新選組!31の2
新選組! 第39回「将軍、死す」その2
京都。見廻組屯所を訪れている捨助。佐々木と会って、話をしています。「見廻組は皆直参だ。おまえのような男を入れる訳にはいかん。」「お願いしますよ。坂本龍馬を捕まえたいんでしょ。だったら、俺が居たら役に立つって。」捨助は、今度はなんと見廻組に自分を売り込もうとしているのですね。彼なりにたくましくなったと言うべきなのか、いい加減なやつと言うべきなのか。それにしても、佐々木はなんで天狗だった捨助を捕まえないのでしょうね。「むしろ、新選組に行け。あそこは、身分を問わない。」「新選組なんて、まっぴらごめんだよ。」と渋る捨助に、「さあ、行け!」と言い捨てて奥へ入ろうとする佐々木ですが、「じゃあ、お聞きしますけど、あんた、お尋ね者の坂本龍馬に会った事があるんですか。」と捨助に言われて思わず立ち止まってしまいます。してやったりという表情の捨助。こいつもいつの間にか、自分の売り込み方が上手くなったものですね。「ねえ、という事は、やつの顔を知らない訳でしょ。それでどうやって捕まえるつもりなんですか。桂小五郎は?」次々に大物の名を出す捨助の言葉に、佐々木もついに振り向きます。「俺は、よーく知ってる。薩摩の大久保も知ってる。西郷だって見たことあるし、岩倉って公家のおっさんも知ってる。こんな重宝な男、そんじょそこらに居ないと思いますけどね。」情報手段の発達していないこの頃にあっては、名前を知っていても顔までは判らないというのが普通の事だったのですね。例えば新選組が池田屋で戦った相手が誰だったかは後から調べて判った事ですし、今に残っている西郷の肖像画も本人とは違うという説があるそうですね。それほどまでに、当時は名の通った人物でもどんな風貌かを知っているのは、ごく近くに居るものに限られていたようです。そんな中で捨助のような人物がいたとしたら、確かに重宝しますよね。「とにかく俺は、この捨助をないがしろにしたやつらを、ぎゃふんと言わしたいんですよ!ぎょふんと!」「おまえの言い分、もっともである。では、こうしよう。見廻組ではなく、私の奉公人として面倒みよう。」「ありがとう、佐々木様!ええ仕事しまっせ~!」と完爾と笑う捨助。土方の言うように、捨助には尊皇も攘夷もないのですね。勤王派変じて、今度は佐幕派の手先になっちゃった。
新選組屯所。原田がおまさと並んで座っています。原田達の前に居るのは、近藤、土方、沖田、井上、斉藤、藤堂の面々です。「という訳で、私たちは、晴れて夫婦になりました。」といきなりの報告に、「えっー。」と驚く井上。「これからも、夫、原田佐之助をよろしくお願いします。」とにこやかに挨拶するおまさですが、一同はあっけにとられている様子です。「いや、これは目出度い。」という井上の言葉を受けて、沖田が「良かったじゃないですか佐之助さん、思いが通じて。」と言ってやります。「そうなんだよ、長いことかかったよ、ここまで来るのに。」という原田ですが、近藤は「しかし、おまささんは、本当にそれで良いのですか。」と意外とそうです。そう言えば、おまさは近藤に、自分はその気がないから原田をあきらめさせてくれと頼んだ事がありましたよね。「局長、それはどういった意味でしょうか。」とその間の事情を知らない様子の原田ですが、「だって、」という近藤を遮るようにおまさが、「そうなんです。全く好きやなかったなんたですけど、自分でも不思議なんやけど、気ぃ付いたら、こういう事になってました。」とにこやかに話を続けます。「まあ、男女の仲ってもんは、案外そういうもんだ。」と粋人ぶってみせる土方。「向うの両親にはご挨拶したの?」という沖田の問いに、原田達は「この間行ってきたんだよな。」「ねぇ。」とぬけぬけと答えて見せます。それを聞いて「えっー!」と驚く近藤と「もう行ったのかよ!」と突っ込みを入れる土方。それまで黙って聞いていた斉藤が、なにやら怪しげな木彫りの人形を差し出します。それを見て、訝しげに「なに?呉れるの?」と聞く原田に「ああ。」と不愛想に答える斉藤。原田は、正体の定かならぬ木彫りを見てとまどいながらも手にして、「ああ、ああ、良くわかんないけど、頂いたぞ!」とおまさに見せます。おまさも「ああ。おおきに。」と調子を合わせて喜んでみせます。「佐之助さん、あきらめなくて良かったね。」という沖田に原田は、「みんなも諦めちゃだめだぞ。」と調子に乗って言いってみせます。それを見ていた沖田は、「お幸せに。」と言い捨てて、部屋を出て行きます。「おい、行っちゃうのかよ。」という原田に「うん。」とだけ答えて行ってしまう沖田。「なんだよ。」と不満そうな原田ですが、命の先が見えてしまっている沖田にとって、幸せな原田を見ているのが辛かったのかも知れませんね。その様子を見て心配そうな近藤。土方は「で、祝言は?」と場を取りなすように原田に聞きますが、「夕べやって来たんだよな。」「ねぇ。」という原田夫妻の答えに再び「えっー!」と大声を上げて驚く近藤と「やっちゃったのか~!」と素っ頓狂な声を上げる土方。「えへへへ。」とあくまでのろけている原田達。「なんだよ、言ってくれればご挨拶に行ったのに。」と不満そうに言う近藤に、「いいよ、もう恥ずかしいじゃないか。」と答える原田ですが、本来なら近藤には一言挨拶があってしかるべきだったのでしょうね。しかし、井上はあえてそれには触れずに、「だったら、こっちでも何かやらないといけませんね。」と提案します。「やりましょう。」と賛同する藤堂に、「止めて呉れよ、俺、そういうの苦手なんだよ。」と原田は言っていますが、その横からおまさが、「実は、永倉さんが、今夜お祝いしてくれはると言うんです。」と言い出します。「いや、俺は良いって言ったんだけどね。」「よろしかったら、皆さんも来て頂けたら嬉しいです。」というおまさの誘いに、「そういう事なら、是非窺いましょう。」と答える近藤。それを聞いて、原田達も嬉しそうです。
道場で、沖田が隊士達に稽古を付けています。「もっと腰を入れろ~!」と凄い剣幕です。「82!83!声を出せ!腰を入れろ!」と竹刀で隊士の腰を打つ沖田。「84!周平、腰を入れろ!」と今度は周平の腰を打つ沖田。思わず倒れ込んだ周平に、沖田は「何やってんだ、立て!」と容赦なく怒鳴りつけます。「86!87!声を出せ!」と怒鳴り続ける沖田の声を聞きながら、周平は必死で竹刀を振っています。元々沖田の稽古は、試衛館の時代から近藤以上に荒いとされて門人達から恐れられていたのですが、今日の沖田はいつもにも増して鬼のようです。やはり、自分の命が短いと知って、少しでも隊士達、とりわけ近藤家の跡取りである周平を鍛えて置きたいというあせりがでているのでしょうね。
稽古を終えて、階段で一休みしている周平の下に、大石がやってきます。その背後には、浅野も居座っています。「沖田さんも、三十郎さんが居なくなってから、容赦がねえなあ。」という大石に、「言われた事が出来ない私がいけないんです。」と答える周平。「兄貴も兄貴だったが、弟も弟だ。いつになったら、腕をあげるんだ、このおぼっちゃんはよ。」と大石は周平の頭をこづき、「俺はなぁ、腕だけを頼りに新選組に入ったんだ。腕もねえのに、縁故だけで隊士で居るようなやつを見るとな、むかっ腹が立ってしょうがねえんだよ。」とまた周平をこづいて、去っていきます。何も言わずに耐えている周平に、浅野が声を掛けてきます。「気にするな。ああは言っても、鍬次郎は、近藤さんや土方さんの同郷だ。思いっきり、縁故で入っている。」と慰めるように言って、周平の隣に腰掛けてきます。「周平。俺は、隊を離れる。」と突然言い出す浅野に驚いた様子の周平。「ええっ?」「新選組に見切りを付けた。こんな所に居たら、命がいくらあっても足りねえ。一緒に逃げようぜ。」と浅野は周平を唆しにかかります。よくよく脱走に誘われる周平ですが、彼が隊内で辛い立場に立っていると誰もが知っているからなのでしょうか。「私は...。」と言いよどむ周平に「俺は、監察に居るから、いろんな話が耳に入ってくる。近藤先生は、お困りのようだぞ。あまりにも養子が頼りないんで、兄貴が居たときはそれでも我慢していたが、今じゃいつ養子縁組を取り消すか、機会を探っているらしい。」と深刻そうな顔で、周平に嘘を吹き込みます。「今夜は、原田さんの祝いで、上の連中が揃って出払う。絶好の機会だ。」という浅野の誘いに、周平は「私は。」と言いかけ、「とんだ根性なしだ。」という浅野に対して「すみません。」ときっぱりと断ります。しかし、浅野は「じゃあ、一つ頼まれ事をしてくれよ。」とさらに食い下ってきます。周平は思わず「はい。」と返事しますが、その頼まれ事とは、とんでもない内容でした。「ばれないように、俺は身一つで屯所を出る。後で、荷物をまとめて持ってきて欲しいんだ。」という浅野ですが、これでは浅野の脱走に手を貸した事になり、下手をすると周平も無事では済まなくなります。断然断るべきであったのに周平は、「それくらい手を貸して呉れても良いだろう。」という浅野の頼みに「判りました。」と答えてしまいます。
お幸の家。山崎が来ています。「東寺近くの伊勢屋という宿に、お孝というおなごが奉公しております。年の頃なら、21。周りの話では、5、6年前にふらりと店に現れ、主人に拾われたようです。」山崎は、近藤に頼まれてお幸の妹のお孝を探していたのですね。その話を聞いて「間違いないです。妹です。」と嬉しそうなお幸。「うちの監察は、腕が良いって言ったでしょ。」と得意げな近藤の言葉を聞いて、山崎もまんざらでは無い様子です。「会いに行っても、よろしいですか。」というお幸に「もちろん。」と近藤は答えてやります。「まず、その目で確かめて見てはいかがでしょうか。」という山崎の提案に、「すぐに行ってみては?」と近藤も同意します。「はい。」「山崎。」という近藤に答えて「用事を2、3片づけてからになりますんで、七ツ半に稲荷神社の境内で落ち合う事にしても、よろしいですか。」と山崎はお幸に都合を聞きます。「判りました。いろいろと、おおきに。ありがとうございました。」と礼を言うお幸に近藤は「妹さんだと、良いな。」と言ってやります。「はい。」と嬉しそうに答えるお幸。
岩倉卿を訪ねている伊東と加納。庭先に跪いて控えています。「昨今は、妙な連中が訪ねて来るが、まさか新選組が来るとはのう。」と意外そうな岩倉。それを聞いて加納が「伊東先生は、新選組で参謀を務めていらっしゃいます。」と伊東を岩倉に紹介します。「この岩倉に何の用や。斬りに来たんか。」と明らかに不機嫌そうな岩倉。どうやら、新選組に対して嫌悪感を抱いている様子です。それを聞いて伊東は一瞬顔をしかめますが、すぐに微笑を浮かべて立ち上がり、岩倉の前まで行って、「伊東甲子太郎、今は新選組に身を置いて居ますが、尊皇の思い、殊の外強うございます。」と言い出します。「そんなら、何で新選組に居る。」と詰問する岩倉に、伊東は「全ては、京に上るための方便。近藤勇の誘いに応じて入隊したのも、京に上って帝の御為に身命をなげうつため。おかげて、こうして岩倉卿の御前におります。」とよどみなく答えます。「わしに会うてどうする。ただの落ちぶれた公家やど。」とまだ信用仕切っていない様子の岩倉卿に、「岩倉卿と言えば、公武合体の要であられたお方。是非とも、時勢についてのお考えを窺いたいと存じ参上致しました。」と言葉巧みにここまで来た理由を説明します。それを聞いた岩倉は、顔をしかめて「うさんくさいなぁ、実に。」とまるっきり疑いの目でもって伊東を見返します。さすがにむっとした様子の伊東ですが、それをそれ以上表には出しません。背後では加納が気遣わしげにその様子を見ています。「しかしなあ、わしはうさんくさいのが、大好きでな。上がりなされ。」と岩倉は、伊東を部屋に通します。さすがに、海千山千の岩倉卿だけあって一筋縄では行かないようですが、その度胸も大したものだと言えそうです。してやたりという表情の伊東ですが、その様子を背後から覗いている一人の男が居ました。
屯所で、ちらし寿司を作っている井上と藤堂。それを座って見ている土方。時々、扇子で風を送っているようです。そこへやって来た周平が、土方に声を掛けます。「あの、井上先生はお忙しいでしょうか。」「自分で聞いてみな。」と言う土方の声が聞こえた井上は、寿司飯をまぜながら「おう、周平か、どうした。」と声を掛けてきます。「ちょっと、ご相談したい事が。」と言う周平ですが、「ああ、すまん、今手が離せないんだ。後で良いか。」と井上はすまなそうに断ります。そう言われて、黙って去ろうとするところに、沖田がやって来ました。それを見て、恐れをなしたように会釈をして慌てて去っていく周平。「何やってるんですか。」と土方に問いかける沖田に、「佐之助の祝いに持っていく、ちらしを作っているんだと。」と答える土方。それを聞いた沖田は、「佐之助さんによろしく言っておいて下さいね。」と言って立ち去ろうとします。「お前、行かないのか。」と意外そうな土方の問いかけに、沖田は「私は、だって見回りがあるから。」と言い訳をしますが、土方は「そんな、誰かに代わってもらえよ。試衛館仲間のお祝いなんだから。」と引き留めます。これに対して沖田は、「そういう土方さんは。」と逆に聞き返します。「俺は、いいんだよ。」「だと思った。」「近頃しょっちゅう永倉さんとぶつかっているから、行きづらいんでしょ。」「向うだって、俺が顔を出して欲しくはねえだろ。」「行ってあげて下さいよ。試衛館仲間のお祝いなんだから。」と土方の言葉をそのまま返す沖田に、土方も黙ってしまいます。庭先では、井上が「椎茸。」と寿司作りに余念がありません。土方は話題を変えて、「体の方はどうなんだ。」と沖田に聞きます。「このところ良いですよ。」と再び喀血した事を隠す沖田ですが、その様子をじっと見ていた土方は、「お前少し痩せたな。」と鋭い突っ込みをみせます。「そんなことないですよ。」と誤魔化す沖田に「稽古もいつになく熱が入っているようだし、見回りだってずいぶん熱心じゃないか。何があった。」と土方は沖田の心の内を見透かしたような事を言い出します。沖田はしかし、「仕事熱心なのに、しかられちゃたまんないよな。」とはぐらかし、「後で顔を出すと佐之助さんに伝えておいて下さいね。」と言い捨てて、去っていきます。その背中に向かって「俺は行かねえよ。」と言う土方ですが、沖田に伝言を頼まれた事で、行かざるを得なくなったようですね。
お幸の家を訪れている周平。お幸は鏡を覗いて化粧をしています。「すんまへんなあ。もう出かけんとあかんのどす。」と謝るお幸ですが、山崎との約束の時間が迫っているのですね。周平は、それには構わずに「近藤先生は、私のことが重荷なんでしょうか。」と言い出します。それを聞いたお幸は、とまどいながらも周平に向き合って「何でそんなふうに思うん?」と聞いてやります。「私が、近藤家の跡継ぎとして、あまりにふがいないから。」と言う周平に向かってお幸は、「近藤先生は、周平さんの事大好きやと思いますよ。よう、あなたの話をしてくれます。算術が得意なんやて?」と優しく言ってやります。「はい。」と答える周平に、「今、新選組には、優れた勘定方がおらんから、行く行くは周平さんにやって欲しいて、言うてましたよ。」近藤の言葉わ伝えます。それを聞いた周平は救われたように明るい表情になり、お幸もなにやらほっとした様子です。
さらに明日に続きます。
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