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2004.09.29

新選組!30の2

新選組! 第38回「ある隊士の切腹」その2

醒ヶ井のお幸の家。縁側で庭を見つめて立っている近藤。背後では、お幸が着物を畳んでいます。「実は、今度は生きて帰れんかもしれん。」という近藤の言葉を聞いて、居住まいを正して正座するお幸。「勇様。それは、命を賭けるに足る、名誉あるお仕事なんですか。」という問いに「ああ。」と小さく答える近藤。お幸は両手をついて「おめでとうございます。」と口上を述べます。お互いを見つめ、微笑み合う二人。

1866年(慶応2年)2月12日、京。西本願寺の一室。西村兼文が僧侶と話をしています。「新選組の誰かが、今日切腹しはるそうなんや。死ぬ前に、どうしても御仏の道にすがりたいと申しておるそうなんや。」「しかし、私は僧侶ではありません。」「話を聞いてやるだけでもええ。ここは、ひとつお願いしますわ。」そう言われて、苦り切った様子の西村。西本願寺の僧侶は、新選組と関わりになる事をとことん嫌っているようですね。でも、御仏にすがりたいと言う者を僧侶が見捨てても良いのかな。

新選組屯所の一室。浅葱色の裃を付けた、死装束の武士が座っています。そこへ入ってくる西村。武士は、正面に座った西村に向かって一礼をして迎えます。「僧侶達は、あいにく、みんな出払ろうております。私でよろしければ伺いますが。」と方便を使う西村。「あなたで結構です。」「本日、お腹を召されるそうですね。」「そうなんです。」と答えた武士は、なんと河合でした。「あれよあれよと言う間に、こんな事になってしまって。自分でも信じられない。」と静かに語る河合は、普段のひょうきんさも消えて、覚悟の定まった男の顔をしています。「いったい、何があったのです?」という西村の問いかけに、河合は「死ぬ前に、どうしても誰かに伝えておきたい事があるのです。」と勢い込んで話しかけます。一瞬たじろいだ西村ですが、覚悟を決めた様子で「伺いましょう。」と答えてやります。かたじけなさと無念さの入り交じった表情で頭を下げ、「あれは12日前の事になります。」と静かに語り始める河合。

京都の本屋を訪れている河合と武田。店先で1冊の本をのぞき込んでいます。「これを見なさい。西洋の軍隊の仕組みがすべて判る。戦法から武器の種類、調練の方法まで!」と興奮して語る武田の横で、河合は「でもこれが50両ですか?」と呆れています。それを聞いた武田は、「馬鹿もん!」と河合の頭を張り飛ばし、「京都で手に入るのはこれ一冊らしいんだよ。50両でも安い位だ。主人の話によればな、他にもこれを狙っている男が居るという。一日も早く手に入れないと持って行かれてしまうんだよ!河合、河合耆三郎!新撰組の為にもこの本は必要なんだよ!」と熱く語ります。それに気圧された河合は、「もうちょっと安くならないすかね。」と本屋の主人に向かって聞きます。

「私は、隊の蓄えの中から50両武田さんに渡しました。もちろん、土方さんや他の人には内緒でした。」金を受け取って満面の笑みを浮かべ、「河合、河合!」と抱きつく武田と迷惑そうな河合。自分の部屋で、早速買ってきた本に見入る武田とそれを横で見ている河合。「だけど、判んないなぁ。武田さんの専門は、甲州流軍学でしょ。」「ばか。だからこそ、西洋の軍学を学ぶのではないか。甲州流を極めたこの私が。まさに怖いものなし!いいかおまえ、この武田観柳斉、新選組を世界で一番強くする!」そう豪語する武田を河合はうれしそうに見ています。「武田さんはいつも偉そうにしているので、隊士の間ではとても評判の悪い人です。でも、食い入るように本を読んでいる姿を見て、この人はこの人なりに、一生懸命なんだなって。」と武田を見直した様子の河合です。

ドラマの設定ですからとやかく言っても仕方がないのですが、この話の流れからすると、新選組に是非必要な本であれば隊費で購入するという方法もあったと思うのですが。伊東に向かって西洋流軍学など不要と言い切った手前、武田としては本を買ってくれとは言い難かったのかも知れませんが、会計方の河合としてはそういう選択肢を選ぶのがむしろ自然だと思うのですが、そこが河合の人の良いところなのかな。

また、武田が凋落する原因として、通常は西洋流軍学を取り入れた新選組にあって甲州流軍学者である武田は、次第にその居場所を失ってしまったためとされるのですが、そうした状況の中でも武田はそれなりに西洋流軍学を身につけて調練に当たっていたようです。ですから、彼が自己流ながら西洋軍学の勉強をしたという事実はあったのかも知れませんね。

「私は親元に手紙を出し、50両送ってくれるように頼みました。うちは、播磨の高砂で、米問屋を営んでおります。五日もあれば、金は届きますから。ところが、その二日後。」土方の部屋に呼び出された河合。井上も同席しています。「今、隊に金は幾らある?」という土方の問いに、「500両とちょっとですが。」ととまどいながら答える河合。「勘定帳と照らし合わせたい。ここに持ってきてくれ。」そう言われて、河合は逡巡しながらも、「かしこまりました。」と部屋を出て行きます。帳場で必死になって金を数える河合ですが、当然ながら金は足りません。「なんでまた土方さんがそんな事を言い出したのか、そのときは不思議でした。後から聞いた話では、あの本を欲しがっていたもう一人というのが、どうやら土方さんだったらしいんです。」

町の本屋を訪れている土方と井上。「買われてしまったのか!」と叫ぶ土方。「一足違いでしたなぁ。」「そんなに良い本だったんですか。」と井上。土方は、「買って行ったのは、どんなやつだった?」と店主に聞きます。「どっかのお侍さんやと言うたはりましたが、髪は総髪のなでつけで、めがねをかけた、うさんくさーい、小柄なお人でしたわ。」という店主の答えを聞いて、顔を見合わせる土方と井上。「そんなやつは、日本で一人しか居ねえ。」と土方。確かに特徴だらけの武田ですが、日本に一人はないでしょう...。「しかし、観柳斉に、よく50両の金を出せたものですね。」と井上に言われて、土方は何か思い当たる節があったようです。

土方の部屋で、金を数えている井上。「締めて、462両。」と重々しく言う井上と目顔で語り合う土方。手には帳簿を持っています。「河合、ここには512両と記してある。」と土方は河合に向かって帳簿を見せながら言います。「50両足りないようだが。」そう言われた河合は、何も答える事は出来ずに黙ってうつむくだけです。「誰かが借りていったのではないか。」と土方は問いかけますが、河合は即座に「それはありません。」と否定します。「では、なぜ金が足りない?」と鬼の副長のつっこみにやはり黙るしかない河合。

「土方さんにすれば、私に武田さんが金を持ち出した事を私に白状させ、あの人を罰して、あわよくば例の本を取り上げてしまおうと考えていたのかも知れません。」と言う河合ですが、もし土方が本を欲しさに武田を追いつめようとしていたとするなら、土方の度量はどうしようもなく狭いという事になりますね。新選組に必要な本であれば誰が持っていようが構わないわけですし、ましてや軍学者である武田が持っているのが一番ふさわしい本なのですから。ですから、ここは本が問題なのではなく「勝手に金策いたすべからず。」という隊規に違反した廉で、武田に疑いの目を向けたという方が本当なのではないでしょうか。

「本当に知らないのです。」と泣くような声で言う河合に、「誰かをかばっているなら、本当の事を話してしまった方が良い。」と諭す井上。「悪いことは言わん。本当の事を言え。」と土方に言われた河合は、苦しそうに考えたあげく「それでは、こういう事にしていただけないでしょうか。今回は、私が紛失したということで結構でございます。」と言い出します。それを聞いた土方は、「強情なやつだ。」と呆れています。河合は「50両につきましては、急ぎ親元に手紙を送って届けさせます。隊には、決してご迷惑が掛からないように致しますので、どうか、それで勘弁していただけないでしょうか。お願いします。」と続けて、両手をついて頭を下げます。それを見て「金はいつ届く。」と聞いてやる井上。「五日もあれば。」と救われたような河合。それを聞いた井上は、「副長!」と土方に取り次いでやります。土方も仕方がないというふうに頷いて、「良いだろう。」と河合の申し出を認めてやります。しかし、土方はそれに続けて「しかし、金が届かなかったときは、どういう事になるか判っているだろうな。」と言い出します。「はい?」「おまえ、切腹だぞ。」それを聞いて「切腹?」と驚愕する河合。「勘定方が、役目をなおざりにしたんだ。当たり前だろう。」と冷たく言い放つ土方。「金は、間違いなく五日で届くんだな。」と井上に聞かれてしばらく声の出ない河合ですが、ようやく「判りました。届かなかったときは、切腹します。」と絞り出すように言い切ります。「私も新選組の隊士です。それくらいの覚悟は出来ています。」「よく言った。余裕を持って、それじゃあ、十日にしてやろう。」と土方にしては珍しく、温情を掛けた裁定を下してやります。「五日で結構です。」「十日にしておきなさい。万一の事もある。」と井上に言われて、「では、十日で。」と河合も納得します。「金が届くまで、この事は秘密にしておいてやる。十日以内に金が戻れば、すべては無かった事にしてやろう。」といつになく優しい土方の言葉に「ありがとうございます。」と礼を言う河合。

「土方さんも、本気で私に切腹させるつもりではないと判っていました。親元からすぐに金が届くはずだし、私には全く不安はありませんでした。ところが、知らせを出して五日目になっても親元から金は届きませんでした。」屯所の階段で苦悩する河合を、隊士達が訝しげに見ていきます。どうやら、すでに噂が広まっている様子ですね。

土方の部屋で話す土方と井上。「弟(?)は、十中八九観柳斉をかばっての事。その気持ちに免じて助けてやるわけには行きませんか。幸い、表にはまだ漏れていない事ですし。今ならまだ無かった事にできます。」と井上は河合を救うべく土方に語りかけています。それを難しい顔で聞いている土方。そこへ入って来る原田と藤堂。「おい、話聞いたぞ。あと五日で50両戻らなけりゃ、河合は切腹らしいじゃねえか。そんな話ってあるかよ!」と叫ぶ原田。「その50両、私たちが揃えてみせます。」と意気込む藤堂。「あいつには、いろいろと世話になってんだ。こんな事で死なせてたまるか!」と言い捨てて、原田は藤堂と出て行きます。残された土方は、「漏れちまった様だな。」と困ったような表情でつぶやきます。これでもう、無かった事には出来なくなってしまったのですね。

庭で居合いの稽古をしている沖田。藤堂が河合を救うために協力を頼みに来ています。「力には、なれないな。」「河合を助けてやりましょうよ。」「土方さんがそう決めたんだから、後は従うだけだよ。河合も馬鹿な事をしたもんだ。悪いが、自分の命を粗末にするやつに、私は同情したくないんだよ。」と言い捨てて、沖田は藤堂を残して去っていきます。

「なかなか金は集まらない様子です。」と土方に報告する井上。「河合を謹慎させよう。」と決める土方。「副長。」と心外そうな井上ですが、土方の本心は違っていました。「今あいつに脱走されたらどうなる。それこそ俺は、奴を切腹させなきゃいけなくなる。」土方なりに河合を助けたいと考えていたのですね。納得して、うなづく井上。

おたふくで、集めた金を数える原田と藤堂。小判も4枚ありますが、小銭が大半でとても50両には届きそうにはありません。それをみていたおまさが声をかけてきます。「うち、ちょっとやったら力になりますよ。河合さんはよう食べに来てくれはったから。」と1両小判を差し出します。「おっ、優しいんだね。」と手を握ろうとする原田ですが、おまさは笑って手を引いてしまいます。「でも、どうします。これでも、50両には程遠いですよ。」という藤堂に原田は「俺に考えがある。」と言い出します。

原田の考えとは、賭場で儲ける事でした。京都の裏社会に通じている斉藤の案内で来ているようですね。原田は、仏様のようなポーズで精神統一をしています。「こういう所は、初めてか。」と藤堂に聞く斉藤。「はい、初めてです。斉藤さんはよく?」「昔な。」斉藤は、新選組に入る前に、京都でやくざの用心棒をしていましたからね。「いいか、ばくちってのはな、引き際が肝心だ。この8両を50両に変えたら、そこで潔く手を引く。判ったな。」といかにもばくちに手慣れたふうな事を言う原田。「そんなに簡単に50両になるもんですか。」ともっともな事を聞く藤堂。そこで、ばくちが始まります。

「ようごさんすね、さあ、張った、張った。」と声に誘われるように原田は「俺に任せておけ。半!」と威勢良く掛けます。「丁半揃いました。勝負!」「よっしゃ、来たー!」と叫ぶ原田。

再び、おたふく。ふんどし一丁になった原田、斉藤、藤堂の3人。勝つどころか、負けて身ぐるみ剥がれてしまったのですね。「すまねえな、あんたまで巻き込んじまって。」と斉藤に謝る原田。「俺の事は気にするな。」と斉藤。彼もまた河合を助けたかったようですね。「どうするんですか。皆から集めたお金なのに。」と藤堂。「俺って奴は、畜生!」と自分の顔をなぐる原田。それを見て、おまさがあきれかえっています。

2月9日。謹慎している河合の部屋に、武田がやってきます。窓越しに河合を呼ぶ武田。「案ずるな。私とて、おまえを死なせるのは本意ではない。色々考えて名案にたどりついた。」そう言って、武田は懐から軍学書を取り出します。「この本は、返す事にした。」「もっと早く、たどり着いて欲しかったなぁ。」と思わず本心を口走る河合。「これから行って、50両返してもらって来る。」「お願いします。」と縋るように河合に言われて武田は本屋へと向かいます。

本屋を訪れている武田。主人に本を差し出し、「今すぐ50両を返して貰いたい。」と告げます。主人はすぐに「はい、ちょっとお待ちを。」と請け合って、金を取りに行こうとしますが、その様子を見て不審を覚えた武田が主人を止めます。「まて、引っかかる。」「何ですやろ。」「本来なら半分の値で引き取ってもおかしくないのに、あまりにも素直過ぎる。」となかなか鋭いところを突く武田。「いや、お客さんには敵いませんな。」「申してみろ。」「実は、外にその本をお探しの人が居はって、そちらはんが60両出しても良いと。」「誰だ?」「新選組の、」「土方歳三!」「いえ、加納さんというお方です。」「加納?」幹部会議での、伊東とのやり取りを思い出す武田。「いかん。あいつらには渡せん。」自分のライバルである伊東を利する事は、武田にはどうしても出来ない事だったのですね。「おやじ、申し訳ない。この話は、無かった事にしてくれ。」と言い捨てて、武田は店を出て行きます。

「そして、昨日になりました。金は届きませんでした。」「なぜです?」と訝しげに聞く西村。「おそらく、父は仕事で家を離れていて、私の手紙をまだ読んでいないのでしょう。手紙さえ読んでいたら、100両でも200両でも送ってくれるはず。父は、そういう人です。」「近藤先生は、どうしておられるんですか。」「局長は、ずっと広島へ行かれております。」

武田や原田達、妙に優しい土方を除けば、大体は新選組始末記に書かれているエピソードに沿ってドラマは進行しています。ここでずっと不審に思っている事なんですが、どうして誰も高砂まで行ってやろうとしないのでしょうね。新選組始末記でもなんとか河合を助けてやろうという人達が出てきますが、飛脚を出しただけで播磨まで行って事情を確かめてこようという人は居ません。このドラマの原田達にしても、ばくちをしている暇があったら、河合の手紙を携えて播磨までひとっ走り行って、親元と直談判をしてくれば良いじゃないかと思ってしまうのは、私だけでしょうか。

広島に居る近藤、伊東、篠原の3人。「伊東さんが新選組に加わって、私は本当に助かっています。あなたのように時局に通じ、豊かな見識を持って判断出来る人物がどうしても欲しかった。」と近藤。近藤が伊東を買っていたのは確かなようです。入隊後間もなく参謀という地位を与えたり、二度に渡る広島への出張に伊東を伴っていることからもそれが伺えます。「確かに。武田君だけでは心許ないですからね。正直に申し上げて、あの人の考えは古すぎる。」と武田をこき下ろす伊東ですが、近藤は「あれは、体も小さく、目も弱く、剣の道で生きる事の出来ない男です。彼はだからこそ、勉学に励み、新選組で生きる場所を見つけた。」局長らしく、武田を良く見ているようです。「それは判りますが。」と言いかける伊東を遮り、近藤は「私も同じようなものです。浪士組で身を立てるより生きる道がなかった。あれはあれで勉強家でしてね、伊東さんに負けないように勉学に励んでいるところです。長い目で見てやりましょう。」と続けます。上に立つ者として、部下に対する暖かみに満ちた度量を示す言葉ですね。近藤の成長ぶりが現れていると言えそうです。なおも伊東が何か言いかけたところに、大目付の永井尚志が入ってきます。平伏して迎える3人。

「どうもお待たせした。」と入ってきた永井は、なんだか軽そうな人物です。「我らも、本日こちらに到着したところだ。」「永井様におかれましては、」とあいさつしかけた近藤に向かって永井は、「かしこまったあいさつは、抜きで良い。近藤、いよいよ正念場だぞ。」と声を掛けます。「そのようです。」「この度の談判次第では、長州との大戦だ。我らも、無駄に戦はしとうない。異国がこぞって我が国を狙っている時に、日本人同士が争う事ほど、愚かな事はない。」これは幕府首脳の本音だったのでしょうね。内憂外患に囚われている昨今、長州を攻めるどころの騒ぎではないというのが実情でした。しかし、その一方で、先の第一次長州征伐で幕府に恭順の意を示した長州藩の政府はすでに無く、実権を握っているのは反幕府的な性格を持った革命政府でした。これを放置しておくのは幕府の威信に関わり、再度の征伐を行わざるを得ない情勢でした。「会津中将様も、同じ思いでいらっしゃいます。」会津公は征長軍の志気の低さを熟知しており、出来るものなら長州が無抵抗に幕府の命に伏してくれることを期待していたようですね。しかし、薩長同盟を結んだ長州が一方的な処分案を飲むはずもなく、長州に恭順の意思がないという報告を受けた会津公はため息をついたと言います。「長州が最も恐れているのが新選組だ。ここはひとつ、その手腕を存分にふるって、私を助けてくれ。」「命に代えて近藤勇、永井様のお役に立ちとうございます。」ただ近藤が不戦論を抱いていたかというと疑問があります。新選組では、長州征伐への従軍を前提にした行軍録を作成しており、戦意は旺盛であったと見るべきでしょう。

2月11日、新選組屯所。土方の部屋に河合が井上に連れられて来ました。「期限は明日だぞ。」と土方。「今からでも遅くない、本当の事を言いなさい。」と井上。黙っている河合に、井上は「誰もおまえに腹を切って欲しいと思っておらん!50両、誰のために用立てた?」と聞いてやります。それを聞いて、今にも口から言葉が出そうな河合が土方に目を向けます。うなずく土方。

武田の部屋を訪れている土方と井上。「覚えがありませんな。」と言う武田に、「河合はあなたに50両を貸したと言っている。」と追求する井上。「方便でござろう。大金を盗まれた責任を、私になすりつけようとしているのではないですか。」とあくまでとぼける武田。背後では土方が軍学書を手にしています。土方はそれを武田に示して「この本は?」と質します。「はい?」「この本の代金は、どこから手に入れた?」「入隊して以来、日々の暮らしを切りつめ、貯めに貯めたお金で買いました。すべては、新選組のこれからのため。返して頂けますか。」と武田は言い抜けます。やむなく本を返す土方。ほっとした様子の武田ですが、土方はそんな武田を冷ややかに見下ろしています。「手間を取らせてすまなかったな。」そう言って土方は部屋を出ようとします。しかし、障子を開けたところで立ち止まり、「金を守るのが勘定方の役目だ。それを怠った罪は、死に値する。しかし、いいか武田君。己の身を守るために嘘をつき、長年の仲間を売るような奴が居たら、俺はそいつを許さねえ。」と武田をにらみつけながら言い放ちます。それを、挑むような表情で受け止める武田。どうやら、河合は最後まで武田の名前を出さなかったようですね。土方と井上は、河合が白状したとカマを掛けに来たようです。

再び土方の部屋。ここに居るのは、土方のほか、井上、谷三十郎、斉藤です。「介錯は、斉藤に頼む。」と土方。しかし、斉藤は「俺でなければいけませんか。」と反問します。「珍しいな。」「喜んで河合の首を切る者など、どこにも居ない。」そう言われた土方は、目の前に座っていた谷三十郎に目を向けます。「よろしい、私が引き受けよう。」と請け合う三十郎。「あいつは、五日で届くと言ったんだ。それを、俺が十日にしてやったのに。」と珍しく隊士の仕置きについて愚痴を言う土方。「まだ、一日あります。切腹と決まった訳ではない。」と井上。「それにしても、河合もほとほと運のない男だ。近藤さんが居れば、救ってくれたはずなのに。」そう繰り言を言う土方に、斉藤は「だったら、救ってやれば良い。近藤さんに出来る事が、なぜあんたに出来ない。」と問い質します。「それは、俺の役目じゃねえ。」そう言って部屋ほ出て行こうとする土方ですが、そこに永倉が入ってきます。「河合の切腹は、俺が許さん。奴は優れた勘定方だ。新選組の為にも、今は死なせてはいかん。」そう言う永倉を見て、土方はため息を一つついて出て行こうとします。「土方さん!」「山南がなぜ死んだと思っている。ここで河合を救えば、山南の死が無駄になるのが判んねえのか。山南を死なせたって事は、一切の例外は認めないていう事なんだ。」そう土方に言い切られては、永倉も黙ってしまうほか有りませんでした。「こんな時、近藤さんが居てくれれば。」という永倉に、「局長に一番居て欲しかったのは、きっと土方さんだと思いますよ。」と井上が言います。

局長の座に来ている土方。段の前に座り込んだ土方は、じっと近藤が座る場所を見つめ、「かっちゃん。」と辛そうにつぶやきます。顔を上げた目線の先には、誠の旗が掲げてありました。

廊下を駆けてくる藤堂。河合の部屋の扉を開けるなり、「河合さん!」と叫びます。「飛脚が到着しました。50両届きましたよ!」と両手に持った小判を差し出す藤堂。「本当ですか~!」「はい~!」と喜んで抱き合う二人。しかし、それは河合の夢でした。目が覚めて呆然としている河合のところに、本当の足音が聞こえてきます。扉を開けたのは、島田でした。飛脚の知らせかと島田を見つめる河合。しかし、島田が差し出したのは死装束でした。「これに、着替えろという事だ。」それを見て悄然となる河合。やっと「飛脚はまだ来ませんか。」と島田に聞きます。黙って、首を横に振る島田。さらに悄然となる河合。その河合を見て島田は「河合、皆知っているぞ。観柳斉のために、命を捨てる事はねえ。」と言ってやります。しかし河合は、「あの人だって、新選組の事を思っての事ですから。」とあくまで武田をかばいます。そう言われて、何も言えない島田。

「河合さんは、なぜこの話を私に?」と聞く西村に「父には、父にだけは、伝えて欲しいのです。本当の事を。父には一言、河合耆三郎は、何一つ、恥じる事は無かったと。それだけを伝えてください。」と河合は泣き顔で訴えます。黙ってうなずいた西村は、「必ずお伝えします。」と約束してやります。「ありがとうございます。」と頭を下げる河合。「かえすがえす思うのは、人の一生なんて不思議なもので、」と言いかけた河合の耳に、鈴の音らしき音が聞こえます。思わず外の方を見る河合と、つられて同じ方向を見る西村。「何か?」「今、何か聞こえませんでしたか。飛脚が何かって!」という河合ですが、西村には何も聞こえていませんでした。黙って、首を振る西村。それを見た河合は、突っ伏して、泣き崩れてしまいます。

隊士が居並ぶ中、切腹の座に着く河合。その姿を痛ましそうに見つめる隊士達。そこに西村も最期を見届ける為にやってきました。河合の背後で、介錯をするために刀を抜く谷三十郎。その刀に清めの水を掛ける島田。「何をどうすれば?」と聞く河合。商人の子である彼は、切腹の作法を知らないのですね。「形だけで良い。」と言ってやる井上。短刀に手を伸ばし掛けた河合は、その手を止めて、藤堂に向かって「飛脚は、まだ来ませんか。」と悲しそうに聞きます。黙って、首を振る藤堂。今度は土方に向かって、「後、五つ数える間待ってもらえないでしょうか。」と聞く河合に、黙って頷いてやる土方。河合は、介錯の谷に向かって、「済みません。」と会釈をします。それに頷き返す谷ですが、全身に力が入り過ぎて、堅くなっているようです。目を閉じて五つ数えた河合は目を開けて、再び藤堂に「飛脚は?」と静かに聞きます。やはり辛そうに頭をふって、俯いてしまう藤堂。飛脚の気配を探すように、外の様子を窺う河合。それを見た井上がさすがに未練だと思ったのか、「河合。」と声を掛けます。その声に我に返った河合は、今度は武田を見つめます。目をそらして、俯く武田。ついに意を決した河合は、着物の前をくつろげ、短刀を手にします。背後で構える谷。悲痛な表情で、腹に短刀を突き刺す河合。介錯の谷が刀を振り下ろしますが、目をつぶっていたためか、首を落とす事が出来ません。「はずした!」と叫ぶ藤堂。うろたえる谷。苦しむ河合。見かねた斉藤がとどめをさそうと立ち上がり掛けますが、それより早く沖田が近寄り、呆然と突っ立つ谷を突き飛ばして河合にとどめを刺してやります。痛ましげな表情の隊士達。土方は立ち上がり、武田の方をにらみつけています。最初は、にらみ返していた武田ですが、やがて気弱そうに下を向いてしまいます。悲しそうに手を合わせる井上。一人で廊下にたたずむ土方は、泣きながら何度も柱に頭を打ち付けるのでした。

広島。「その方では、話にならん!しかるべき役目の者を出せ!」と長州側の使者を怒鳴りつけている永井。ひたすら平伏している長州の使者。「そうは、おっしゃっても。」と要領を得ません。「ですから、どなたか話の判る方と合わせて下さい!ご老中小笠原長行様が、とっくに広島にお入りなのです。」と永井の横から言う近藤。かなり焦っている様子です。「そうは、おっしゃっても。」と煮え切らない使者に向かって「このままでは、戦になりますぞ!」と怒鳴りつける近藤。「そうは、おっしゃっても。」と同じ事を繰り返すだけの使者。長州側は、極力交渉を長引かせて、戦備を整える時間を稼ごうという腹のようですね。

別室で、篠原と二人で居る伊東。「長州はどうやら、本気で戦を始めるつもりらしい。薩摩と手を結んだという噂、本当のようだな。」とさすがに情勢を把握している伊東。「それにしても哀れだな、近藤君も。意気込んで会合に臨んでみたものの、相手があんな小役人では。」背後で、顔をしかめてうなずいている篠原。「近藤君には悪いが、新選組は必ず時代から取り残される。武士道を重んじ、隊士を法度で縛り付ける。彼らの居場所は、いずれどこにも無くなる。」「はい。」「我々も、次の道を考える頃合いかも知れないな。」という伊東ですが、実際にはこの広島出張では、もっと露骨な分派活動を行っていました。彼らは近藤とは別行動を取り、各藩の代表に会っては長州藩の寛大な処分を説いて回っていたのでした。彼は既に新選組を離脱する腹づもりが出来ていたのでしようね。

相変わらず「そうはおっしゃっても。」としか言わない使者を前に、なすすべもなく呆然としている近藤。

西本願寺の屯所。河合の切腹の後始末が行われています。箒で地面を掃いていた島田は、その箒を叩き折り、上を向いて泣いています。おたふくに居る原田。彼もまた、子供のように泣いていました。そこにやってきたおまさは、原田を背後から抱きしめてやり、一緒に泣いてやります。そこに聞こえてくる鈴の音。西本願寺で、帳付けをしている西村。彼の耳にも鈴の音が聞こえてきました。思わず立ち上がって窓に駆け寄り、外を見る西村。屯所の廊下を歩いている土方と井上。ふと何かの気配に気づいて立ち止まります。彼らが見やった視線の先に、鈴を鳴らして走る飛脚の姿がありました。「土方さん。」鳴り続ける鈴の音。近づいてくる飛脚の姿。呆然とそれを見守る土方と井上。

河合の最期については以前に2度(1)(2)書いていますが、ここではもう少し補足事項について記します。

まず、入隊前に故郷に居た頃の河合のエピソード。

米問屋の後継ぎであった河合は、米の収穫が終わって年貢を納める時期になると、納める側の監督として活躍していたそうです。彼の仕事というのは、年貢の入った俵の中身が規定どおりに入っているか確かめる検査に立ち会う事なのですが、彼は俵に触れただけでその多寡が判り、足りない俵には素早く自分の腹巻きに入れた米を足して規定量とし、検査を無事に通るように便宜を図ってやっていたのでした。これなど、彼のカンの良さや手際の良さ、それに検査官の前でやってのける度胸の良さを表すエピソードと言えそうですね。

次に、新選組始末記に河合の父親が屯所を訪ねてくるエピソードが紹介されています。彼の父は、近藤と土方に土産を持って屯所を訪れ、近藤に息子の出世を頼んで困惑させています。その後息子に連れられて京都の町を見物して、大喜びで故郷に帰ったとありますが、実際に河合に会いに来たのは母親の方だったようですね。その母が、夜に新選組の提灯を持って歩いていると、それを見た町の人たちが道を開けたという逸話が残っているそうです。

そして、河合に娘が居たという説もあるようです。その女性は高砂の実家に現れたり、壬生寺の墓を何度も訪れていたと言いますが、その後の消息は判らず、名前も伝わっていないようですね。

今回のドラマは、大半がフィクションであり、武田が本を買うために金を借りたという事実はありませんし、原田達がかけずり回ったというエピソードも残っていません。隊士絶命銘々録によれば、河合の為に力を尽くしたのは監察の新井ですね。また、谷三十郎が介錯をしくじったというのは田内知という人物で、河合の首を切ったとされるのは沼尻小文吾という隊士です。しかもそのエビソードは、両方とも創作された可能性が強そうですね。こうして見て来ると、史実という面からはまるでかけ離れた設定という事になってくるのですが、その中でも河合が皆から愛されていたという事は事実の様です。それを踏まえた上で、武田のエゴイズムを前面に出して河合のけなげさと対比させて見せた、なかなか見ごたえのあるドラマだったと言えるのではないでしょうか。大河ドラマとしてではなく、一編の三谷ドラマとして捉えれば、秀逸の出来だったように思えます。

ただ、不満を言えば、武田があまりにも不当な描かれ方をされていることが残念ですね。その分、河合と近藤が埋め合わせをしてやっていましたが、それでもこれからますます武田は嫌われていくのだろうなあ...。


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コメント

初めまして、いつも楽しく拝見させていただいてます。

私も「新選組!」を欠かさず見ているのですが
個人的には、この回の河合の話が一番泣けました。
山南さんもちょっと泣いたけど(劇中では演出も気合い入ってたし)、
彼の場合は、周囲も本人も納得済みというか
「それでも仕方ないのだ」的空気があったけど
河合の場合はあまりにかわいそう過ぎで・・・。
誰も播磨まで行かなかったのは、隊規の
「勝手に隊を離れてはいけない」というのがあったからかも知れませんね。
近場でばくちをする分にはいいけど(笑)、播磨ですと1日では帰ってこれませんから。
それでも金の埋め合わせをすれば大丈夫ってのも、考えたらおかしな話ではあります。
盗みをしても返せば罪にならないのか、ということになりますものね。
こんな猶予を与えてもらえた河合に人柄が現れていて余計切なくなります。

なおくんさんのおっしゃるとおり、
三谷新選組は、近藤があまりに良い人すぎて、
たまに「おまえが首謀者だろ~」とツッコミを入れたくなることもありますが(笑)
ドラマと割り切れば、かえって面白くなるからさすがです。

今回は伊東が「そろそろやめちゃおっかな~」などとつぶやいていたのが
更に不気味で不穏な雰囲気になってきました。
山南さんも伊東も、ちょっと道を変えていたら、
一介の隊士では終わらなかったのかも知れませんね・・・。

だんだん見ていられない場面が増えていきますが
(あるテレビ番組雑誌では「今週死ぬ隊士」なんてコーナーがあるんです)
がんばって見続けようと思います。
そして、このグログも楽しみにしています。

長々と失礼しました・・・。

投稿: しのぶ | 2004.09.30 16:04

しのぶさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
河合は、新選組始末記の記述から、覚悟の定まらない武士になりきれなかった商人の子として描かれない事が多いのですが、このドラマでは皆から可愛がられるキャラクターでありながら、一本筋の通ったなかなかの人物として描かれていましたね。これで、今後彼のファンが増えるかも知れません。
新選組!は、これからますます隊士が減って行きます。最期まで残るのはほんのわずか、考えてみればそこには厳しい現実があった訳ですね。そんな中でも、一人一人の生き様を鮮やかに描いて見せてくれるこのドラマは、やはり見逃せません。残りは後11回、最期まで見届けようと思います。
これからもよろしくお願いします。

投稿: なおくん | 2004.09.30 20:06

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