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2004.09.01

新選組!26の2

新選組! 第34回「寺田屋大騒動」 その2

八木邸の一室。銘菓「雷おこし」を八木源之丞夫妻に差し出すつね。雷おこしって、昔から江戸土産とされていたのでしょうか。「新選組が、いつもご迷惑をおかけしております。」と局長の妻としてあいさつをするつね。「何を言わはります。ご公儀の為に働いたはる皆さんどす。お世話出来て光栄でございます。」と型どおりの返答をする源之丞。「三月程のはずが、こんなに長くなってしまって。」とこれはみつ。「先月、三年目に入りました。おかげさんで、この世のものとは思えん体験をさせてもうてます。」源之丞はきわどい嫌味をひょうきんさで隠すのが上手いですね。「でも、悪い人達ではないんですよ。」とみつはあくまで天真爛漫です。雅は夫と顔を見合わせて「そうなんです。」と言って笑い出し、つられて源之丞とみつも笑います。それを見て、つねも満足そうな様子です。

「深雪太夫が!」と素頓狂な声を上げる藤堂。「しっー!」と沖田はたしなめて、「なんで、こんな時につねさんを江戸から呼び寄せるんだよ!」と藤堂をなじります。「そんな事おっしゃられても困ります。つね様が京を見てみたいとおっしゃるから。」と言い訳をする藤堂。「ねえねえ、という事は、近藤先生は、その人と一緒に住むんやろ?」と沖田に聞くひで。「どっか近くに家を借りたって、言ってたよ。」「えーっ、なんかがっかり。そんな人やと思えへんかった。」と言うひでに、「それは、ガキの言う言葉だ。」と土方に言われた通りに返す沖田。むっとしてひでは沖田を睨みますが、沖田はそれを無視します。「とにかく、今、太夫を連れてこられたら、えらい騒ぎになる。」「えっー、どうしましょ、どう、どう、どうしましょ。」とうろたえる藤堂。「落ち着け、平助。落ち着け、落ち着け。」という沖田ですが、声がうわずっています。「とにかく、土方さんを呼んできてくれ。」確かに、この場を納められるのは土方をおいて他にはいないでしょう。「は、はい。はいー。」と言って、土方を探しに行く藤堂。

西本願寺を訪れている、伊東、土方、島田の三人。本願寺の貫禄のある僧侶と話をしています。「このたびは、我が新選組のためにお力添えを下さり、誠にありがとうございます。西本願寺の由緒を汚さぬよう、大切に使わせて頂きます。」と殊勝なあいさつをする伊東。なかなかの男ぶりですが、本願寺の僧侶は憮然とした表情でうなずくばかりです。「ここは、幾つかに仕切って、隊士達の部屋にしようと思う。」と横合いから言い出す土方。「それは、良いですね。」と相づちをうつ島田。「釘打たしてもらいますよ。」と勝手に決めてかかる土方に、僧侶は驚いた表情になります。「本堂との間に、竹の矢来を組み、仕切とする。」「湯殿もでかいのがありますし、向こうの太鼓楼も何かに使えます。」「いいな、長州の奴らを閉じこめておく牢屋にでもするか。」「ぴったりです。」「庭も広いんで、会津から大砲を借りて来て、撃ち方の稽古もできます。」「よし。さっそく借りてこい。」実際に新選組は西本願寺の境内で、大砲の訓練を行っています。そのあまりの大音響に当時の門主が腰を抜かしたために寺から新選組に抗議が行くのですが、新選組ではかえって面白がって、門主がいる時を見計らっては大砲を撃つようにしたといいます。これについては、さすがに見かねた会津候から、市中での大砲の射撃は慎むようにとの達しがあり、その後は壬生寺に戻って大砲の訓練をするようになりました。「ここは、武器庫にどうだ。」「良いですね、どんどん運びましょう。」このあいだ西本願寺の図面を見ていた時から考えてあったのでしょう、伊東も僧侶も無視してどんどん話を進めていく土方。無論、西本願寺に対する嫌味と恫喝を兼ねてわざとしているのです。立場を無くした伊東は憮然としながら、僧侶を気の毒そうに見やり横目で土方を睨みますが、止めようとはしません。彼もまた、西本願寺に対する牽制の為にも移転すべきだと主張しただけに、反対も出来ないのでしょうね。ただ、そのあまりの露骨さに、嫌気が差しているのでしょう。僧侶の口元が何か言いたげにわになわなと震えていました。

新選組の屯所。隊士達の前につね、みつが立っています。その横にいるのは武田観柳斎。「これより、沖田みつ様よりありがたいお言葉があります。みな、心して聞くように。」みつはつねを差し置いて、前に座って話し始めます。「皆さん、お勤めご苦労様。総司の姉、みつでございます。」と一礼してから立ち上がり、「新選組の働きぶりは、江戸に伝わって来てますよ!」と叫びます。どよめく隊士達。さらに「これからも、ご公儀に楯突く悪い奴らを、思い切り懲らしめてやって下さい!」と檄を飛ばします。それに応えて、「おーっ!」と鬨の声を上げる隊士達。「そして、弟の事、よろしくお願いいたします。」「おーっ!」「上様の為に、頑張りましょうー!」「おーっ!」とさらに調子に乗るみつ。横であおり立てる武田。それを部屋から見ていた総司は、あきれたように障子を閉めてしまいます。

「面白い、人ですね。お姉さん。」とひで。確かに、あまり京都では見かけないタイプでしょうね。そこへ入ってくるつね。「つねちゃん!」と親しげに叫んで原田が起きあがります。「嬉しいな、嬉しいな!」と抱きかかえるようにして踊りながら、つねを部屋の中に招き入れます。「まあ、座れよ。」「元気そうだな。」と声を掛けたのは永倉です。「永倉さんもお変わり無く。」「いいんですか、向こうは。」と沖田。「みつさんに、任せて来てしまいました。なんだか知らない顔ばっかりで。」本来あいさつをするとすれば、つねの方だったのでしょうね。でも、つねの性格としては、見知らぬ大勢の前で話をする事は苦手なのでしょう。「それだけ、新選組が大きくなったという事です。」と永倉。うなずくつね。

「見回りから戻りました。」と部屋に入ってきたのは、斉藤と周平です。お互いに相手を思い出せないでいる斉藤とつね。その様子を見て沖田が、「あ、つねさん。局長の婚礼の時に会っていると思うよ。」と助け舟を出します。やっと気が付いた斉藤は、日頃の無愛想はどこへやら、「その際は、お世話になりました。」と頭を下げます。つねも思い出したのでしょう、「こちらこそ。」とにこやかに返します。斉藤は、なにやら思い出したようにそそくさと席を立ちます。「おい、ご挨拶は?」と周平に声を掛ける原田。彼にしては良く気が回ったものですね。「いえ、まだです。」ととまどう周平。「こいっ!」と永倉に呼ばれて、つねの前に座る周平。「近藤周平です。近藤先生の奥方様だ。」と両方を紹介する永倉。「言ってみりゃ、お前のかあちゃんだ。」と周平の気を軽くしてやろうと彼なりに気を使う原田。「あなたが。」「聞いてますか。」「はい。」「周平と申します。」「つねと申します。」一通りのあいさつが済んだとたんに、そわそわしだす周平。「あっあの、もう行っていいですか。」と失礼な事を言い出します。「はい。」とつねはにこやかに返しますが、永倉は出て行く周平を見送って、「愛想のない奴だ。」とため息をつきます。あまりに無礼な態度に腹が立ったのでしょうね。一方周平にすれば、近藤の養子という立場が重いと感じている上に、また養母に当たるとは言っても初対面の奥方に何を言って良いか判らなかったのでしょうね。実際に周平がつねに会っているのはこの3年後のことで、その時には養子縁組を解消されており、新選組からも脱走した後でした。「でも、そういうところ、ちょっと似ているかも知れません。うちの人に。」とあくまでにこやかに言うつね。彼女にしてみれば男の子が居ませんから、周平を可愛く思っていたのかも知れません。

「わあっ、久しぶりに大きな声だしちゃった。」と部屋に入って来るみつ。「いや、奥様のお言葉で、隊士一同、志気が大いに上がりました。素晴らしいお方だ。」と持ち上げる武田。それが聞こえなかったのかのように「永倉さんに、佐之助!」とみつは佐之助に駆け寄り、背中をはたきます。「みっちゃん!」とまたも抱きつく原田。みつも嬉しそうにはしゃぎます。それを見て、鼻白んだ様子の武田。「ご無沙汰致してます。」と礼儀正しい永倉。「紹介して。」と総司に迫るひで。総司はしょうがないという風に「姉上、八木家のひでさん。」と紹介してやります。ひでは「初めまして、姉上様。」と好きな総司の姉にあいさつします。「あんたの手紙に書いてあった人ね。」「あんまり変な事、言わないように。」「あんたの言うとおり、可愛いじゃない。」ふむ、総司は手紙でひでを可愛い人と書いていたのですね。やはり、総司はひでを憎からず思っているようです。「総司と仲良くしてやって下さいね。」とみつに言われ、ひでは満面に笑みを浮かべて「はい!」と元気に答えます。「ねえ、平助さんに聞いたんだけど、勝ちゃん達、今、伏見に居るんだって。伏見って、そう遠くないんでしょ。会いに行って、勝っちゃんを驚かしてやりたいんだけど。」とつねに向かって言うみつ。どうやらつねも賛成な様子です。「ねえ、ねえ、ねえ、私の事可愛いて、手紙に書いたの?」と嬉しそうに総司に聞くひで。それを無視して、「あの、今日は伏見には行かない方が良いと思うんだな。」と沖田はなんとかこの場を誤魔化そうとします。「行ってくりゃ、良いじゃねえか。おったまげるぜ。」と何も知らない原田。「たまげ過ぎますよ。よしましょうよ。」と懸命に取り消す総司。「よかったら、ご案内しましょうか。」とこれも事情を知らない永倉。「永倉さん!大体今から伏見へ行ったら、疲れるって。」となんとか話をそらそうと頑張る総司。「駕籠を出しましょうか。」と気を利かす武田。「止めなよ!駕籠代だって馬鹿に出来ないんだから。」と余計な事を言うなと言いたげな総司。「それくらい、新選組が出しますよ。」と太っ腹な所を見せる武田。「出してもらえ~。」とおどける原田。「だから、そういう事に隊費を使うのは良くないと思うんだよ!」と一番隊隊長として、上手い言い訳を考えついた沖田。そう言われて、つねを見るみつ。「ここで待ちましょうか。」とつね。さすがに幹部の身内として、公私混同はまずいと思ったのでしょうね。ほっとした様子の総司。

そこへ斉藤が戻ってきます。彼はつねの前に座って、「婚礼の日に貸して下さった5両、ようやくお返し出来ます。」と金の包みを差し出します。斉藤の逃亡資金として、つねの持参金から渡した5両ですね。あれは、この日の為の伏線だったのか。なんたる長さだ。「そんな、良いですよ。」「ずっと気になっていたんです。」と斉藤。彼にとっては、とてもありがたい出来事だったのですね。それにしても、今日の斉藤は随分と愛想が良く、いつもと様子が変わっています。「局長に言っても、あれは妻の金だからと。受け取って下さい。」「受け取っておけば。」と助け船を出すみつ。「では、遠慮なく頂きます。」と金を受け取るつね。ふと気が付いたように、「これで、駕籠を呼んで頂けますか。」と言い出します。「かしこまりました。」と格好良く言う武田。「余計な事を...。」とつぶやく総司。それに気が付いて、なにかまずい事でもしたのかなと気が付いた様子の斉藤。

血相を変えて、門から駆け込んで来る土方と藤堂。土方は、草履を脱ぐのももどかしく、手で取って後ろへ放り投げながら玄関に駆け上がります。玄関で転んで、はいつくばる藤堂。「おい、つねさんは。」いつもの冷静さはどこへやら、すっかり上ずった表情で総司に聞きます。部屋の奥では、斉藤がうずくまって何かしています。「たったいま、駕籠を飛ばして寺田屋へ向かいました。」「ばか、まずいじゃねえか!」と怒鳴る土方。部屋の隅でうずくまって、羽織の紐をこねくりながら「俺のせいだ。」とつぶやく斉藤。それをちらっと見た土方は、沖田に向かって「行くぞ!」と声を掛けて、急いで出て行きます。後に残った藤堂。まだ羽織の紐をいじくりながら、「俺のせいだ。」といじけている斉藤。

寺田屋のお登勢。「舟が着きましたえ。」と近藤に知らせます。近藤は「お願いしても良いですか。」と井上に出迎えを頼みます。「はい。」と言って出て行く井上。「すまんが、どこか大福の旨い店を知らないか。」とお登勢に聞く近藤。「お大福ですか。」と渋い表情のお登勢。意外な事を聞かれてとまどっているようです。「この先の御菓子屋さんで売ってますけど。」「深雪太夫の好物なんだ。」と説明してやる近藤。

寺田屋の前で、太夫を待つ井上。えっほ、えっほと駕籠掻きのかけ声がしています。ほどなく、京屋忠兵衛に連れられた深雪太夫が現れました。「お待ちしておりました。」と出迎える井上。「どうぞ、こちらです。」と二人を案内します。先頭に立って、寺田屋へ向かおうとしたその先に、駕籠から降りたみつとつねの姿がありました。みつは、駕籠に揺られて気分が悪いようです。「みつさん、大丈夫ですか?」と気遣うつね。「酔うた。」と扇子で顔を扇ぐみつ。その横顔を見て、驚愕する井上。慌てて袖で顔を隠し、その怪しい格好のまま京屋と深雪太夫を寺田屋の中に招じ入れます。

「どういう訳だかさっぱり判らないのだが、今局長の奥方が外に来ている。」とお登勢に話す井上。「あらま。」「詳しい話をしている暇は無いのだが、察してくれ。」「うちは、船宿です。これまでも、男と女のいろーんな修羅場は見てきてます。この登勢にお任せ下さい。」と頼もしく胸を叩くお登勢。「ごめんくださーい。」とみつの声。「へーい、ただいま。」と答えて玄関へ出向くお登勢。

「まあ、江戸から。それはそれは遠いとこから。ご苦労はんでごさいましたな。」「あの、近藤勇はおりますでしょうか。」とお登勢とつねが受け答えしている横で、みつはあちこちを覗くようにして、近藤を捜している様子です。「はい、お見えになっといやす。」と聞いてうれしそうな、みつとつね。

「いや、それにしても驚きました。」とみつとつねに言う井上。「そりゃ、驚かせようと来たんだもんね。」とみつ。「表でお見かけしたときは、心の臓が飛び出るかと思いました。」と余計な事を言う井上。案の定「何でそのとき声を掛けてくれなかったの。」とみつに突っ込まれます。答えに窮した井上は、しどろもどろになりながら「あんまり驚いたので、声掛けるのも忘れておりました。」と誤魔化します。「どうぞ、ごゆるりと。」とお茶を運んで来たのは、おりょうです。

大福を買って帰ってきた近藤。その近藤におりょうが声を掛けます。「近藤先生。お連れの方、お部屋でお待ちどすえ。」「もう、来ましたか。」「可愛らしい、奥様。」おりょうは、詳しい事情を知らないのですね。「そういう間柄ではない。」とこれも勘違いしている近藤。廊下を右に曲がろうとする近藤におりょうは、「そっちやない、どうぞ。」と奥の部屋へ案内します。不審に思いながらおりょうに付いていった近藤は、中にいるのは深雪太夫だと思いこんでいます。「失礼します。」とおりょうが襖を開ける後から、近藤は「今大福を買って...。」と言いながら中を見て、そこにいるのがつねとみつである事に気が付きました。愕然とする近藤。なんと言って良いか判らないという表情の井上。にこやかに笑っているみつとつね。事態がのみこめずに呆然としている近藤を見て「びっくりしてる、びっくりしてる。」とはしゃぐみつ。「来てしまいました。」と可愛く言うつね。やっと、我に帰った様子の近藤。

寺田屋の玄関。お登勢が二人の男を出迎えています。「近藤先生がまだ居はるんです。」「嘘だろ~!」と叫んだのは捨助。「どうします。」「出直してくる。」と重々しく言ったのは町人姿に変装した桂でした。桂は直ちに出て行こうとしますが、お登勢が引き留めます。「安心しておくれやす。向こうは向こうで大変みたいですから。部屋を離れに通しましたよってに、どうぞ。」と招き入れます。

にこやかなつねとみつと対座している近藤。依然としてショックから立ち直れて居ない様子で「来るなら来ると手紙の一つでも。」と口ごもります。「だから、びっくりさせようと思ったのよねえ。」とみつ。「怒ってらっしゃいます?」と気遣うつね。「別に怒ってはいないが。」と誤魔化す近藤。つねは不意に真面目になって「山南さんの事、伺いました。」と言います。夫の不機嫌の原因はそこにあるのかも知れないと思ったのでしょうね。それに対して、軽くうなずくだけの近藤。何を言ったら良いか困っている様子です。それに気づいたのか気づかないのか、みつは近藤の手元にある大福を見つけて「それは何?」と聞きます。それが大福だと気が付いたみつは、「私たちに?気が利いてるじゃない。」と喜んで見せます。しかし、つねは「違いますよ。だって、私達がここに来る事を知らなかったのだから。」と冷静なところを見せます。「そうよね。そんなに沢山、誰に買ってきたの?」とみつに問われて、答えられない近藤は大福の包みを弄ぶばかりです。「ありがとうござます。わざわざ私のために。」と助け船を出す井上。「いや、ここの大福には目が無いんですよ。頂戴します。いや。」と言いながら大福を美味しそうにほおばります。無愛想に黙っている近藤。井上と近藤の様子を不審そうに眺めるつね。「美味いなあ。」と一人で芝居を続ける井上。

寺田屋の廊下。「済まなかった。無理矢理食わせて。」と井上に詫びる近藤。「それより、これからどうするんですか。」と井上。彼はまだ大福を手にほおばっています。「事情は判っているか。」とお登勢に聞く近藤。「大体は。」「という事なので、暫く太夫を預かっては貰えないだろうか。うちの妻達が、江戸へ帰るまで。」「うちは、よろしおすけど。」頼むというふうに頷いて、太夫の部屋へ急ぐ近藤と井上。

寺田屋の龍馬の部屋。「なんとか、考えてみてはくれんのか。」と桂に向かって言う龍馬。「長州と薩摩が手を結んだら、朝廷も巻き込んで、幕府に立ち打ち出来る大きな力になると思うがじゃ。ほいたら、日本人同士が血を流し合う無駄な戦も止めさせる事が出来るがやき。」薩長同盟の提案ですね。確かに龍馬と桂は薩長同盟において大きな働きをしました。しかし、龍馬が先に説いたのは西郷の方で、この時期出石に潜伏していた桂とは話が出来るはずもなかったのでした。また、薩長同盟というと龍馬一人の手柄のように思われ勝ちですが、実際に最初のお膳立てを作るのに活躍したのは中岡慎太郎の方です。龍馬は一旦決裂しかかった同盟を独自の案でもって斡旋し直し、最後の仕上げを行ったところに功があります。「坂本君、それでわざわざ私を呼びつけた訳ですか。」なにやら桂は不機嫌そうです。「長州を動かせるは、おまんしかおらんがや。」「長州と薩摩が手を結ぶ。長州を京から追い出したのは、会津と薩摩だ。我らは、薩摩に対する恨みを忘れておらん。手を結ぶなどという事は、決してあり得ない。」長州の志士達は、八・一八の政変以来の恨みを忘れないために、下駄の底に「薩賊会奸」と書いて履き、つねに踏みつけながら歩いたと言われます。「薩摩がそんなに憎いかえ。」「憎い。」長州藩の中でも、薩摩藩を最も憎んでいた一人が桂でした。彼は明治以後も執念深く薩摩を嫌い続け、長州閥を薩摩閥から守る事に最も腐心していたと言います。「もう少しまともな話が聞けると思っていたのに。」これだけ薩摩を憎み嫌っていた桂が、後には高度な政治的判断によって薩長同盟に踏み切ります。そのことが、彼をして明治の元勲の一人にせしめたと言っても過言ではないでしょう。このドラマの桂は、まだそこまでの決断が出来る程の状況には至っていないようですね。立ち上がって帰ろうとする桂に、龍馬が声を掛けます。「近藤勇がおるき、気いつけや。」「奴はここで何をしている。」「嫁さんとおめかけさんが鉢合わせしそうになって、大騒ぎしちょるじゃき。」「どこまでも間の抜けた男だ。行くぞ。」と桂は、別の膳で食事をしていた捨助に声を掛けて出て行きます。苦い顔で酒を飲む龍馬。まだまだ先は長そうですね。

離れに居るつねとみつ。さっきと打って変わって、深刻そうな様子です。「なんか、気になった?」とつねに聞くみつ。しかし、つねは沈んだ表情のまま、何も言いません。みつは意を決したように立ち上がり、「探してくる。」と部屋を出て行きます。廊下で捨助に声を掛ける桂。「岩倉公に、例のものを渡してくれたか。」「はたきですか。明日、持っていこうと思っていたんですけど。」「急げ!」と桂は苛立たしそうに言います。「長州の命運が掛かっておるのだ。」「あのはたきに?」そこに、庭を隔てた廊下にみつがやってきます。捨助の顔を認めたみつは、後を追いかけて「捨助!」と声を掛けてきます。「こんな所で、何してるの?」「あ、あ~!」と小さな悲鳴を上げる捨助。桂もみつに気が付いた様子で、顔を見られないようにしようとしています。「俺だって、尊王攘夷の為に、頑張っているだよ。」という捨助を余所に、みつは桂に気が付きます。みつから逃げようとする桂と、しつこく顔を確かめようとするみつ。「あっ、この顔。桂小五郎。」「人違いです。」とキッパリと否定する桂。「桂さんだよ。でしょ?」と捨助に同意を求めるみつ。手を振って否定する捨助。「儂は、桂やない。出石の荒物屋、広江孝助や。」このドラマでも、一応出石との関連性はあるという事になっているのですね。出石での桂は、広江孝助と名乗り、荒物屋を営んでいたと伝えられています。「またまた、どこから見ても桂さんだもの。」とみつは食い下がります。面倒だとばかりに立ち去ろうとする桂の背後から、「桂さんでしょう!」と大声で呼びかけるみつ。思わず振り向いて、「しっー!」とたしなめる桂。「やっぱり桂さんだ。」と嬉しそうなみつ。「あっちいけ!」と捨助がみつを押しやり、ようやく桂もみつから解放されます。一旦は去り掛けた桂ですが、ニヤっと笑みを浮かべ、何かを思いついた様子です。すぐに振り返ってみつの側に寄り「近藤勇のおめかけさんが、この宿のどこかに居るらしいぞ。」と耳打ちして去ります。楽しそうに、ニコニコしながら去る桂。えっーと言う顔になるみつ。

深雪太夫の部屋。近藤、井上、京屋、お登勢、深雪太夫が居ます。「そういう訳で、私は、急用で屯所に戻らなくてはならなくなりました。新しい住まいには後日移るとして、今日のところはこちらに泊まって頂けませんか。」と近藤。「うちは、かましません。」と深雪太夫。「さすが、新選組はん、お忙しいですな。」と事情を知らない京屋が、お世辞を言います。「不逞の浪士どもが騒ぎ出しまして。」と調子を合わせる井上。「誠に、京屋さんには、この度世話になった。」「近藤先生、太夫の事、よろしゅうお頼み申します。ほな、私はこれで。」と京屋は去っていきます。その京屋と入れ違いに現れたのが、みつとつねでした。驚く近藤と井上。「勝っちゃん、そこに居るのはどこのどなた様?」と詰問するみつ。うろたえるばかりの近藤と井上。みつとつねは更に近藤の前まで詰め寄り、「どういう事なの?訳を聞かせて貰おうじゃない。」と重ねて聞いてきます。言葉が出ない近藤に、お登勢が助け船を出します。「わてが、お話し申します。こちらは、大阪からお見えの深雪太夫。身請けされて、こっちゃやって来ました。」まずいぞと言わんばかりに、顔を見合わせる近藤と井上。「近藤先生も偉くなったもんね。花魁を身請けして、おめかけにするなんて。」と皮肉を言うみつ。「こっちには、花魁はおりません。太夫でございます。」と深雪太夫。花魁は江戸の吉原の最上位の遊女で、京都、大阪では太夫が最高位とされていました。もっとも、吉原の花魁も、元は太夫と言ったそうですね。「どっちでも、同じ事。」ところが、特に島原の太夫ともなると、他とは一線を画していました。島原の太夫は正五位の位を持つとされ、殿中に上がる資格を持っていたのです。ですから、深雪太夫としては、江戸の花魁とは格が違うと一緒にしては欲しくなかったのでしょうね。進退窮まったような近藤に、さらにお登勢が加勢します。「あのー、なんか思い違いしたはるようですが、身請けされたのは近藤先生やないんどす。」「はっ?」「こっちゃの、井上先生でございます。」と声を励まして言うお登勢。「先生、ご自分の口から、はっきり言わはった方が。」「源さんが。」と疑わしげなみつ。追いつめられた井上は、開き直って芝居を始めます。「この年になって、初めて恋をしました。それって、罪でしょうか。」居たたまれない表情をしている近藤。「源さん。」と意外そうなつね。井上は、さらに深雪太夫の側に行って、「おゆきと言います。」とみつとつねに紹介します。近藤は、なぜか両手をついて頭を下げる格好になっています。深雪太夫もその気になって、井上と向き合い、井上はその手を取って「幸せにするよ。おゆき。」と優しく言ってやります。「源三郎様。」と深雪太夫も調子を合わせます。そこへ、駆け込んでくる土方と沖田。「ちょっと待ったー!」と叫ぶ沖田。「つねさん、違うんだ。その女は、俺を追いかけて来たんだ。」と息を切らしながら言う土方。そして、深雪太夫の方につかつかと近より、太夫の手を取っていた井上を「はい、そこどいて!」と突き飛ばします。弾みで、襖を押し倒して転がる井上。「おゆき、悪かった、好きだよ。」と芝居を演じる土方。「もう離さない。」と太夫を抱きしめます。太夫は今度もその気になって、「歳三様。」と幸せそうに目をつぶってつぶやきます。ようやく起きあがった井上ですがもう引っ込みが付きません。彼もさらに芝居を続行します。「おゆき、いつの間にこの男と。」「お許し下さい。」とさらに乗る太夫。色男ぶってニヤリと笑う土方。「歳三!お前って、やつぁ!」と井上は太夫から土方を引き離して押し倒し、馬乗りになって殴りつけます。これを見て、近藤が思わず止めに入ります。「そこまでだー!もういい!みんな、それなりに有り難う!」と叫びます。それなりにって、なんなんでしょうね。「局長!」と井上。驚く、土方、みつ、つね、沖田の面々。「みんな、外に出てくれ。つねとおゆきはここに残って。」とあえぐように言う近藤。「さあ、皆さん、とりあえず参りましょう。さあ。」ととりなすように言うお登勢。土方を起こす井上。鼻を押さえている土方。手を離すと、鼻血が出ています。その顔で、近藤とアイコンタクトを取る土方。山南の脱走の時と同じですが、鼻血が出てるいる分だけ間抜けな感じがします。これって、あの回のパロディなんですね。近藤を睨み付けるつね。目をそらす深雪太夫。真ん中で、中腰で両手を広げたままの格好で動けない近藤。廊下に出て、「済みませんでした。」と土方に謝る井上。「気にするな。」と仲間内には優しい土方。「何やっての。馬鹿みたい。」「大体、姉さんが急に出てくるから。」「なんで、私のせいになるのよ。」と沖田姉弟。

つねと対座する深雪太夫。つねは太夫を睨み付け、太夫は申し訳なさそうに頭を下げた格好です。その間に居る近藤は、針のむしろに座っているような様子です。「いずれ、手紙で知らせるつもりだった。」と近藤。「正直に言う。こっちに来てから2年、良い事ばかりではなかった。色々と悩みもしたし、気落ちもした。そんなとき、私の励みになったのが、深雪太夫だった。今、この人は身体を毀している。俺はだから、せめてもの恩返しにもと、京へ呼んで、ゆっくり休ませてやろうと思った。それが私の偽らざる気持ちだ。」切々と、つねに語りかける近藤でしたが、つねはそれには答えず「おゆきさんと、二人にして貰えますか。女同士で話がしたいのですが。」と深雪太夫をじつと見据えながら静かに言います。仕方がないというふうに席を立つ近藤。

縁側で、近藤が夕焼け空を見ながらため息をついています。そこへお登勢が現れます。「よろしいやないですか。後は、お二人に任せておいたら。奥さんも、大阪からきはった方も、どちらさんも賢そうな人やし。こないな時は、男はんは、どっしり構えてたらよろしおすのや。」と言いながら袂から手ぬぐいを取りだし、「お風呂にでも入っといやす。」と薦めます。近藤は、とまどいながら手ぬぐいを受け取り、風呂へ向かいます。

つねと深雪太夫の部屋。相変わらず、太夫は頭を下げた姿勢です。「不器用な人ですから、あの人嘘を付くとすぐ判ってしまうんです。さっきの話しも嘘。あなたを京へ呼んだのは、あなたを愛しく思ったから。後は方便。」つねは、全てを見抜いていたようです。「近藤先生のお情け、心の底から嬉しゅうございます。けど、こうなってしもたからには、うちは先生の側には居られません。」と身を引く覚悟を示した太夫。ところがつねは「側に、側に居てあげて下さい。」と意外な事を言い出します。「えっ」と意表を突かれた太夫。

湯船に浸かる近藤。そこに龍馬が入ってきます。やや気まずそうに「おう、久しぶりじゃの。」と言う龍馬。黙って、会釈をする近藤。

「あの人は、先だって大事なお友達を亡くしました。きっと、心に深い傷を受けた筈です。でもそのとき、私はその場に居てあげられませんでした。居たのは、あなた。」と太夫を見つめるつね。「勿論、くやしいです。でも、私には、江戸で道場を守る役目が。だから、私の替わりをお願いします。」とつらい決心を語るつね。「よろしいんですか。」と太夫。だまって頷くつね。「うちが、どんな女か、ご存知ないの?」「うちの人が好きになる人です。悪い人であるはずがありません。」さらにつねは意表を突いた行動に出ます。「近藤勇を、よろしくお願いします。」と太夫に頭を下げるのでした。「ただ、約束して下さい。あの人が、京に居る間だけ。」本妻としての意地でしょうね。あなたはあくまで仮の存在だと釘を刺したのでした。「京に居る、間だけ。」と太夫は繰り返します。これは太夫にとっては、辛い事だったでしょうね。どこまで行っても、かりそめの存在からは抜けられ無いのですから。「はい。」と答えるつね。「かしこまりました。」と頭を下げる太夫。つねの頬を一筋の涙が流れます。どちらにとっても辛い時間だった事でしょうね。

「そっちはどうなるぜよ。騒動は収まったかがかや。」と風呂に浸かりながら近藤に聞く龍馬。「さあ、良く判りません。」と身体を洗いながら答える近藤。「お前も朴念仁に見えて、結構やるきね。」と言って笑う龍馬。「申し訳けないけんど、わしは幕府を見限ったぜよ。」「それは、どういう事ですか。」「もう、幕府には、任せておけんという事よ。」「坂本さんは、幕府はもう要らないと言うのですか。」「そうはゆうちょらん。ただ、幕府のやつら、腰抜けしか居らんき。そいつらにまかしちょっては、外国の食い物にされるだけじゃきに。ほいで、わしらが自分らの力で、日本を守るがじゃ。」このあたりが龍馬の複雑な所ですね。基本的には倒幕論ですが、ぎりぎりの段階では将軍家そのものは滅ぼそうとはしませんでした。「そりゃ、確かに幕府は弱っています。旗本は、武士の誇りさえ忘れている。しかし、坂本さん、上様あっての我らではないのですか。私達の力で、幕府を立て直そうとは思わないのですか。」「幕府がなんぜよ。」近藤と龍馬の決定的な違いが生じた瞬間ですね。近藤はどこまで行っても幕府からは離れられず、龍馬は幕府に変わる新しい政体を築いて行こうと考えています。「坂本さん、その辺にしておきましょう。」「おまんとはもう、会わん方がええと、思うちょったき。これでおさらばじゃのう。今度会う時は、敵同士じゃ。」実際には、これ以前に既に敵同士なんですけどね。龍馬が脱藩した時点で正規の土佐藩士では無くなっており、新選組から見れば紛れもなく不逞浪士の一人でした。無論、寺田屋で近藤と会った事など一度も無かった事でしょう。顔に水を掛け、厳しい表情になる近藤。友と思っていた男と、これから敵味方に分かれて対決して行かざるを得なくなった事に対する覚悟の表れでしょうか。

この項は、子母澤寛「新選組始末記」、新人物往来社「新選組銘々伝」、別冊歴史読本「新選組の謎」、河出書房新社「新選組人物誌」、歴史群像シリーズ「血誠 新撰組」を参照しています。


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