新選組!34その3
新選組! 第42回「龍馬暗殺」その3
京都の町中を、イカを食べながら歩いている龍馬。それを見た藤堂が「先生!」と言いながら駆けつけてきます。心なしか、声が裏返っている様子。なにやら風呂敷包みを手にしています。「おう!」「こんなところを一人でふらついていては、危険です。」護衛役を仰せつかっている藤堂としては、当然の苦情でしょうね。しかし、龍馬は「ちっくと、小腹が空いたがじゃき。おんしも、どうぜよ。」と、もう一本持っている方のイカを藤堂の方に差し出しながら、のんきそうに答えます。「お願いですから、うろうろしないで下さい。」と泣くようにして頼む藤堂ですが、龍馬はそれを無視して、「そうじゃ、峰吉にやろう。」と言って、一人でどんどん行ってしまいます。その後ろ姿を見ながら、ほとほと困ったという表情で「ちょっと。」とつぶやいき、龍馬を追う藤堂。そしてその背後から、これもイカを食べながら二人をつけていく捨助の姿がありました。さらに、その捨助の後を付けていく山崎。
龍馬が言っていた峰吉というのは、土佐藩御用達の本屋「菊屋」の息子の事で、この頃17歳でした。菊屋は中岡の下宿先でもあり、峰吉は龍馬や中岡から「峰よ、峰よ。」と呼ばれて可愛がられていました。彼は中岡の使い走りのような事もしていたようです。龍馬が暗殺された日にはその直前まで一緒の部屋に居て、彼が龍馬に頼まれて使いに出ていた間に暗殺が実行されました。そしてまた、その凶行があった直後の部屋に最初に入った人物の一人となっています。峰吉は、この事件の後、その実見に基づく貴重な証言を残しています。
近江屋の一室で、風呂敷包みを解いている藤堂。中から、鎖帷子が出てきました。「伊東先生から、是非これを、坂本先生に、着けてもらうようにと預かって参りました。」「これは、すまんにゃあ。」と足を火鉢であぶりながら答える龍馬。「探索が厳しくなって参りましたので、用心に越した事はないと。」「心配しすぎじゃき。」と言いながら鎖帷子を受け取る龍馬。ずしっと、いかにも重そうです。「あの、坂本先生に、一つお聞きしてもよろしいですか。」「先生は、余計じゃき。」「近頃、日本の行く末について、関心を持つようになったのです。正直、新選組に居た時は、先の事は考えずとも、ご公儀の事さえ思っていれば良かった。しかし、今は違う。」「ええ、心がけじゃき。」と、帷子を着ながら答える龍馬。「坂本の考えておられるも新しい世の中の仕組みについては、良く判りました。慶喜公を総裁に、雄藩の総代が、評議にて国を動かす。」「そのとおりぜよ。」「あの、一つ判らないのですが、この先、慶喜公がお亡くなりになったときは、徳川の方々が、代々総裁を引き継がれて行くのですか。」「ほいたら、今までと同じじゃないか。そのときは、入れ札で決めるがじゃき。」「入れ札?」「ああ、そういう時、メリケンではそうするがじゃき。皆の中で一番人気のあるもんが、皆の上になるがじゃ。殿様とは限らん。平助ち、総裁に選ばれたら、総裁になれるがぜよ。」そう龍馬に聞かされて、思わず目を見開いて驚いた様子の藤堂。そこへ、いきなり襖を開けて、「じゃ、俺も、総裁になれるのかな。」と捨助が割り込んで来ます。それを見て、「おまん。」と呆れた様子の龍馬ですが、捨助は「呼ばれてないのにやって来るのが、捨助でございますよ。」と得意のせりふを言って、笑顔を振りまきながら龍馬の前へやってきます。「おいおい、どういて、ここが判ったぜよ。」「見かけちゃった。」と答える捨助を見て、藤堂が刀を引きつけ、どんと畳を叩きます。「なんだよ、止めてくれよ。俺は味方だよ。坂本さんの。」と龍馬の背に隠れる捨助ですが、龍馬はその捨助を見て、ため息をついています。「おれは、近藤勇と土方歳三に、ぎょふんと言わしてやりてえんだよ。だから、俺の敵は近藤。あんたの敵も近藤。俺とあんたは味方。そうだろ。」龍馬はそれに答えず、捨助と龍馬を見比べて、とまどっている藤堂に向かって、「おう、平助、これは重うて動きにくくて、かなわんき。」と言いながら、帷子を脱いでしまいます。続けて捨助に向かって、「おう、おまんも運が悪いのう。」「なんだよ。」「わしは、昼間、伏見の寺田屋に行ってきたばかりぜよ。女将に会うて、話を聞いたき。わしが伏見奉行所に襲われたとき、居場所を教えたが、おんしらしいの。全部、筒抜けじゃき。何しに来たぜよ。」と問いつめます。困った捨助は、「見廻組の佐々木様に、あんたの居場所を探れと言われました。」と正直に答えてしまいます。それを聞いて、藤堂が「斬りますか?」と龍馬に問いかけますが、捨助はとっさに「お許し下さい。」と土下座してしまいます。その姿を見下ろして、「行けや。」と声を掛ける龍馬。「いや、坂本さんがここに居る事を見廻組にしゃべってしまいますよ。」と異議を唱える藤堂ですが、龍馬は「いや、こいつはしゃべらん。」とそれをさえぎり、「わしは、おまんを見逃してやる。ほんで、おまんも、わしを見逃せ。これであいこじゃき。ええかえ。」と捨助に言ってきかせます。「はい。」と答える捨助ですが、藤堂は、「信じるんですか。」と納得いかない様子です。その藤堂に向かって龍馬は、「人は信じる事から始めんといかん。国を動かすにしても、そうぜよ。まずは相手を信じる。それからじゃき。」と諭すように語ります。「いや、しかし、」となおも言いかける藤堂ですが、龍馬はそれをさえぎって「それで裏切られた時には、自分に見る目が無かったという事ぜよ。」と言って、愉快そうに笑います。そして龍馬が平伏している捨助に、その顔を覗き込むようにして「裏切りなよ。」と言ってやると、捨助は「ありがとうございます。」と礼を言って、そそくさと立ち上がって出て行こうとします。憤懣やる方がないといった表情で座っている藤堂の横を通って、まさに部屋から出ようとした捨助ですが、「おい、ちょっと待ちや。」と龍馬に背後から声を掛けられ、おそるおそる後ろを振り返ります。
見廻組屯所。佐々木の前に、跪いてかしこまっている捨助が居ます。「では、坂本は、京に居ないのか。」と捨助を見下ろしながら聞く佐々木。「なんだか、長州がどっか、そっちの方に行ったんじゃないですかね。」と、龍馬との約束を守って、嘘の報告をする捨助。「さすがに、身の危険を感じたか。」「残念でした。一歩違い。」ととぼけている捨助ですが、そこへ、「佐々木様。」と見廻組隊士が知らせを持ってきます。佐々木が受け取った手紙には、「さの字、近江屋」と書かれてありました。それを見ながら、「捨助、坂本は、京を離れたと言ったか。」と捨助に聞く佐々木。「はい。」その答えを聞いて、佐々木は「今、薩摩の使いから、こんな手紙を貰った。さの字、近江屋。」と捨助に手紙を見せながら言います。はっとしながらも、「何ですか。」とさらにとぼける捨助ですが、「坂本は、今、近江屋に居る。そういう意味ではないか。」と佐々木に問われて、「そんな筈、ないですよ~。」と立ち上がりながら言い逃れようとします。佐々木は、じっと捨助を見つめながら、「さすがは、薩摩だ。私が坂本を追っている事、既に知っているらしい。恐ろしいのう。」と、全て捨助の嘘を見通しているように語ります。捨助は、「それ、お信じになるのですか。」とあくまでしらを切り通そうとしますが、佐々木は冷酷に黙って捨助を見つめているだけです。捨助は、「そっちをお信じになるのですね。はい、結構です!」と言い捨てて、屯所から出て行こうとしますが、その背後から佐々木が抜き打ちに斬りかかります。背中を切られて「うわっー!」と叫ぶ捨助ですが、なぜか倒れることなく走って逃げて行きます。それをさらに追いかけようとする隊士を、佐々木は「もう良い、放っておけ。」と止め、「すぐに、皆を集めろ。」と命じます。
逃げて来た捨助。道端の樽の陰にみを潜めます。「危ねえ、危ねえ。」と言いながらはだけた着物の下には、鎖帷子がありました。「貰っといて、良かった~。」龍馬が呼び止めたのは、この帷子を捨助にやる為だったのですね。
なるほど、龍馬の居場所を見廻組に教えたのは、捨助ではなく薩摩だったのですね。しかし、この設定には、ちょっと疑問を感じます。自分たちが後ろで糸を引いている事を悟られたくない薩摩が、わざわざ自らの使者と判る者に手紙を持たせたりするでしょうか。慎重な西郷や大久保がやったにしては、随分と荒っぽい仕事のような気がするのですが...。
新選組屯所の道場。これから、周平と大石の試合が行われようとしています。審判を務めるのは沖田。この試合の行方を見届けようと、近藤、土方、井上、原田、永倉、島田の面々が道場に詰めています。緊張した面持ちの周平に対し、その周平を見てせせら笑っている大石。試合が始まろうとする頃合いに山崎が道場に入ってきて、なにやら近藤に耳打ちいます。それを聞いて、黙って頷く近藤。不審そうに近藤を見る土方に、「坂本さんの居場所を山崎に探らせていたんだ。」と教えてやる近藤。「判ったのか。」「こっちが終わったら、行ってみる。」と行って、腕組みをする近藤。
いよいよ試合が始まります。蹲踞をして対峙する二人。沖田の「始め!」の合図と共に激しく撃ち合います。形勢はほぼ互角。固唾をのんで見守る井上。何度目か野撃ち合いの末、周平の面が見事に決まります。「それまで!」と周平の勝ちを宣言する沖田。それを合図に、周平に駆け寄る井上、原田、永倉、島田。満足そうに顔を見合わせ、立ち上がる近藤と土方。「すみません。もう一度お願いします。」と叫ぶ大石ですが、誰も相手にしてくれません。みんなに祝福されてもみくちゃにされて嬉しそうにしている周平とは対照的ですね。「やったな、周平。」と声を掛けてやる沖田。悔しそうに、一人座り込む大石。近藤と土方も周平に近づき、近藤は沖田に「見違えるようだったな。」と声を掛けます。それを受けて、「徹夜で叩き込みましたから。まだまだこれからですけど。」とにこやかに答える沖田。満足そうに頷いて、「周平。よく頑張ったな。」と今度は周平に声を掛ける近藤。「はい、ありがとうございます。」と答えている周平を見ていた沖田は、突然込み上げるものを吐き出します。沖田の手のひらに出てきたものは血でした。突然、縁側に向かって走りながら、激しく血を吐いて倒れる沖田。驚いて駆けつける土方と近藤。「総司!」「総司!」と口々に叫ぶ土方と近藤ですが、沖田はぐったりとして、何も答えません。
薄暗い階段を上がってくる佐々木。二階の廊下の端の窓から、外の様子を窺っている見廻組隊士が居ます。その隊士の側まで来て座った佐々木に、「坂本は、母屋の二階の奥です。」と報告する隊士。「一人か。」「いえ、四人程、客が来ているようです。」「一人になるのを待つ。」と行って、じっと外を見ている佐々木。
近江屋の一室。訪れている客とは、中岡と、斉藤を連れた伊東でした。護衛の藤堂も同席しています。「これから、岩倉卿の会合があるというので、これから顔を出してみる事にしました。」と伊東。「そうかえ、岩倉卿には、よろしゅう伝えておいてくれんかえ。」と龍馬。「薩摩の大久保も来る。良い機会ですので、私の唱える大開国策を聞いて貰おうと思っています。」という伊東の言葉を聞いて、「おまんも行ってきたらどうぜよ。」と藤堂に声を掛けてやる龍馬ですが、藤堂は、「私は。」といい淀んでしまいます。それを受けて、「この者は、先生の警護の為に付けたのです。」と龍馬に言う伊東。「わしの事は、心配いらんき。近頃、日本の行く末に、関心を持つようになったらしいき。そういう所には、出来るだけ足を運んだ方がええき。話を聞くだけでも、為になるぜよ。」と龍馬はあくまで藤堂をつれて行く様に伊東を説得します。そう言われても納得がいかない様子の伊東ですが、藤堂に「是非、お供させて下さい。」と言われて、とうとう連れて行ってやる事にしたようです。
近江屋から出てきた藤堂と伊東。藤堂は提灯を持って先に立ち、「先生、お気を付け下さい。」と声を掛けます。伊東は尊大に「おう。」と答えて、後に続きます。その様子を向かいの家の二階から見下ろしている見廻組隊士達。
とっくりを抱えて、部屋に入ってくる龍馬、部屋の中では、斉藤が蹲っています。どうやら、藤堂の代わりに警護を命じられたのですね。その斉藤を見て、「おまんも、帰ってええき。」と声を掛ける龍馬ですが、斉藤は、「伊東先生に残る様に言われた。」と言って、動こうとしません。龍馬は、「中岡もおるき、心配選でもええ。と言うか、おんしが居ると、場が堅とうなっていかん。」と言いながら自分と中岡の杯に酒を次ぎます。その様子を見ていた斉藤は、黙って立ち上がり、部屋を出て行こうとします。龍馬はその斉藤に向かって、「新選組におった斉藤一というたら、名だたる人斬りじゃき。」と声を掛けます。「今まで一体何人殺したぜよ。」と龍馬に聞かれて、「いちいち数えていない。」と無愛想に答える斉藤。龍馬は、斉藤に「おまんに、よう似た男を知っちゅう。」と言って、「以蔵に似てないかや。」と中岡に話しかけます。それを聞いた中岡は斉藤を眺めやり、「そう言えば、どことのう、似ちゅう。」と答えます。「以蔵?」と振り向いた斉藤に、「聞いた事あるろう。土佐の人斬り、岡田以蔵じゃき。」と教えてやる龍馬。「わしは、そいつをずっと見てきたき。ほんで、人斬りの事は、大体判る。始めの二、三人は夢中で斬る。それから、だんだん、何とも思わんようになる。それが過ぎると、斬ったやつの思いが、澱のように心に溜まって、斬るががだんだん、怖あなってくる。」と、斉藤の心を見透かした様に言い当てた龍馬は、「おんしは、今どの辺ぜよ。」と改めて問いかけます。斉藤は、「教える義理は無い。」と言い捨てて部屋を出て行こうとし、「それも、そうぜよ。」と龍馬も答えますが、斉藤は不意に振り返って、「その先はどうなる。」と龍馬に問い質します。「先は、以蔵も知らん。首斬られて、死んでしもうたき。」という龍馬の答えを聞いて、ショックを受けたように呆然としていた斉藤ですが、気を取り直して襖を閉めて出て行きます。
以下、明日に続きます。ついに、四部作に突入...。
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