新選組!14の2
今回の新選組!マイナー隊士の紹介は、松本捨助です。
ドラマでは、良く似た名前の架空の人物「瀧本捨助」が登場していますが、このモデルとなったのが松本捨助です。中村獅童が演じる「瀧本捨助」は三谷幸喜が創作した人物ですから二人が全く重なる訳ではありませんが、調べてみるとかなりの部分を松本捨助の人物像から流用しているのが判ります。
松本捨助は、1845年(弘化2年)に武州本宿村(現在の府中市)の百姓代松本友八の長男として生まれています。この松本家は、家伝によると先祖は甲斐武田家の家臣であり、武田家の滅亡後、徳川家康に従って八王子千人同心となったとあるそうです。
子供の頃から日野宿の名主、佐藤彦五郎の道場に通い、そこには土方歳三や井上源三郎が居ました。捨助は、目録まで得ている様ですね。
ところが、捨助はここから道を踏み外します。多摩の侠客小金井小次郎一家に出入りするようになり、放蕩の限りを尽くす様になりました。実家では捨助を持てあまし、捨助が16才の時にこれを勘当とした上で、土方歳三の兄の子である錠之助を迎えて跡取りとします。
捨助が勘当された2年後の1863年(文久3年)に、浪士組結成の話が持ち上がります。捨助の周囲でも、土方歳三、井上源三郎、沖田林太郎らが参加する事となり、捨助もこれに加わろうとします。しかし、勘当されたとはいえ捨助は松本家の一粒種であり、万が一の事があってはいけないと周囲の猛反対に遭い、泣く泣く断念せざるを得ませんでした。
しかし、諦め切れない捨助は、同年11月に京都に上り、土方達に入隊させてくれる様頼みます。しかし、土方は松本家の意向を汲んでこれを拒み、郷里へ送り返しました。このとき、捨助は土方の手紙や隊士の刀を託され、持ち帰っています。故郷に帰った捨助は妻を迎え、21才のとき、一女を授かりました。
5年後の1868年(慶応4年)、新選組は京都で敗れ、江戸へ帰還します。そして、幕府より甲府城の占拠を命じられ、甲陽鎮撫隊として甲府へ向かいますが、捨助は、この甲陽鎮撫隊の一員として、晴れて仲間入りを果たす事が出来ました。
ところが、甲陽鎮撫隊は、多摩の行く先々で歓迎を受けては泊まりを重ねて時間を費やし、甲州に着いたときには既に官軍が甲府城に入った後でした。やむを得ず勝沼に布陣して官軍を迎え撃ちますが、衆寡敵せず、3月6日に鎧袖一触で敗れ、江戸へと敗走します。捨助は、この戦いで太股に銃創を負い、生家に帰って療養することになります。
傷の癒えた捨助は、五兵衛新田にいた新選組と合流し、さらに会津へと向かいます。会津での捨助は、始めは隊長付きとして斉藤一に属し、土方が会津に到着した後は常に土方の側に居たようです。捨助はここでも負傷しますが、命に別状はなく、9月には土方と共に仙台に赴き、土方が奥羽列藩同盟の会議に出席したときには、次の間で控えていたそうです。
土方は、仙台から榎本武揚と共に蝦夷へ向かいます。しかし、後の無い事を知っていた土方は捨助を説得し、10両の金を与えて離隊させます。捨助は、やむなく新政府軍に投降しますが、ほどなく許され、故郷へと帰ります。しかし、故郷では妻が亡くなっており、暫くの間は人目をはばかって土蔵で暮らしていたそうです。
その後、再び小金井小次郎の元に身を寄せ、旧幕臣の山岡鉄舟とも交流がありました。そして、1887年(明治20年)に井上源三郎の姪モトを妻に迎え、この頃正業に戻っているようです。さらに付け加えると、沖田総司の甥芳次郎がモトの妹と結婚し、捨助とは義理の兄弟になっています。
晩年に向けての捨助は、まず三河の渥美にあった三河セメント株式会社と関係している様です。さらに名古屋へ向かい八重本商店にやっかいになっています。そして、郷里に帰って生家の近くで米屋を開き、1915年(大正4年)に74才で亡くなりました。
捨助が三河セメントにいた頃の写真が残っているのですが、小柄な人で、いかにも遊び人上がりというイメージを受けます。ドラマの瀧本捨助もこの風貌を元に役作りをしたのでしょうね。
実在の松本捨助でもかなりのドラマが作れそうですが、わざわざ瀧本捨助という人物を創作したのは、三谷幸喜が喜劇作家としての腕を存分に振るいたかったかったからでしょうね。最初から創作と断っていますから、史実に囚われる必要もなく、松本捨助の美味しい部分だけを使う事が出来ますから。ドラマの捨助はどうしようもない存在ですが、どこか憎めず、多分三谷幸喜が一番楽しく書いてる人物なのではないでしょうか。
この項は、新人物往来社「新選組銘々伝 松本捨助」を参照しました。
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