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2004.07.20

新選組!20の3

まず、冒頭でお詫びと訂正です。
昨日アップした新選組!20の2の中で、望月亀弥太の最期について誤った記述をしていました。最初アップしたときに「土佐藩邸に向かう途中で角倉邸の角で力尽きた」と書いてしまったのですが、これは「長州藩邸に向かう途中で角倉邸の角で力尽きた」が正解です。土佐藩邸跡と同じ場所に角倉了以顕彰碑というのがあるのですが、これと邸宅跡を混同してしまったのが原因です。実際の角倉邸跡は二条にあり、正反対の方向に走らせてしまいました。朝になってから誤りに気付いたので本文の方は出勤前に訂正しておいたてのですが、それ以前に70名程の方が拙文をご覧になって下さっていた様です。ここに改めてお詫びして訂正させて頂きます。

さて、本日のマイナー隊士の紹介は、浅野薫です。ドラマでは、中村俊太がどこかミステリアスな役柄を演じていますね。池田屋ではせっかく近藤隊に志願しながら、物陰でがたがたと震えている情けない姿をさらしていました。なぜこんなキャラクター設定になっているかというと、それなりに理由があるからです。

浅野薫については資料が少なく、謎の多い隊士です。現在彼について判っている事績の多くは「史談会速記録」に記録されている元御陵衛士阿部十郎の談話に依るもので、そこでは浅野の出自を備前であるとして「かなり学問もございまするし、手もよく書きます。剣術もちょっと使います。」と語っています。また、日を改めた談話では「医者が本業」とも話しています。

生年不詳、入隊時期も不詳と判らない事だらけなのですが、彼の活動が最初に記録されているのが「島田魁日記」で、1864年(元治元年)5月頃の事として、古高俊太郎について「当組島田、浅野、山崎、川島是ヲ探索シ、会津候ヘ達ス」とあり、諸士調役兼観察として活躍していた事が窺われます。当時は浅野藤太郎と名乗り、ドラマにあるように池田屋事件では近藤隊に属して参戦したと考えられています。彼は報奨金として隊士としては最高の20両を受け取っており、また真偽は判りませんが、彼の刀は討ち入り後左に曲がっていたとも言われ、ドラマと違って相当の活躍をしたと考えられます。永倉新八の「同志連名記」には副長助勤とあり、この時の功で昇進したのかも知れません。

浅野は池田屋事件の直後、6月10日に起こった明保野亭事件で犠牲となった柴司の葬儀に土方、井上、武田、河合らと共に参列し、弔歌を詠んでいます。このことから、もしかすると明保野亭事件にも係わっていたのではないかと推察する説もありますが、定かではありません。ただ、この事件の直後に薫と名を改めているようです。

7月19日に起こった禁門の変では、浅野は軍事方として出動したと「浪士文久報国記事」にはあります。天王山の残党を撃つために出動した新選組は、近藤の隊が敵を求めて山上へと駆け上り、土方の隊が山下を固めました。浅野は、武田観柳斎と共にこの土方隊に属し、おそらくは参謀の様な働きをしていたものと考えられています。これは相当な出世と言って良く、阿部の回顧録にも「近藤はこれを非常に用いていた」とあり、当初から優秀な人材として買われていた事が伺えます。

9月23日、浅野は土方と共に松代藩士北沢正誠の元を訪れています。これは、当時新選組で預かっていた佐久間象山の息子、三浦敬之助の松代藩への帰参を打診するためでした。佐久間象山は、禁門の変に先立つ7月11日に京都木屋町で暗殺されたのですが、そのとき背中に傷を受けた事を理由に佐久間家は松代藩によって断絶とされてしまいます。その子三浦敬之助は父の敵を討つ為に、勝海舟の紹介で新選組に客員として迎えられていました。ところが、京都所司代であった松平定敬の松代藩への働きかけで、佐久間家の復活と敬之助の帰藩の動きが出て来ます。土方、浅野が北沢を訪ねたのには、こうした背景がありました。二人の意を受け三浦の説得に乗り出した北沢でしたが、当の敬之助は断固としてこれを拒否し、新選組への残留を選んでいます。

この後、理由は判らないのですが、浅野に関する同時代の記録は途絶えてしまいます。11月頃に作成された「行軍録」や翌年の組織改編に浅野の名前はなく、忽然と姿を消してしまったかの様です。しかし、死亡あるいは脱走したのかというとそうでもなさそうで、後年の資料からこの後も新選組に居た事が伺われます。

これ以後の浅野の事績は、まず冒頭に紹介した阿部十郎の回顧録に出て来ます。そこには、伊東甲子太郎が加入した頃と言いますから、1865年(慶応元年)初頭に阿部の下を浅野が訪れたとあります。この頃阿部は新選組から脱走して大阪に潜伏していました。浅野は近藤と共に大阪へ下ってきたのですが、阿部に向かって、「今度入った伊東甲子太郎という人は非常に優れた人物で、この人が居れば新選組に戻っても大丈夫だ。」と言って帰参を勧めます。阿部はこの助言に従って新選組に帰ったのですが、浅野と阿部は「かねて意を共にした」とありますから、以前から二人は懇意だった事が伺えます。

次に浅野が登場するのは、西村兼文の「新撰組始末記」においてです。1866年(慶応2年)9月、京都三条大橋で制札事件が起こります。幕府が出した長州藩を非難する制札を何者かが抜き去るという事件が頻発し、これを重視した幕府は、新選組にその取り締まりを命じます。新選組では、原田佐之助、新井忠雄ら20名を派遣し、大橋の東西に潜ませ、下手人が現れるのを待ちました。このとき、浅野は橋本会助と共に乞食に扮して橋上で待機し、犯人が現れた時はそれぞれ待機している隊士の下へ知らせに走る事になっていました。果たして、土佐藩士ら8名が現れ、制札に手をかけます。これを見た橋本は、難なく下手人の背後を通って西詰めの仲間へ連絡を付けました。ところが浅野は恐れをなし、犯人達の近くを通る事が出来ずに河原へ降りて川の中を通って行ったため連絡が遅れ、東詰の隊士は戦闘に遅れる事になったと言います。新撰組始末記では、この後「東詰の隊士達が大いに憤り、浅野は卑怯の名を得て、後日放逐される。」とあり、この記述から浅野=臆病者という図式が生まれたのでした。ドラマの浅野も、このエピソードを踏襲しているものと思われます。

ところが、この記述をゆるがす資料が土佐側にありました。中城惇五郎という人の書簡に当日の様子が記載されているのですが、そこには、「制札を引き抜こうとしたところ、橋の下に二人居て、河原を南へ走り行き」とあります。つまり、この二人が橋本と浅野だとすると、二人とも河原を迂回して通報した事になり、浅野だけが臆してしまったという事にはなりそうにもありません。ちなみに、「浪士文久報国記事」には、二人の探索役は出て来ません。軍事方まで勤めた浅野がただの見張役をするというのも不自然で、「新撰組始末記」の記述には疑問がつきまといます。

浅野の最期については、いくつかの記述が見られます。まず、永倉新八の「同志連名記」では、浅野を広島浪士とした上で、島原で斬首としています。次に「新撰組始末記」では、「浅野は(勝手に金策を行った事が発覚したため)沖田総司により葛野郡川勝村で斬られた。」となっています。そして、阿部十郎の談話では、「伊東甲子太郎が御陵衛士として分離したあと浅野も脱走し、伊東を頼ってきます。しかし、新選組との約束で新選組からの脱走者は受け入れる事が出来なかったため、これを山科に匿い、土佐へ落とす算段をしていました。ところがその途中で浅野は近藤を説き伏せる積もりで出かけたが近藤が不在で、沖田総司が桂川へ行って斬ってしまいました。」と語っています。

この中では、当事者であったとする阿部十郎の説が最も信頼できるものと思われます。しかし、なぜ浅野は新選組を脱退したのか、また危険を冒してまで近藤の下を訪ねていったのかは不明で、やはり謎は残ります。

この浅野薫をモデルにした小説が「新選組血風録」の「胡沙笛を吹く武士」で、鹿内薫という名で登場します。この小説はもう一人吉村貫一郎もモデルにしている様ですが、元は勇敢な隊士であった鹿内が、妻を娶り、子をなしていくうちに臆病となり、三条制札事件で決定的なしくじりを犯し、土方によって粛清されるという最期を迎えます。この小説では、池田屋において鹿内は敵を避けて戦わなかった様子が描かれており、ドラマはむしろこの鹿内をモデルにしているのかも知れませんね。

一度は幹部として重用されながら、最期は脱走して斬られてしまった浅野薫。不可解な面が多い隊士ですが、少なくとも臆病者のレッテルは剥がしてやりたい気がします。

この項は、木村幸比古「新選組日記」(「浪士文久報国記事」「島田魁日記」)、新人物往来社「新選組資料集」(「史談会速記録」「新撰組始末記」)、「新選組銘々伝」、別冊歴史読本「新撰組の謎」、永倉新八「新撰組顛末記」、司馬遼太郎「新選組血風録」を参照しています。

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