新選組!34その2
新選組! 第42回「龍馬暗殺」その2
おたふくの前で掃除をしている原田。なんだが、新選組の大幹部とは思えない姿です。店の中では、島田と永倉がお汁粉を食べています。「王政復古って、何なんだい?」と島田に聞かれて、「俺に聞くな。」と答える永倉。島田は「何がどうなっちまったんだい。新選組は、どうなるんだい?」重ねて聞きますが、永倉は何も答えません。そこへ店の中に入ってきた原田が、「大丈夫、心配ねえ。何も変わりゃしねえよ。」と代わりに答えてやります。「だけど、徳川幕府は無くなっちまったんだろ。」「無くならねえよ。」「だけど、無くなっちまったって、言ってたよ、みんな。」「無くならねえ、つってんだろ。」という島田と原田のやり取りの中に、「ねえっ。」と店の奥から出てきて割り込んで来るおまさ。すっかり、お腹が大きくなっています。「また、お汁粉の鍋、焦がした。」「少しは焦げてた方が、香ばしくて美味いんだよ。」「ちゃんとも見てんとあかんやないの。」と夫に苦情を言うおまさですが、原田は「おまえ、ほら、ほら、横になってろよ。」と身重のおまさを気遣います。おまさは、「ちょっとは動いた方がええの。」と夫をあしらって、永倉と島田の横に座り込んで、「これから、どうなって行くんやろか。」と聞きますが、「さっぱり、判らん。」としか答えられない永倉です。「そうかて、ご公儀のために新選組は頑張って来たんでしょう。そのご公儀がのうなったら、これからどうするんですか。」と、もっともな疑問を聞くおまさに、「昔は、こういう時、解説してくれる人が必ず居たんだがなあ。」と嘆息するように答える永倉。島田も同じように、「居たんだがなあ。」と続けます。これって、山南の事を言っているのでしょうね。あるいは新見か、それとも伊東?いずれにしても、今の新選組に頭脳派と呼べる人材は居ないようですね。
会津藩本陣で、佐々木と近藤、土方が向かい合っています。「気になるのは、今後我らの手当が、どうなるかって事だ。」と言ったのは土方。彼にしてみれば政局がどうとかいう事より、組織として新選組を維持していけるかが第一の関心事なんですね。これに対して、「幕府が無くなっても、月々の手当はきちんと出るはず、と思うが。」と佐々木も自信を持って答える事は出来ないようです。「気にするところが、違うだろう。」と土方をたしなめる近藤。さすがに近藤は、土方よりも大きな視点を持っていますね。寄って立つべき徳川家の屋台骨が揺らいでいるのに、自分たちの懐具合を心配している場合では無いでしょう。しかし、土方にしてみれば、給金が出なければ、隊士があっという間に散ってしまうという懸念を持っていたのではないでしょうか。新選組としてまとまってさえ居れば、どんな仕事でも出来ますが、隊士が居なくなってはどうしようもありませんからね。近藤よりも、ずっと実際家なんだと捉えてやるべきかも知れません。
「すべては、土佐の入れ知恵らしい。土佐の山内容堂公が上様に献策し、政権返上が決まったという。そもそも、それを考えたのは、坂本龍馬。私は、坂本を斬る。今や、あの男は、徳川の最大の敵である。」と龍馬惨殺の決意を表明する佐々木ですが、「しかし、坂本に付いて、300人の海援隊が京に入ったという噂を耳にしました。今、坂本を斬れば、彼らが黙っていない。」と懸念を表す近藤。それに対して、「それゆえ、見廻組としてではなく、佐々木只三郎として斬るつもりです。徳川は、一切、この件には、係わりがない。」と覚悟の程を示す佐々木に、「しかし、居場所は判っているですか。」と聞く土方。それに答えて、「今、探索している所。この京のどこかに、必ず居るはず。近藤殿、私はご公儀に命を捧げた男です。それを無くしたあの男、許す訳には、いかんのだ。」と言う佐々木の言葉を聞いて、複雑な表情の近藤です。
ここでは、佐々木は龍馬が大政奉還の黒幕だから斬ると言っていますが、大政奉還の建白書は土佐藩が出しており、公式にはその参政の後藤象二郎の発案によるものとされていました。その裏にいる龍馬の働きをどこまで佐々木が知っていたのかについては疑問があります。佐々木は、龍馬は先に寺田屋で襲われた際に2人の捕り方を射殺していますが、その殺人犯として龍馬を追っていました。出動に際して部下に対して行った指示もその延長線上で出しており、少なくとも佐々木に関する限り、龍馬襲撃は大政奉還とは直接関係がなかったのではないかと思われます。
岩倉卿の前に控えている西郷と大久保。岩倉卿は、蟄居を解かれたのですね。「なんちゅう、男やろか。徳川慶喜。どうせ、お前等には政は出来んやろて、鼻で笑ろうてるあいつの顔が、目に浮かぶわ。腹の立つ。」と岩倉卿は機嫌が悪い様子です。「せっかく、討幕の勅命まで手に入れたとに、全て無駄になってしもうた。」と愚痴る西郷。それを受けて、「向うは、わしらが泣きついて来るのを待っているんや。意地でもこっちで、新しい仕組みを作らなあかんなあ。」と強い調子で言う岩倉に、「はい。」と答える西郷。「やっかいじゃっとは、坂本龍馬。」と吐き捨てるように大久保が言うのを受けて、「あの男も、そろそろなんとかした方がええのとちがうか。余計な事ばっかり、しよって。」と菓子をほおばりながら、岩倉が物騒な事を言い出します。「なんとかしもんそ。徳川を潰し、おいどん達が次の頭になるためには、あん男に居て貰っては困る。なんとかしもんそ。」と暗に龍馬の排除を口にする西郷。「なんとかするにしても、わしらが疑われるようななんとかは、ちょっと困るぞ。」と、陰謀家丸出しの表情で言う岩倉に、「幕府方には、坂本に恨みを持つもんも、おおかち聞きました。そん筆頭が、見廻組の佐々木只三郎。」と答える大久保。「使えるな。」「坂本君は、今、どこに泊まっちょっとな。」と言ったのは西郷。
この場面の描写には、ちょっと異議があります。このやり取りでは、薩摩が天下を取りたいが為に幕府を討つという事になってしまいます。確かに、結果的には薩摩閥が明治の代を支配する事にはなりますが、少なくとも西郷や大久保には、天下を私するつもりは無かったはずです。自らの出世のために明治維新を起こしたという事になりかねない西郷の発言は、いくら何でもひどいと思うのですが。
また、大政奉還について龍馬が余計な事をしたと怒っていましたが、薩摩藩は土佐藩が建白書を提出する事に、事前に同意を与えています。つまり、大政奉還の建白は薩摩藩も了解済の事であり、余計な事というのは当らないはずです。ただ、彼らは十中八九、慶喜がこの建白書を飲む事はないと見ており、同時に討幕の密勅を得る工作を進めていたのでした。龍馬にしても、慶喜が受け入れない時には海援隊士を率いて慶喜の行列を襲うつもりだったと言いますから、半信半疑だったのでしょうね。それだけに慶喜の決断は驚天動地と言うべきもので、薩摩としては完全に裏をかかれた形となりました。要するに、薩摩が慶喜の政略にしてやられたと言うべきであって、龍馬が余計な事をしたと怒るのは筋違いと言うものです。
近江屋を訪れてきた中岡。部屋の中には、龍馬と藤堂が居ます。「おう、海援隊が京に入ったという噂は広まったがかえ。」「ああ、300人と流した。」「こじゃんと、出たなあ。」「おまんが、言うき。」「これで、暫くは、わしらの身の上も安心じゃき。」なるほど、近藤が言っていた海援隊士が京都へ入ったという情報は、龍馬が流したデマだったのですね。「本当は、何人入ったのですか。」と聞く藤堂に、「3人じゃき。」と小声で答える龍馬。あきれている藤堂を尻目に、二人で笑っている龍馬と中岡。
1867年(慶応3年)11月15日。屯所の道場で、周平と沖田が剣術の稽古をしています。それを見守る土方、井上、島田の3人。「周平も、様になってきたな。」と土方。「総司の教え方にも、力が入っていますから。」と井上。「王政復古だって言うのに、よく稽古なんてしてられるな。」と呆れたように言ったのは島田。「ずいぶん張り切っているな、周平。」「はい、実は、これには訳があるんです。今夜、試合があるんです。」「試合?」「相手は、大石鍬次郎。」「妙な取り合わせだな。」「あれは、十日前の事です。」(以下、井上の回想。)おたふくで、お汁粉を食べている周平。その背後から迫る影があります。持っていた棒でいきなり周平の頭を叩いたのは大石でした。思わず振り向いて、「何すんだ!」と怒る周平に、「昼間っから、汁粉食ってるんじゃねえよ。」と毒づく大石。そこへ、「おい、おい、おい。俺の店の汁粉にケチ付ける気か。」と奥から出てきた原田。「こいつ、隙がありすぎんですよ。」とからむ大石に、「汁粉食べている時くらい、良いじゃありませんか。」と言い返す周平ですが、大石はさらに持っていた棒で周平の脇腹を突きます。「よせ。」「近藤先生に、捨てられたくせに。」というやり取りを聞いて、「あれ、あれ。、あれ、お前達、仲悪いのか。」と二人の間に割って入る原田。「こいつが勝手に言っているだけです。」と将兵が言うのに、再度棒で突く大石。それを見て「おい、よせって、もう。」と止める原田。「なんだお前、そんなにこいつの事が嫌いなのか。」「むしゃくしゃするんですよ。顔見てるだけで。」となおも、棒でこづく大石を止めて、「だったら、試合で決着付けろ。な。お前も、人が汁粉食っているところを後ろからどつくような詰まらない真似をするんじゃないよ。判ったか。剣術で勝負を付けろ。」とこの場を仕切る原田に、「試合なら、負けないです。」と言い切る周平。「うぉー、言ったな周平。よっしゃ、決まりだ。」と原田は二人の試合を決めてしまいます。
「お願いします。私に、剣術を教えて下さい。十日後に、鍬次郎と試合をしなければならないんです。それで、どうしてもあいつに勝ちたいんです。」と井上に頼んでいる周平。それを聞いて、にっこりと笑う井上。「何が可笑しいんですか。」とむっとした様子の周平に、「お前の口から、そんな言葉が聞けるとは、思わなかった。」と答える井上。そう言われて、周平は少しはにかんだような表情になります。「剣術はな、周平、教わってすぐに上達するものではないぞ。強くなりたいか。」「はい。」「強くなる近道は、強い人に習う事だ。」「はい。」
縁側で、刀の手入れをしている沖田。その横に、井上と周平が座っています。「私は良いけど、日頃の鍛錬とは別にって事でしょう。」「うん、十日しか無いが、なんとか頼む。」「寝る暇なんて、無くなるぞ。」「覚悟は、出来てます。」「途中で止めたは、無しだぞ。」「はい。」(回想終わり)
「で、今日がその試合の日なんです。」「これは、見物だな。」「周平、がんばれ!」と、激を飛ばす島田。執拗に稽古を続ける沖田と周平ですが、「よし、一旦休憩だ。」と土方が止めます。「土方さん!」「私は大丈夫です。」と言う沖田と周平ですが、土方は、「ちょっと休め。」と無理矢理稽古を中断させます。「島田、水持ってきてやれ。」「はい。」
すっかり息が上がっている周平を見て、「あんまり根を詰めすぎると、試合まで持たないんじゃないか。」と沖田に聞く井上。「周平は、自信が無い分、力で押そうとする。多少、疲れていた方が、良いんですよ。」と答える沖田ですが、自身もかなり息が荒くなっています。そこへやってきた土方に、「息が荒くなっているぞ。」と言われますが、沖田は周平の方を振り向いて、「あれくらいでだらしないな、全く。」と誤魔化そうとします。しかし、それには乗らず、「お前だよ。」とと言って、沖田をじっと見つめる土方。「ゆうべも一晩中か。」「周平のやつ、どうしても参ったと言わないんですよ。」「気持ちも判るが、ほどほどにしとけ。お前の為だ。」と土方に言われますが、沖田は何か思い詰めた様にじっと黙ったままです。
若年寄の永井尚志の下を訪れている近藤。「是非、永井様のお考えをお聞かせ下さい。いったい、この先、我らが何をすべきか。」「わしに聞くな。知らんよ、そんな事。ただ、上様も政権は返上されたが、本気で徳川の世に幕を引かれるおつもりは無いようだし、さほど心配する程の事ではないと、わしは思っているよ。」「心配でございます。」「それよりも、土佐の坂本龍馬を知っておるな。」「はい。」「夕べ、ここへ来た。」(以下、永井の回想。)
永井と酒を酌み交わしている龍馬。「なんとか、戦にはならんように、出来んもんですろか。わしが、約束するきに。徳川幕府はのうなったけんど、慶喜公には、これからも存分にお働き頂くつもりですきに。」そう龍馬に言われて、思わず龍馬の顔を見る永井。「わしの考えでは、この国を動かす新しい仕組みは、まず一番上に帝が来る。その下を、薩摩、長州、土佐の力のある藩の者達が固める。その中心におるがが、徳川慶喜公じゃき。」「それで、薩摩が納得するか。」「かならず、薩摩をうんと言わせてみせますき。薩長との戦は、どうしても避けて欲しいがじゃき。」と熱く語る龍馬。(回想終わり。)
「ひょっとするとあの男、大罪人どころか、今、我々にとって、最も大事な人物かもしれん。徳川の渦中には、あれを斬ると息巻いているものがおる。」「そのようです。」「坂本を守れ。薩長を押さえられるのは、あの男しかおらん。ここで、死なせる訳にはいかん。」そう永井に命じられて、「かしこまりました。」と答える近藤。「無用な諍いを産まぬよう、あくまでも内々にな。」「はっ。」近藤にすれば、かつての友人であった龍馬との絆を取り戻す、絶好の機会が巡ってきた訳ですね。彼が生き生きとしてきたのも判ろうと言うものです。
龍馬と永井は、大政奉還を巡って何度か会っています。後藤象二郎と手分けをして、慶喜が土佐藩の建白を受け入れるようにとの工作を行っていたのでした。そして、後龍馬が襲われる4日前にも永井の下を訪れています。ここで何を話たのかは判りませんが、この頃新しい政府案として「新政府綱領八策」をまとめていることから、その事についての相談だったのかも知れません。
新政府綱領八策とは、次のような内容でした。
第一義
天下有名ノ人材ヲ招致シ、顧問ニ供フ。
第二義
有材ノ諸侯ヲ撰用シ、朝廷ノ官爵ヲ賜ヒ、現今有名無実ノ官ヲ除ク。
第三義
外国ノ交際ヲ議定ス。
第四義
律令ヲ撰シ、新ニ無窮ノ大典ヲ定ム。律令既ニ定レバ、諸侯伯皆此ヲ奉ジテ部下ヲ率ス。
第五義
上下義政所。
第六義
海陸軍局。
第七義
親兵。
第八義
皇国今日ノ金銀物価ヲ外国ト平均ス。
右預メ二三ノ明眼士ト議定シ、諸侯会盟ノ日ヲ待ツテ云々。〇〇〇自ラ盟主ト為リ、此ヲ以テ朝廷ニ奉リ、始テ天 下万民ニ公布云々。強抗非礼公議ニ違ウ者ハ、断然征討ス。権門貴族モ賃借スル事ナシ。
この最後にある○○○が問題の箇所で、ここに誰を入れるつもりだったのかについては意見が分かれるところです。最も一般的なものが徳川慶喜を想定していたという説で、ドラマの設定でもそうなっていましたね。そして、永井はこれを受けて慶喜に報告し、その意を受けて新選組と見廻組に対して、龍馬の捕縛中止を命じたと言います。ただ、私はこれを小説やウェブ上の情報で読んだだけで、具体的にどの資料に載っているのかは判りません。
屯所の近藤の居室。書見をしている近藤の所に、「お茶が入りました。」とやってきたお孝。「はい、どうぞ。」と近藤か答えると、障子をがらっと開けて、ずかずかといった調子で部屋に入ってきます。なにかにつけ、優美だったお幸に比べて、なんとなくがさつな印象を受けます。「いかがですか。少しは、ここでの暮らしに慣れましたか。」「慣れませんわ。お店に戻ったら、あきませんか。」「あなたの面倒を見るようにと、あなたのお姉さんに言われたんです。」「けど、ここに居っても、やる事ないし。」「好きな事、やって良いんですよ。」「好きな事と言われても、思いつかんのです。それに、周りは男ばっかりやし。かなり、危ないんやないやろか。」「あなたに手を出す者は、うちには居ない。お稽古事は、どうですか。踊りや三味線や、生け花でも何でも良い。」「なーんも、やりたい事、無いんや。」「お姉さんは、どれも実に上手でした。」「姉ちゃんと比べられても、困るんです。そや、姉ちゃんて、どんな人やったんです。」「どんな人と言われても。」「きれいやった?」「それは。」「うちに、似てた?」黙って頷く近藤。「姉ちゃんのこと、好きやったんでしょ?」困って、何も言えない近藤。それを見て、べー、と舌を出して見せるお孝に、あっけにとられている近藤。お孝は、「そやなあ、習うんやったら、馬か、弓か、長刀にしよかな。」と言い捨てて、障子を開けたまま部屋を出て行きます。後に残された近藤は、「閉めていって下さい。」と呆れたようにつぶやきます。
以下、明日に続きます。
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