新選組!27
新選組! 第35回「さらば壬生村」
冒頭、夜の京の町を走る新選組隊士達。「誠」の提灯が新選組らしい雰囲気を出しています。
「おせえなぁ。」とつぶやいたのは捨助。「本当にこことおっしゃったのか。」と続いたのはとある長州藩士。「くっそー、うどんでも食って待ってるか。おごってやるよ。」と優しく言う捨助。「私はいい。」となぜかつっけんどんな長州藩士。捨助は「遠慮すんなよ。」と彼を近くに居た屋台に引っ張っていき、「おやじ、二つ。」と注文します。捨助の差している刀は、随分と上等なもののようですね。「へーい。」と答えた声はどこかで聞いたような気がします。「桂先生は一体私に何の用だろうか。」長州藩士は、仙波甲太郎と言うのですね。「もっとしっかり、俺を守れって、叱られるんじゃないのか。」とちゃかす捨助に「俺はちゃんと守っている!」と怒り出す仙波。「冗談だよ。お前、すぐ本気になるなぁ。」と捨助は仙波と結構親しそうです。「へい、お待ち。」と出されたうどんですが、うどんだけでつゆが入っていません。「なんだよ、つゆが入ってないじゃねぇか。」とうどんの玉をこねくりながら文句を言う捨助。「作り方が判らん。」とうどん屋にあるまじき事を言い出す屋台の主人。「先生!」「声が大きい。」屋台の主人は、桂小五郎の変装した姿でした。
「お会いしとうございました。」と仙波。「ゆっくり話している暇はない。国へ帰る事になった。」と桂。「やはり。」「すでに耳に入っているとは思うが、国元では高杉達が立ち上がり、藩の実権を握った。」「はい。」「高杉が私を呼んでいる。」ようやく、桂の潜伏が終わる時が来たのですね。長州藩では、相次ぐ戦と内部粛清により、対外的に名の知れた人材が次々と倒れていきました。いまや、長州藩の代表となりうるのは、桂一人だったのです。「私達もお供いたします。」と申し出る仙波ですが、「お前達は残れ。京都の様子を知りたい。今以上に詳しく。」と桂は残留を命じます。それを見ていた捨助は不安に駆られて、「俺は、俺はどうなるの?」と桂に問い質します。桂はそれには答えず「お前、あのはたきはどうした?」と反対に聞き返します。「ああ、渡してきましたよ。」となんとなく怪しげな表情の捨助。「岩倉卿はなんと?」「何も。」と目を合わさずに、下を向いて答える捨助。「そうか、しょうがない、他日を期すか。」と残念そうにつぶやく桂。「ご苦労だった。」とだけ言って、その後の事は言わない桂。どうやら、ここで捨助を見限ったようてす。「ちょっと待ってよ~。お役後免て事。」と叫ぶ捨助を桂は無視して、「明日の朝、出立する。」と仙波に向かって言います。「お気を付けて。」という仙波に、桂は優しく声を掛けます。「仙波、お主は嫁を貰って、間もなかったな。」と言いながら懐から巾着を取りだして仙波の方へ差し出します。「いいえ、要りません。」「どうせうどんを売って稼いだ金だ。」「これで金取っていたんですか。まずいでしょ。」と捨助。確かにつゆなしのうどんでは、金は取れないでしょうね。おそらくは、桂が別途用意してあった金なのではないでしょうか。そう聞いて仙波も貰う気になったのでしょう、「ありがとうございます。」とうれしそうに受け取ります。満足そうな桂。
そこへ、新選組の組頭が下知する声が聞こえてきます。「このあたりを、隈無くさがせ。お前達、そっちを回れ。」現れたのは、武田観柳斎の率いる一隊でした。他に松原や斉藤が居ます。後ろ向きになって風呂敷で顔を隠す捨助。桂を庇って、身を乗り出す仙波。「馬鹿。」と小さく桂がつぶやきます。「愚か者め、楯になるという事は、ただのうどん屋では無いと、言っているようなものではないか。」と鋭いところを見せる武田。「桂、小五郎?」と顔見知りの斉藤がつぶやくように言います。「先生、お逃げ下さい。」と鋭く言う仙波。ここは自分が楯になって、桂を逃がそうというのですね。「捕らえろ!」という武田の叫び声と共に、一斉に刀を抜き連れる新選組隊士達。「天狗、先生を頼んだぞ!」と叫ぶ仙波。捨助を呼ぶ暗語として、天狗が定着しちゃったのですね。一人で、新選組隊士の中に斬込んでいく仙波。「桂!」「捕らえろ!」と叫びながら桂に襲いかかる隊士達。2、3の隊士を投げ飛ばして、逃げる桂。それに従う捨助。二人は夜の町を走りますが、袋小路に入ってしまいます。「どうしよう、桂先生!」とうろたえる捨助を余所に、桂が井戸のつるべをがらがらと言わせて引っ張ると、傍らの板塀が上がって抜け穴が現れます。桂は非情にも捨助を捨てて、自分だけその抜け穴から逃げてしまい、外から穴を塞いでしまいます。捨助を捨て駒にして、時間を稼ごうというのですね。後に残された捨助は、悲惨です。「先生、桂先生!」と周囲を見渡しますが、桂の姿はどこにも見あたりません。「やだ~、ちょっと~!」と事態が飲み込めないまま、武田達に追いつめられてしまいます。「貴様が、噂の天狗か。」と武田。すでに天狗の存在は知れ渡っていたのですね。「桂は、桂はどこだ!」と叫ぶ武田。周囲を見渡して桂に捨てられた事を悟った捨助は、「畜生~!」と叫んで、破れかぶれで武田達に向かって斬込みます。数名の隊士を相手に、意外にも善戦する捨助。その勢いで武田に斬りかかり、塀に押しつけて押し切ろうとします。その様子を見守る斉藤。武田はかろうじて捨助を足蹴にして難を逃れますが、蹴られて後ろ向けに転んだ捨助の手からはずみで刀が離れて飛び、斉藤すれすれの所に勢いよく突き刺さります。危うくこれを交わす斉藤。捨助はわめきながら隊士の包囲をすり抜けて逃亡し、3人の隊士がこれを追います。後に残った武田と斉藤。武田は斉藤のすぐ横に突き刺さった刀を抜きますが、斉藤は逃げた捨助を目で追いながら恐れ驚いた表情で、「出来る。」とつぶやきます。前回の羽織の紐といい、斉藤はなかなか美味しいところを持っていきますね。
一方の仙波。松原ともう一人の隊士と戦っています。「手を出すな!」と声を掛けたのは松原。「来い。」と声を掛けて仙波と対峙し、刀を青眼から下段の構えへと落とします。誘われるように斬りかかる仙波。それを待っていたように、仙波の刀を受け止め、返す刀で仙波を切り倒す松原。さすがに、腕が違うようです。倒れ込んだ仙波は、苦しい息の下で、松原に向かって「頼みがある。」と言い出します。何事かというふうに見つめる松原。「これを、女房に渡してやってくれ。」とさっき桂から貰った巾着をとりだして、松原に示します。「弁天町に住んでいる。」と虫の息でいう仙波。「お主の名は?」と聞く松原。「長州藩士、仙波甲太郎。」松原は、力尽きようとする仙波の手から巾着を受け取り、「必ず渡す。」と約束してやります。安心したように、息を引き取る仙波。済まなさそうに、仙波に手を合わせる松原。その様子を、後から駆けつけた斉藤が、何事かと見ています。
1865年(元治2年)3月10日 京。西本願寺では、新選組隊士総出で、改装作業が進められています。座敷の中で、隊旗の位置を指示しているのには藤堂平助。紙を貼っていない障子戸を持ってぼんやりしているのは浅野薫。「浅野、手が休んでいるぞ。」と藤堂の叱責の声が飛びます。それに驚いて、障子を足の上に落とす浅野。「お前何やってんだ。あ~。」と困ったやつだと言わんばかりの藤堂。
別室で、西本願寺の僧侶達と対座している新選組の幹部達。「今日中には、滞りなく引っ越しを終える事が出来そうです。」と言ったのは土方。「色々とご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが、なにとぞよろしくお願いいたします。」とふくさ包みを押しやりながらあいさつをしたのは近藤。それに併せてお辞儀をする土方、伊東、井上の面々。「これだけは忘れんといて欲しい。わしらは、喜んであんさん方を迎える訳ではないねや。」と嫌味をいう僧侶。「西本願寺が京の人々にとってどれたけ大切なものなのか、それは我々も良く判っております。300年の歴史を汚さぬように致します。」と答える近藤ですが、僧侶達は無言です。「先程、表からですが、飛雲閣を拝見いたしました。あれは、太閤秀吉が建てた聚楽第の一部だと伺いましたが。」と教養のある所を見せる伊東。「はい。」と意外そうに答える僧侶。「豊臣の世の栄華を偲ばせる、絢爛たるものですね。」「判りますか。」と嬉しそうな僧侶。江戸時代には、徳川家が滅ぼした豊臣期の遺構というものは、あまり尊重されていなかったのでしょうね。反対に言えば、豊臣家を称える事は、それを滅ぼした徳川家を貶める事にもなり兼ねないのです。「そう言えば、こちらには、織田信長公が寄進された一文字の茶わんがあると耳にしました。」「おお、ようご存知で。」とますます機嫌が良くなる僧侶。「是非、一度拝見したいものです。」という伊東の言葉に、嬉しそうに顔を見合わせる僧侶達。これを見て満足そうな近藤と、いまいましそうな表情の土方。一文字の茶わんは、織田信長と本願寺が和解した際に、信長から友好の証として寄進されたもので、「呉器茶碗 銘一文字」というのが正式な名称のようですね。
あいさつから戻って、普請の進む新屯所に帰ってきた近藤、土方、井上の3人。その前に河合達が現れます。手には「誠」と大きく書いた下に「勤勉 努力 活動 発展」の文字と、だんだら模様を染めた手ぬぐいを持っています。これって、前川邸の木戸に書かれている近藤が書いたとされる文字ですよね。「局長、近所の皆さんに配るあいさつの品ですが、手ぬぐいにしようと思うのですが、どちらが良いでしょうか。」と2種類を近藤に示す二人。片方は綺麗に白く漂白された手ぬぐいですが、もう片方はなんだか黄ばんで見えます。どうちがうのか、無言で良く判らないといった様子の近藤。その様子を見た河合は、白い方を掴んで、「作りはこちらの方がしっかりしているのですが、値が張るので、私はこちらが良いと思います。」と今度は黄色いを持って説明します。その言葉を聞いて、無言で頷く近藤。「かしこまりました。」と嬉しそうに去っていく河合達。そんな程度の事なら局長に聞くまでもなく、自分達の裁量で決めてしまうか、井上あたりを通してせいぜい副長に相談すれば良いと思うのですが、このあたりはまだまだ組織としては未熟のようですね。
廊下を行く3人の背後から「局長。」と声を掛けたのは谷三十郎です。その後には、弟の近藤周平が従っています。「これは、何かの間違いではないか。副長助勤より上は全て一人部屋を与えられておるのに、我が弟、周平の部屋がない。」と苦情をいう三十郎。「周平は、平隊士だ。」と答える土方。「しかし、周平は、歴とした近藤家の跡取りですぞ。」と食い下がる三十郎。「そういう事で、私は分け隔てしたくないのです。」と近藤。近藤が周平をどのように扱ったかについては、具体的には良く判っていません。しかし、例えば長州征伐を想定した行軍録では、養子として近藤の脇を固める位置に配されており、それなりの配慮があった事が伺えます。「しかし、それでは周囲への示しがつかん。」と三十郎。彼にすれば、武家の跡取りというものは、どこの家中でもそうああるように、それに相応しい格式をもって尊重されるべきだという頭があるのでしょうね。「周平だって、格別の扱いは望んでいないはず。そうだろ。」と近藤に声を掛けられて「私は...。」と言葉を濁す周平。「はっきり、父上に申し上げなさい。」と三十郎。そう言われて周平は、「近藤先生に、お任せします。」これを聞いて、満足そうに頷く井上。「本人も任せると言っている。」と言う近藤の袖を引っ張って、三十郎は廊下の端へ誘導します。「弟は、ああいう性分です。人を押しのけてまで、前に出ようとはしないのだ。」「私は、そういう周平が嫌いではない。」「だからこそ、周りが気に掛けてやらねばならんのだ。」とあくまで引かない三十郎に、「あんたが替わってやれば良いじゃないか。」と言い放つ土方。むっとして土方を見る三十郎。「局長はお急ぎなので。」とこの場をとりなす井上。それを汐に、先を急ぐ近藤達。不満そうな三十郎。不安とも不満ともとれる表情で、近藤達を見送る周平。
とある長屋にやってきた松原。仙波の家を訪ねてきたのですね。入り口の前で入りにくそうな松原ですが、仙波から預かった巾着を見て、意を決したように、「後免!」と言って中へ入っていきます。小さな祭壇に「仙波甲太郎霊位」と書かれた位牌が置かれています。「この度は、お気の毒な事でございました。」とお悔やみを言う松原。黙って頭を下げる未亡人となったお初。「ご主人が亡くなったとき、これをあなたに渡すように頼まれました。」と頭を下げて預かった巾着をお初に差し出す松原。黙って受け取るお初ですが、何か言いたげです。暫く間を置いてから、「うちの人が死んだ時、その場に居られたのですか。」と問いかけます。これも間を置いて「はい。」と答える松原。「ほんなら、長州の?」と重ねて聞くお初。困ったように、黙って頭を振る松原。どういう事かと問いたげなお初。「私は、新選組の者です。四番組長、松原忠司。」驚いた様子のお初。「ご主人を斬ったのは、私です。」とまっすぐに言ってしまう松原。愕然とした様子のお初。「ご主人に恨みはありませんが、新選組と長州は、合えば戦うしかないのです。お察し下さい。」と辛そうな様子で語る松原。巾着を強く似きり締め「夫も生前、こんなご時世やから、何時どこで命を落とすかもしれん。覚悟はしておくようにと申しておりました。せやから、恨みはしません。けど、お顔は二度と見とうありません。お帰り下さい。」と松原をきっと睨み付けるお初。「ご焼香させて頂けませんか。」と辛そうな顔で頼む松原ですが、お初は言下に「お断りします。お引き取り下さい。」と、にべもなく断ります。なおも居座る松原に「はよ、出て行って!」とついにお初の抑えていた感情が爆発します。悲しそうに目をつぶる松原。そのまま何も言わずに席を立ちます。残されたお初は、巾着を握りしめて、悲しみに耐えている様子です。
これは、以前紹介した「壬生心中」を下敷きにしているようですね。壬生心中では、相手は只の浪人で、酒の上のいざこざで斬った事になっています。松原は自分が斬ったとは言えずに、残された未亡人になにくれとなく世話をしてやるという話になるのですが、ここではストレートに白状してしまいましたね。このあと三谷流では、どのような落ちを付ける気なのか、興味があるところです。
以下続きは、明日アップします。
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