜になっています。屯所の中では近藤を中心に、幹部会議が開かれています。近藤の正面には、右腕を怪我した斉藤が、傷口を痛そうに押さえながら座っています。「こうなったら、高台寺の裏手から鉄砲を撃ちかけ、ひるんだところを正面から切り込む。間違いなく勝てる。」と、高台寺襲撃を主張する土方ですが、近藤は「いや、ここは、様子を見よう。」と自重を促します。それを聞いて、「向うはあんたを殺そうとしているんだぞ。」と近藤の弱腰を非難する土方ですが、近藤は「真っ向からぶつかれば戦になる。京の町で、それは出来ん。」と理由を示して、あくまで自重論を変えません。それを聞いて、同意するように頷く井上に、「局長の言うとおりかも知れん。ここは、耐えるのが筋だ。」と賛意を示す永倉、その横で頷いている原田。その様子を見て、「皆さん、ご立派な方々ばかりだ。」とあきれかえっている土方。

ここでは、土方は鉄砲と言っていますが、子母澤寛の「新選組始末記」には大砲を撃ち掛けようと言ったとあります。これに対して近藤が事が大きくなりすぎるから止めようと言ったのは事実ですが、その代わりに策略でもって御陵衛士達を討ち取ろうと画策したのでした。つまり、伊東が近藤に策略を仕掛けたのではなく、近藤が伊東をおびき寄せたというのが実際だったようです。

御陵衛士屯所。伊東の部屋に、篠原と加納が居ます。「こうなったら、先手を打って、こちらから仕掛けましょう。」と叫ぶ篠原に、「いずれにせよ、事が大きくなれば、それだけ無駄な血が流れる。ここは私が行って、近藤君と直接話を付けてくる。」と冷静に答える伊東。それを聞いて、「危険です。」と気色ばむ加納に、伊東は「一対一で会おうと持ちかける、近藤君なら、きっと乗ってくる。」と答えて立ち上がり、「私も近藤君も刀を預けたところで話に入り、油断を誘ったところで、懐に隠し持った短刀で、刺し殺す。」と自ら暗殺者となる事を宣言します。「しかし、それは、」となおも止めようとする加納に伊東は、「確かに卑怯だ。しかし、加納君。私は志を果たす為なら、どんな手も使う。」と断固とした調子で言い切ります。「そんな事は、国の行く末に比べれば、些末な事なのだ。」と静かに語る伊東。

篠原は威勢良くこちらから仕掛けようと言っていますが、御陵衛士の勢力はわずかに10数人に過ぎず、新選組はまともに戦って勝てる相手ではありませんでした。この勢力差がある事から、御陵衛士達は、常に新選組からの襲撃に怯えていたそうです。また、伊東が自ら近藤を刺すと言った事実はなく、近藤から誘いを受けた時にも、依然として言論で近藤を説得できると考えていたようです。

新選組屯所。近藤が書状を読んでいます。それを読み終えた近藤は、「伊東さんが会いたがっている。」と言い、それを聞いた土方は間髪を入れず「罠に決まってるじゃねえか!」と断定します。「それに、乗ってみようと思う。」と言う近藤を、「勝っちゃん!」と土方は止めようとしますが、近藤は「差しで話がしたいと言っているんだ。断る道理はない。」と聞き入れようとはしません。土方は、井上に向かって「このお人好しに、なんか言ってやれ。」とあきれたように言いますが、井上は黙って近藤を見つめているばかりです。近藤は、それには答えず、「それより、この手紙を運んできた男が、今隣の部屋に居る。」と別の事を言い出します。

「悪い事は言わん。向うには戻るな。」と藤堂を説得しようとする永倉と、「そうは行きません。」と笑顔で断る藤堂。「お前とは、斬り合いたくないんだよ。」と心配する原田ですが、藤堂は「私だって、思いは同じです。でも、そんな事にはなりませんから。安心して下さい。」とやはり笑顔のままで答えます。そこへ入って来た近藤と土方と井上。藤堂は近藤に向かって平伏して挨拶をしています。「悪い事は言わん。向うには戻るな。」と永倉と同じ事を言い出す土方と、「ここに残れ。」と声を掛ける井上ですが、藤堂は笑って受け流します。「なんだよ、まじめに言っているんだぞ。」と土方に言われて「すみません。いや、皆さん、同じ事をおっしゃるもので。」と謝る藤堂。近藤は藤堂の気持ちを推し量ってか、「お前を、これ以上、辛い立場に立たせる訳には行かない。この度の一件は、出来るだけ穏便に済ませる積もりだ。」と言ってやります。それを聞いて、「ありがとうございます。」と答える藤堂。

沖田の病室。上半身を起こした沖田の側に、お孝が控えています。「そんなに、悪い訳じゃ無いんだよ。別に、寝てなくても良いんだけど。」と言う沖田の横からお孝が「そんな事ないでしょう。やっと今日からおかゆさん食べられるようになったんですよ。」と口を出します。「いいから、あっち行っててくれよ。」とうるさそうにお孝を追い出そうとする沖田ですが、藤堂は「あっ、あの、こちらは?」とお孝の事を沖田に聞きます。沖田は嬉しそうに「顔、良く見てみ。」と藤堂に言い、それを受けてじっとお孝を見つめた藤堂は突然「あっ、え、ああ~。」と叫び出します。「失礼やないですか。」と怒るお孝の横から、「そっくりだろう。お幸さんの実の妹、気性はまるで逆だけどね。」と説明する沖田。お香は、「なんか、嫌みな言い方。」と憤然とした様子で立ち上がり、障子をぴしゃりと音を立てて閉めて部屋を出て行きます。「で、伊東さん達とは、どうなった。」と藤堂に聞く沖田に、「伊東先生も近藤先生も、これ以上事が大きくなる事を望んではおられません。きっと、上手く収まると思いますよ。」と答える藤堂。そして藤堂は、「そんな事より、沖田さんですよ。」と沖田の事を気遣います。「私の事は良いんだよ。」「皆さん、心配していました。」「平助に、心配なんて言葉使って欲しくないよ。そっちの方だよ、みんなに心配かけてるの。」「そんな事、無いですよ。」「近藤さん達がお前の事、どれだけ気に掛けてたか。」そう沖田に言われた藤堂は、ふと気付いたように、「考えて見れば、私たちはいつも上の者をはらはらさせる役割なのかも知れませんね。」と沖田に向かって言います。それに同意するかのように、笑っている沖田。

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