新選組!32の2
新選組!32の2 第40回「平助の旅立ち」その2
慶応3年正月に、永倉と斉藤が伊東一派と共に新年の集いを開いたというのは、永倉新八の「新撰組顛末記」に出てくるエピソードです。それによると、会合のあったのは元旦、場所は島原の角屋となっています。伊東は花香太夫、斉藤は相生太夫というなじみの相手を呼び、永倉も芸妓の小常を呼んだとありますから、ドラマと違ってまだ小常は永倉と一緒にはなっていなかったのですね。この頃の新選組には門限があり、それを破った者は処分される事になっていました。このため、ほとんどの隊士は、刻限までに帰隊したのですが、永倉と斉藤は伊東に引き留められるままに居続け、ついに門限を破ってしまいます。翌日も、「もはや切腹を免れない身であるから、この世の名残に思いっきり飲もう。」という伊東の発議に従って朝から飲み続け、3日目もそのまま過ごし、4日目になって近藤からの使いがあったため、ようやく隊に戻っています。ドラマでは3人の切腹を主張したのは土方でしたが、実際に怒り心頭に達していたのは近藤の方でした。特に永倉に対しては会津候に対する建白書以来含むところがあったのでしょう、彼の罪が最も深いとして切腹させようとします。しかし、それを止めたのが土方で、「永倉だけを切腹させるのは片手落ちで、切腹させるなら3人ともさせなければならない。しかし、それをしたのではあまりにも影響が大きすぎる。」として3人を謹慎させるにとどめました。伊東と斉藤は3日、特に近藤の不興を買っている永倉は6日の謹慎の後、許されたとあります。この事件は、伊東が永倉と斉藤を近藤から引き離すために仕組んだ策謀とも、単なる鬱憤ばらしとも言われています。「近藤が我々を切腹させようとしても隊士が承知しない」とたかを括っていたとありますから、近藤の怒りを買う事を承知の上での確信犯であった事は間違いないでしょうね。
次いで、永倉が伊東に向かって言ったセリフ「あなたが人を信じず、そして己も信じてないからだ。」についてですが、確かにドラマの伊東はこういう性格設定になっていますね。しかし実際にはむしろ逆と言うべきで、伊東は人も自分も信じ過ぎた人であり、そこに彼を襲った悲劇の元凶があったと思われます。そもそも伊東が新選組に入ったのは尊皇を旨とするという近藤の言葉を信じての事でしたし、隊に入ってしまえば新選組を自分の思う尊皇への道に導けるという自信があったからでした。また、御陵衛士となった時に斉藤がスパイとして自分の下にやってきますが、その斉藤を疑いもせず自らの近くに置き、その斉藤が姿を消したというのに何ら危機感を抱くことなく、無邪気にも近藤の誘いに乗ってあっけなく惨殺されるという最後を迎えるに至ります。これなど、近藤が自分を殺す筈が無いと信じ切っていたということですし、万が一襲われても切り抜けられるだけの腕を持っていると自信があったという事なのでしょう。伊東を策士と呼ぶには人を疑う事を知らなさ過ぎ、あの時代を生きるにはあまりに純粋な人だったのかなという気がします。
新選組を訪れている佐々木只三郎。一緒にいるのは捨助です。挨拶が遅くなったと言う佐々木に対し、こちらこそと答える近藤ですが、佐々木の背後に居る捨助を見て「なぜ、お前が居る?」と尋ねます。それを受けて「私が預かっている。見廻組のために働いてもらう」と佐々木が答え、捨助は、「元気でやってたか、近藤」と調子に乗って近藤に話しかけます。近藤は、「悪い事は言わない、おやめなさい」と佐々木に忠告を与えますが、捨助は、「言わせておきましょう」と佐々木に耳打ちします。佐々木は「帝が崩御され、我々は最大の後ろ盾を失ってしまった」と別な事を言い出します。「この慶応3年という年は、徳川幕府にとって大きな転機になるかも知れない」「肝に命じます」「これからも、共に力を合わせてご公儀のために働こう」近藤は、そのやりとりを聞いて後ろでしたり顔で頷いている捨助を睨み付けながら、「よろしくお願いします」と答えます。佐々木は、捨助に向かって「金戒光明寺に行って来る。お前はここに残り、竹馬の友と語り合うが良い」と言い、捨助を残して立ち去ります。後に残った、捨助、近藤、土方の3人。
「お前は、何をやっている」と切り出す近藤。「お前、馬鹿だろ」と捨助には特に辛辣な土方。これを聞いた捨助は、「うるさいなあ!俺の生き方に口だししないで貰いたい」と居丈高な態度に出ます。「だって、おかしいだろ。この間まで長州とつるんでいたやつが、なぜ見廻組に入ってるんだ」と非難する土方に、「だって、佐々木様が面倒見てくれるからさ。俺の身の軽さが気に入ったんじゃないか」と気楽な調子で答える捨助。「お願いだから、多摩へ帰れ」と強い調子で言う近藤に、捨助は「いやだ、俺は京で偉くなるまで帰らないって決めた。まあ、これからも共に、力を合わせてご公儀のために働こうぞ」と偉そうに佐々木の真似をして答えて近藤と土方の肩を叩きますが、「帰れ!」と近藤と土方にステレオで怒鳴りつけられてしまいます。「なんだよ」としゅんとなって元に戻ってしまった捨助。
伊東の下を訪れている武田。「局長達は、伊東先生が新選組を二つに割ろうとしていると考えておられます」と切り出す武田ですが、伊東に「根拠の無い事だ」と軽くいなされます。「思うに、近藤勇と伊東甲子太郎の二人が並び立ってこその新選組だ」と続ける武田ですが、「話の筋が見えない。お引き取りを」とまるで相手にされません。武田は呆然としますが、すぐに気を取り直して「実は私、最近フランス語にえらく興味を持ちまして。ボンジュール、コマンタレブー」と言いかけますが、伊東はそれを制して「これから世界で最も頻繁に使われる言葉は、米国語です」と武田に諭すように語りかけます。武田は、「ああ、それもあります」とにこやかな作り笑顔で答えますが、「武田君は、米国については?」と伊東に聞かれ、「一通りは」と知ったかぶりをするのが精一杯の様子です。「プリーズ」と伊東に言われて、何も判らないまま「プリーズ」とオウム返しに答える武田。さらに伊東に、「プリーズ、ゴー、ホーム」と英語で帰れと言われているのに気が付かずに、武田は「プリーズ、ゴー、ホーム」とにこやかに繰り返します。彼にすれば、伊東との会話が成り立っていると思っていたのでしょうか。しかし、「お引き取り下さいという意味ですよ」と伊東に言われて、ようやくからかわれていた事に気づきます。伊東に「これから話し合わねばならぬ事が、山程あります」と言われた武田は、あたふたと出て行きます。「己の事しか考えていないおろか者。」と武田を斬って捨てる伊東に、加納は「どこまで気づかれているでしょうか。」と問いかけ、篠原は「もしや、永倉達が」と懸念を表します。それを聞いた藤堂は、「彼等はは、決してそういう人ではありません」と答えます。「二人をだましてここへ連れてきたのは、紛れもない事実であるし、そこから判断して何を考えているかは、土方なら推察出来るだろう」と冷静に状況を分析する伊東に、加納は「どうされます。」と問いかけます。それに「先手を打とう」と答える伊東。
武田が近藤と伊東の間を周旋しようとした事実はありません。武田が隊士の間をとりもった事があるのは、永倉が近藤に対する建白書を会津候に提出した時です。伊東との関係で言えば、西村兼文の「新撰組始末記」には、西洋式軍学を取り入れた隊内において立場を無くした武田が伊東一派に近づこうとしますが、普段の言行を怪しんだ伊東がこれを拒んだとあります。伊東と武田の関係は、このドラマにあるようにあまり良好なものではなかったようですね。また、伊東の使った英語ですが、子母澤寛の「新選組始末記」に御陵衛士達は日々学問の研鑽に励んでいたとあり、篠原の残した覚帳に「ぐうとないと」「ぎぶみい」「せんきゅう」「あいらぶゆう」という英語が書かれたとされています。この事から御陵衛士は英語の勉強もしていたと考えられていますが、これが篠原個人だけの事に止まるのか、伊東も皆と一緒になって勉強していたのかまでは判りません。可能性としては、一門の師匠である伊東が英語も自ら教えていたと考えられなくもないですね。
西本願寺の屯所。近藤、土方と伊東が対峙しています。「長州の動きを探りたいと考えています」と切り出す伊東。それを聞いて「長州。」と唸るようにつぶやく近藤。「これからの新選組は、京の治安だけではなく、幅広く働くべきと思う」と続ける伊東に、土方は「何が言いたい」と質します。これに対して伊東は、「暫くの間、間者として長州に潜入したいと思う」と答え、「間者に?」といぶかる土方に、「間者となり、探りを入れる」と繰り返し、「ついては、我ら一党、暫くの間、新選組から離れる事をお許してもらいたい。我々が新選組から離れたと思わせていた方が、仕事がやりやすい」と近藤に投げかけます。これを受けて近藤は、「あなたの考えは判った。仕方がない」と、あっさりと言い分を認めてしまいます。ところが土方は「訳はどうであれ、新選組から抜ける事は法度で禁じられている事だ」と譲りません。伊東は、「形だけと言っています」と返しますが、土方は「だが、長州は怪しむに決まっている」と疑問を投げかけます。しかし、伊東は切り札を持っていました。「帝が崩御され、この度、御陵が造営されます。我らは、その御陵を守る衛士となりたいと願い出ています。尊皇の志を持つ者にとって、これ以上の誉れは無く、帝の御為に働くと言うことであれば、我らが新選組から離れたとしいも何の不思議も無い」そう淀みなく言い切った伊東の言葉を聞いた近藤は、「なるほど、よく判りました」と言い、「分離を認めて貰えますか」と問いかける伊東に素直に同意を与えます。それを聞いている土方は、不満この上ない様子です。しかし、近藤はそれには気づかないふりをして、「ご公儀のため、これからも力を尽くして下さい」と伊東に語りかけます。
「すべては、思いどおり」と屯所を後にする伊東と加納。
「あれほど、言いくるめられるなと言ったのに、駄目じゃないか」と荒れている土方に、「俺は、無駄な血を流さずに済むのなら、言いくるめられても構わないと思ったんだ」と答える近藤。それを聞いて土方は、呆れたように近藤を見ますが、土方は、「勝手にしろ」と言い捨てて、背中を向けてしまいますが、近藤は「芹沢さんの時のような思いはもうごめんだ。」とつぶやくように心境を語ります。依然として呆れている土方ですが、井上は土方に向かって「心配なのは、伊東先生には心酔するもの達が多いという事。もし、あの人を斬れば、彼等が黙っていない」と語りかけます。「何を恐れるのですか。斬り合いになったところで負ける筈はないし、一息にけりを付ければ良い事なのに。」と言う沖田に、「伊東さんの脱退は決まった事、もう終わりだ」と近藤は言って、話を切り上げてしまいます。「平助は、どうするつもりだろう」と沖田。「つらい立場だろうな」と井上。それを聞いた土方は、何かを思いついたようです。
以下、明日に続きます。
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