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2004.08.18

新選組!24の2

新選組!第32回「山南脱走」その2

会津本陣で、会津候とその弟で京都所司代を勤める松平定敬と対面する近藤、佐々木只三郎、大島吉之助の3人。「新選組の働き、見事である。」と定敬に褒められ、近藤は面目を施します。行儀良く座っている近藤、佐々木に対し、西郷はなにやら身体を揺らして落ち着かない様子です。「さて、本日集まって貰ったのは、ようやく朝敵長州もご公儀のご威光に恐れをなし、恭順の姿勢を見せるようになった。そこで、京をお守りする我らにとって、これから第一に考えねばならぬ事はなにか、思いの丈を語ってくれ。遠慮はいらん。」と切り出す会津候。遠慮無く意見を言えとの言葉を都合良く解釈し、「そいなら、お言葉に甘えもんそ。」と膝を崩しに掛かる西郷。人を喰ったような態度ですが、長州藩と直接やりとりし、恭順にまで持っていった最大の功労者は彼です。その彼を前にして、ご公儀の威光のおかげと言われては面白くないのでしょう。それを知っている会津候は、寛大な態度に出ます。「今行うべきは、異国船の襲来に備えるべきではないでしょうか。すなわち、大阪沿海の備え、下関を砲撃した米、英、仏らの軍艦が、いつ攻め寄せて来るやも知れません。まずは、その防御に力を注ぐが大事かと思います。」と佐々木。「なるほど、予も同じ考えじゃ。」「兄上、まずは大阪の守りを固めましょう。」と会津候と定敬。これは、この当時の最も常識的な意見でした。京都に近い大阪湾の海防は緊急の課題とされて、沿岸の各地に砲台が築かれ、さらに淀川を遡って京都に攻めてくる事を想定して、左岸の楠葉と右岸の高浜にも砲台が築かれています。「西郷、そなたの考えは?」問われた西郷ですが、何やら外を見やっている様子で、心ここにあらずといった風情です。「すんもはん。聞いちょいもはんじゃした。見事な松ごわんどなぁ。」と天井を見上げる西郷。すっとぼけた態度ですが、彼は長州征伐を巡る幕府とのやりとりの中で、既に幕府を見限る気になっていたのですね。政治巧者の彼としては、生一本なだけの会津候をまともに相手をする気など無かったのでしょう。「近藤、そちはどう考える。」「恐れながら申し上げます。異国と戦う事が、誠に日本の為になるのでしょうか。先般、江戸へ下向したおり、蘭方医松本良順先生に会い、話を聞く機会を得たのですが、外国の目的は戦いを仕掛けては圧倒的な軍事力の差を見せつけて、がっぽっり賠償金を稼ぐことにある。だから、戦うだけ損という意見でした。」と近藤。近藤の回想シーンは、前回沖田の病状を聞いた時と場面が異なりますが、実際に近藤は江戸で2回松本に会っており、この意見は2回目の面会で聞いたという設定になっているようですね。「薩摩は、昨年、エゲレスと戦をしておるな。そのときの話をしてくれ。」と会津候。「すんもはん、そんときは、おいは島流しの最中ごわした。」とあくまですっとぼける西郷。イギリスと戦ってその実力を思い知らされ、攘夷の不可を悟った薩摩藩は、既に藩論を開国へと転じており、密かにその交戦国であったイギリスと手を結んでいたのでした。彼にしてみれば、それをわざわざ会津候に教えてやる必要もなく、こんな議論の場に出る事自体ばかばかしい限りだったのでしょうね。「では、近藤はどうすれば良いと思うのか。」と定敬。「今となって、亡き佐久間象山先生のおっしゃっていた事が判るような気がするのです。すなわち、日本はすみやかに開国し、西洋の文化を取り入れ、諸外国と互角に渡り合える力を付けた後に、異国と一戦を交える。それこそが、誠の攘夷であると。」「誠の攘夷。なるほど、それも一つの考えじゃ。」と会津候。無論、こんな会議があったという事実はなく、全てはフィクションです。しかし、この設定のおかげで薩摩藩の変貌、一般的な幕臣達の立場、近藤が密かに抱いていたであろう考えを見事に説明出来ていますね。

しかし、近藤が攘夷の不可を悟ったことが、果たして彼にとって幸福だったかどうかは判りません。彼の作った新選組は本来攘夷の実現を目指す集団であって、市中取り締まりの仕事はその途中の仮の姿でした。しかし、近藤が攘夷の不可を悟った瞬間に新選組は本来の目標を失った事になり、あるいはその時点で解散してしまうのが正しい決断だったのかも知れません。ところが、時代の流れは近藤個人の思いとは別に、新選組を幕府の警察組織として抜き差しならぬ存在としてしまっており、この後彼はひたすら佐幕のみを目的として新選組を率いていく事になります。あるいは時代の流れが見えだした事が、彼にとっては辛い事だったのかもしれないという気もします。

寺田屋で、寝ころびながら酒をあおる坂本龍馬。なにやら、すさんだ様子です。酒を控えろと言うお登勢に、指図する気かと絡む龍馬。そこへ山南が訪ねてきます。龍馬が荒れている訳は、勝海舟が軍艦奉行を罷免されて閉居謹慎を命じられ、さらに神戸の海軍操練所も閉鎖されてしまった為でした。「これではっきりしたぜよ、幕府の上の連中は、馬鹿ばかりよ。」と龍馬。さすがに山南は穏やかではありません。「せっかく、外国と渡り合える海軍を作ろうと思うちょったのに、全てが水の泡じゃき。あほくさ。」これまで龍馬を支えてきたものを全て失ってしまい、投げやりになってしまったのですね。龍馬に元気を貰いに来たはずの山南は、そんな龍馬を見るのが辛そうです。「坂本さんは、これからどうされるのですか。」「勝先生には、薩摩の西郷のところへ行けと言われちょるけんど、行くかどうかは決めちょらん。わしはもう、どうでもようなった。」と吐き捨てる龍馬。「坂本さんには、そういう事を言って欲しくない。」と山南。確かに、こんな龍馬は見たくないですね。「佐久間象山先生は殺され、長州の桂は行方知れず、勝先生は謹慎、これじゃいつになっても新しい世の中は来るもんかい。」と悲観的になる龍馬。実際、この時期の龍馬は八方ふさがりの状態でした。龍馬は、セリフの中にあるように薩摩藩に匿われていたか、あるいはどこかに潜伏していたのかは判りませんが、約半年の間記録の上から消えてしまいます。「私は近頃思うのです。詰まるところ、この国を動かすのは、考え方や主張ではなく、人と人との繋がりなのではないでしょうか。だからこそ、藩に属さず、一つの考えにこだわらないあなたのような人が、日本には無くてはならないのです。」と山南。後の龍馬のあり方を予言しているかのような言葉ですね。しかし、この時はまだ、山南の言葉は龍馬の心には届かなかった様です。「知らん。こんな国、滅んでしまえばええがじゃ。」と無気力さを隠さない龍馬。それを見守る山南の表情が哀しそうです。

その寺田屋の一室ではしゃぐ捨助と浪士達の一行。「今日は、この捨助様のおごりだぞ。」と気の大きな所を見せる捨助。捨助の相手をしているのは、おりょうです。「捨助さんは、なんでそんなに羽振りがええの。」「おれだってね、何もしねえで銭を貰っている訳じゃねえんだよ。ちゃんと、それに見合った仕事はしてんだ。命がけのな。」と捨助。その気炎を聞かされた周囲の浪士達は面白くなさそうです。そりゃ、真っ先に逃げるのはいつも捨助だもんね。幾松から貰ったお金を、これ見よがしに持っているのが嫌らしい演出ですね。

小さな川に架かった小橋の上で、物思いに耽る山南。川面に写った自分の顔めがけて小石をけり込み、その顔を消してしまいます。何かを決めた様子です。

屯所で、土方、沖田と対座する山南。「休むって、どういう事だ。」「仮の話です。江戸に戻り、自分の進むべき道をもう一度、ゆっくり考えてみたいと、ふと思ったのですから。」「あんたの進むべき道は俺が知っている。今、隊を離れて貰っては困る。」と土方。困った様子の山南は、「近藤さんは、まだお帰りではありませんか。」と沖田に聞きます。近藤なら判って呉れると思ったのでしょうか。しかし、土方はそんな山南の気持ちを見透かしたように、「局長が許しても、副長の俺が認めない。」と言い放ちます。うーん、こういう場合、局長より副長の決定の方が優先するのかな。総長は、局長に直属のはずでは?「言っとくが、法度にそうある以上、許し無く勝手に隊を離れた者は、脱走と見なして、即刻連れ戻す。」困ったように、哀しそうな表情で笑う山南。「お手間を、取らせました。」と引き下がります。後に残った沖田と土方。「休ませてあげれば良いのに。」と沖田。「今は、山南が頼りなんだ。案の定、伊東甲子太郎がしゃしゃり出て来た。うちで、伊東と理屈で勝負出来るのは、山南だけだからな。」と土方。さっき山南にそう言ってやれば、どんなにか救われた気持ちになったでしょうに。「案外、山南さんを買っているんですね。」「悪いか。」と土方は、照れを隠すかのように、鼻を擦りながら言います。それを嬉しそうに眺める沖田。山南に冷く当たっている様でも、やはり仲間としての意識は持っていたようです。なにか、ほっとさせられる場面ですね。しかし、山南はそれを知りません..。

会津本陣で、佐々木と膳を挟んで酒を飲む近藤。西郷はこの席にはおらず、帰ったようです。「講武所で初めてお会いした時から考えると、大出世でごさるな。」と佐々木。「私は、私の信ずる所に従って生きて来ただけです。」と近藤。「同じ徳川様をお守りする者としてご忠告申し上げるが、あなたの振る舞いはいささか危うい。今日、あなたは会津候の前で異議を唱えられた。我らは何時でもご公儀のために忠節を尽くすだけ。余計な事は考えるな。」と佐々木。幕臣の中で生きてきた者として、当然身に付けておくべき処世術だったのでしょうね。同時に、旗本を腐らせてしまった事なかれ主義でもありました。しかし、初々しい志士でもある近藤には、納得が行きません。「そもそも、報国とは何ですか。諸外国から日本をお守りするという事ではありませんか。つまり、それが攘夷。しかし、今の攘夷では、日本を守る事が出来ないとしたら。攘夷を行う事が日本国の為にならないとしたら、私達はどうすれば良いのですか。」と佐々木にまっすぐ問いかけます。「簡単な事。我らが仕えるのは、上様お一人。我らにとっての報国とは、ご公儀に報いるという事である。」と佐々木。まさしく、典型的な佐幕主義ですね。「ご公儀に報いる事が、日本国の為にならないとしたら。」とさらに斬り込む近藤。これはまるで勤王主義者が言いそうな事で、幕府に仕える者としては言ってはならない事でもありました。佐々木は「もうよしましょう。」と遮ります。

近藤が攘夷に疑問を持った事は確かですが、こんな事まで言ったという記録はありません。幕府は朝廷から信任を受けた政府であり、その幕府に報いる事は朝廷に報いる事でもあるという、公武合体論が近藤の立場でした。ただ、似たような発言としては、後に時勢が押し詰まって大政奉還が行われようとしているときに、近藤は土佐の後藤象二郎と交流を持つのですが、その後藤に向かって「私は今さらながらあなたの境遇がお羨ましい。身を立てる時、貴藩に籍を置いていたなら、当節思いのままの事が出来たであろう。」と言ったと「新選組始末記」の中にあります。時勢を読む事が出来るようになった近藤が、幕臣としての新選組局長という立場を足かせに感じていたとも受け取れる内容ですね。しかし、このとき近藤が何を考えていたのかまで窺い知る事は出来ません。

浮船で、明里と逢っている山南。何やら、こわそうな顔をしています。「ねえ、関ヶ原の戦いて、誰と誰が戦こうたんやった?」何をしているのかと思ったら、日本史を勉強していたのですね。「石田三成は、誰の家来やった?」「もう良い、あなたに日本の歴史を学ばせようとした私が間違いだった。」遊郭に来て遊女に勉強させようとする人も珍しいと思いますが、いかにも真面目な山南らしくもあります。「そんな事ないよ。うち、やる気になっているんやから。」「それにしては、前に教えた事を、全く覚えていないではないか!」と怒り出す山南。あれやこれやで、イライラが募っていたのですね。「そやから、始めからうちは阿保や、言うたんや。そやけど、うちなりに頑張ってるのに...。先生と話がしたいから!」と明里。明里は可愛い女性ですね。苦手な勉強も、好きな山南の為に頑張ってやろうとしていたのです。「私が悪かった。勘弁してくれ。」と謝る山南。彼はやっぱり、優しい男です。山南は穏やかな顔になって、優しく教えます。「石田三成は、豊臣秀吉の家来だ。」「だれ?」「太閤様だ。」「ああ、猿ね。」と納得の行った明里は、嬉しそうです。太閤記は、江戸時代には講釈でも語られていました。きっと明里も講釈で聞いた事があり、秀吉が猿と呼ばれていた事だけは覚えていたのでしょうね。しかし、自らを阿保という明里ですが、字は読めるのですね。この頃の識字率は、寺子屋のおかげで決して低くなかったという事なのでしょうか。「あなたにからんだお詫びがしたい。何か欲しいものはないか?」と聞きます。「わからん。」明里は、無欲な女性なんですね。「では、今何がしたい?」「何で、そういう難しい事ばっかし聞くんやろ?」「今度来る時までに考えておいてくれ。」「富士山...、富士山見たい。」と思わぬ事を言い出す明里。「見た事ないの。丹波生まれやから。」「富士山...。」山南は、何か思うところがあるようです。

「やあー!」と裂帛の気合いで稽古に励む沖田。三段突きと呼ばれた技の工夫でしょうか。そこにひでが現れます。「引っ越すて、ほんま?」「まだ、決まってないけど。」「会えなくなる?」ひでは、沖田と離れる事が心配だったのですね。しかし沖田は「ああ。」と素っ気ない返事です。「先生はなんて?今日も行ったでしょ。あの先生の所に。」「つけたのか。何でそういう事をするんだよ!」と怒鳴り出す沖田。「このごろ素っ気ないから。他に好きな人が出来たんかなて。かんにん...。」せつない女心ですね。「重い病気なん?」「多分、そんなに長生きは出来ないと思うよ。先生も言ってたし...。」と告白する沖田。ショックを受けたひでは、「そんな事ない。」と思わず気休めを言います。「判りもしないのに、そんな事言うなよ!」とまたしても怒鳴る沖田。沖田は、自分の事で一杯一杯だったのですね。「かんにん。」と小さくあやまるひで。「申し訳ないけど、私にはやらなければならない事が山程あるんだよ。剣術だって、もっと強くなりたいし、近藤さんや土方さんのために、もっと働きたい。だから、もう、私には係わらないで下さい。」沖田は、ひでの気持ちに気付いていたのですね。しかし、将来の無い自分を見つめ、その短い間に出来る事を探し、ひでの事は諦めようとしていたのでした。沖田なりの愛情だったのでしょうね。しかし、ひでにとってはやはり辛い仕打ちには変わりないのでした。

屯所の一室で端座する山南。ようやく決心が付いた様子です。会津本陣から帰ってきた近藤。少し疲れた様子です。山南は、表情を明るくして「今、お戻りですか。」と話しかけます。「いかがでしたか。会津候の前で、思うところをお話出来ましたか。」といつもの調子に戻った山南。「難しいものですね、議論というのは。自分の意見を述べただけなのに、佐々木様にたしなめられてしまいました。」と近藤。「近藤さん、己の信ずる所に従って生きて下さい。周りからは色々な声が入ってくるでしょうが、あなたの進む道は、あなた自身が決めるべきだ。」山南にすれば、近藤に残す餞別のつもりだったのでしょうね。しかし、そうとは気付かない近藤は、今さら何を言い出すのかと怪訝な様子です。

居酒屋で、永倉と原田を前に座っている山南。「本気かよ。」と意外そうな原田。「あなたを引き留めておいて、こんな事を言うのもおかしな話だが。」と永倉に向かって言う山南。「それはもう、決めた事ですか。」「決めました。」「ならば、何も申すまい。」永倉は男ですね。山南が考え抜いて決めた事だと推測し、彼の意志を尊重して余計な事は言うまいとするのでした。「だけどさあ、土方さんに内緒という事は、脱走だろ?みつかりゃ、切腹だせ。」と原田。「覚悟の上。」「大丈夫、この人は捕まりはしない。」と根拠の無い事を言い出す永倉。「出来るだけ早く、草津にまで出ようと思っています。そこからは、中山道と東海道に別れているので、追っ手も巻きやすい。」これが、この場を取り繕う為の嘘だという事が後から判ります。「それが良い。」と永倉。「だけどさあ、何でまた?」と原田。「聞くな、人にはそれぞれの思いがあるんだ。」と永倉。「また、戻ってくるんだろ?」と原田。彼は思慮の足りないところがありますが、山南の事が気になって仕方がないのですね。とことん良いやつです。「江戸で落ち着いたら、ゆっくり考えてみます。」と山南。残念そうな原田と懸命に感情を抑えている様子の永倉。「で、二人にお願いがあるのですが。」と山南が切り出します。

新選組の屯所。山南の頼みとは、永倉と原田の二人に騒ぎを起こして貰う事でした。皆の注意が二人に集まっている間に、そっと出て行こうと言うのです。「やるのか、こらぁ!」「庭へ出ろ!」二人の芝居が始まります。つられて出てくる島田と井上。一番やっかいな土方も止めに入ります。その隙に部屋に入って、荷物を揃える山南。彼は、井上と同室だったのですね。準備を終えて、出て行こうとする山南の前に、斉藤が寝ていました。「見なかった事にしてくれないか。」と頼む山南に、斉藤は暫く考えた後、「俺は、人の事には関心がない。」と答えます。彼なりの、武士の情けだったのでしょうか。通用口から外に出た山南。屯所の玄関に向かって、一礼をして行きます。壬生寺で稽古を続ける沖田に気づいた山南。一度は、そのまま通り過ぎようとしますが、思い直して沖田に声をかけます。「沖田君、剣先が下がって来ている。君の悪い癖だ。」「細かいところを見てますね。」この二人は、かつて試衛館でも教え、教えられた仲でした。沖田は、今でも山南の剣の腕を尊敬している様ですね。「がんばりなさい。」「頑張っているんですけど。」と沖田は、見て判らないのかとでも言いたげです。しかし、山南の本当の気持ちに気付くはずもないのでした。なごり惜しそうに沖田を振り返りながら、山南は去って行きます。

翌朝の屯所。「それは、どういう事だ。」と近藤。「夕べ、どうも帰ってないんです。」と井上。「一番最後に見たのは。」「夕べ総司が表で話しています。」「でも、遠出する風ではなかったですよ。」と沖田。土方は、俯いて考え込んでいます。「長州のやつらに、やられたのかも知れませんね。」と武田。「すぐに手分けして探せ。」と近藤。ここで遂に土方が口を開きます。「その必要はねえ。やつは、逃げたんだ。」「何を言っているんだ。」「昨日、俺の所へ来て、暫く暇が欲しいと言われた。勿論、俺は認めなかった。だからあいつは...。」「だけど...。」「これは、脱走だ。」と辛そうに言う土方。愕然とした表情の近藤。「逃げる理由が、どこにある。」「西本願寺の件でも、色々不満はあったようです。」と武田。「山南さんが、このところ悩んでいたのは確かです。」と井上。井上は土方の気持ちは判ってやれても、山南の相談相手にはなる事は出来なかったのですね。「しかし、脱走すればどういう事になるのか、あの人にだって...。」とまだ信じられない様子の近藤。しかし、もしかしたら、と思い当たる所があったようです。山南の部屋の行李を調べる井上。「山南さんの持ち物が、全部無くなっています。」「あの、馬鹿野郎!」と将棋盤をけっ飛ばす土方。それまで抑えていた、裏切られたという思いが爆発したのですね。「どうするんですか。」と気づかわしげな沖田。「脱走した者は連れ戻す。それが法度だ。」と苦しげに言う近藤。「連れ戻した後は。」と聞く井上。思い詰めた顔で、何も言わない近藤。「決まってんだろ。」と土方。「今は、こんな話は。」と近藤。「近藤さん、一切の例外は認めないと言ったはずだ。」と言い放つ土方。じっと耐えているような近藤。「山南さんが逃げた。」と冷静に斉藤に向かって言う武田。「見てれば判る。」と無感動に言う斉藤。「どこに行ったか、心当たりはないか。」「ない。」と斉藤はあくまで、無関心を装います。「恐らくは、東だろう。江戸に戻ってゆっくりしたいと言っていた。」と土方。「そんなにまだ遠くに行っていないはずです。すぐに追っ手を出しましょう。」と事務的に進めようとする武田。「斉藤君、出立して貰えるか。」少し考えた後、「承知。」と静かに言って立ちかける斉藤。このとき、彼は何を考えていたのでしょうね。「いや、待て。」と止めたのは土方でした。土方は意味ありげに近藤を見やります。その近藤は、沖田を振り向き、そして土方の目を見つめます。うなずく土方と近藤。「総司、お前が行け。」静かに命ずる近藤。目を瞠る沖田。近藤の目が何かを語っています。

馬に乗って山道を走る沖田。追っているにしてはゆっくりした走り方です。その先の山道を歩く、山南と明里。早く草津にまで出ると言っていた割に、のんびりとした道行きです。山南は明里を身請けしてやったのでしょうね。幸せそうな様子の明里と山南。「あらぁ、綺麗やね。」と道端の花を摘む明里。黄色い水仙でしょうか。楽しげに花のにおいを嗅いだり、眺めたりする明里を見守る山南は、いつになく悩みの消えた安らかな表情でした。

この山南の脱走については、「新撰組顛末記」や「新選組始末記」に出て来ます。ただし、明里と一緒だったという記載はありません。また、この明里についても「新選組始末記」にあるだけでその存在は証明されておらず、子母澤寛の創作である可能性もあります。でも、私としては、彼女は居たと思いたいですね。さらに、「新撰組始末記」では、脱走については触れておらず、脱走の事実そのものを疑う人も居ます。新選組総長という重職にあった人の死にも係わらず謎がつきまといますが、このドラマの演出はなかなか良いですね。悩み抜いたあげくに恋人との逃避行を選んだ山南と、仲間の脱走に衝撃を受け、法度の運用と仲間に対する思いやりとの間に挟まって苦しむ近藤と土方。その二人の思いを背負って、後を追う沖田。4人の思いが交錯する人間模様は、なかなかに見応えがあります。

この項は、永倉新八「新撰組顛末記」、子母澤寛「新選組始末記」、新人物往来社「新選組銘々伝」、「新選組資料集」(「新撰組始末記」)、別冊歴史読本「新選組の謎」、河出書房新社「新選組人物誌」を参照しています。

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