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2004.06.22

新選組!16

新選組!第24回「避けては通れぬ道」、いよいよ三谷ワールドが全開になってきましたね。これまでで一番面白かったかも知れません。

新見錦を追いつめていく土方と山南。芹沢を巻き込んだ罠の仕掛け方は、古畑任三郎が犯人を追いつめるプロセスそのままでしたね。オウムを使った演出といい、お梅に迫られた永倉新八の反応といい、随所に三谷幸喜の世界が溢れていました。

そのオウムの声は、永倉新八を演じている山口智允の声帯模写だったそうですね。「アホ。オマエ、シヌデ、シヌデ」。よく見かける演出ではありますが、佐藤浩市の演技とあいまって、実に効果的でした。

このオウムを展示した見せ物小屋については、当時の商人が書いた日記に出ており、松原烏丸にある因幡薬師で実際に行われたようです。子母澤寛の「新選組始末記」にも描かれており、オウムの他に虎の檻があったのですが、芹沢が「中に人が入っているに決まっている。」と言って脇差を抜いて突きつけたところ、虎が猛然と吼えたため、さすがの芹沢も驚いて「こりゃ、本物だ。」と言って刀を納めます。ところが、この小屋を興行していた香具師が収まらず、芹沢に食ってかかります。これに腹を立てた芹沢は、香具師に対して、「オウムは色を塗ってあるに決まっている、すぐに洗って見せろ。」と迫ります。芹沢と一緒に居た佐々木愛次郎が間をとりなして場を納めたとありますが、ドラマはこのエピソードを取り込んでいる訳ですね。

新見錦を切腹に追い込んだ局中法度。これこそ鉄の掟を持った新選組を形作ったものとして、史上最も有名なものです。

一.士道に背き間敷事
一.局を脱するを不許
一.勝手に金策致不可
一.勝手に訴訟取扱不可
一.私の闘争を不許
右条々に相背候者切腹申付べく候也

峻烈極まりない掟ですが、実はその存在については疑われています。この法度が最初に出てくるのが永倉新八の語り残しを記録した「新選組顛末記」で、次いで子母澤寛の「新選組始末記」です。「顛末記」ではドラマにあった最初の4箇条が芹沢、近藤、新見の三人で定めた禁令として記されており、「始末記」ではさらに最後の「私の闘争を不許」を加えて近藤が定めた局中法度書として紹介されています。ところが、これ以外にこの法度を記録した同時代の記録が無いこと、初期には脱走が相次いでおり、こうした法度が適用された形跡が無いことなどから、少なくとも結成当初には無かっただろうというのが定説になりつつあります。

では全く無かったというとそうでもなく、新選組と同時代を生きた西本願寺の侍臣西村兼文の残した「新撰組始末記」には、1864年(元治元年)11月に伊東甲子太郎が加盟したという記事に続いて、「厳重に法令を立て、その
処置の辛酷なる一例を挙げるに」として、田内知という隊士が「士道不覚悟」を申し渡されて切腹させられたとあります。また近藤芳助という隊士が残した書簡には、1864年(元治元年)9月に入隊した後、局内の様子を見て脱退
したいと考えたものの、「解約セントスルモ許サズ。結局死サザレバ隊ヲ脱スルヲ得ズ。」と記されています。これらから、局中法度という名称や各条文の文言はそのままではないにしても、似たような掟はあったものと思われ、その成立は中期以後だったのではないかと考えられています。

こうしたことから、新見錦の切腹理由として通説となっている隊規違反という説は疑わしいと考えられ、永倉新八の「浪士文久報国記事」にある水戸藩士とのいざこざから切腹したという説が重みを持って来る様に思われます。私としては、木村幸比古さんが説く「長州間者説」が面白いと思うのですけどね。

新見の死については、この他にドラマにあった様に土方が仕組んだという説もあります。出典を思い出せないのですが、大略を記すと、芹沢がかねて思いを寄せていた遊女が居ました。芹沢は何とかして落籍せようと考えていたのですが、それより早く新見が身請けしてしまい、これを芹沢に自慢します。芹沢は当然面白くなかったのですが、これを見ていた土方が芹沢を扇動し、新見が勝手に借金をしたという証文を見せ、新見を隊規違反で処分してはどうかと唆します。芹沢は、まんまとこれに乗り、新見に切腹を申しつけ、野口健司が介錯をしたという説です。細部は異なりますが、芹沢を巻き込んで新見を陥れたという点ではドラマと共通するところがありますね。

その新見の切腹のシーンは、見応えがありました。絞り出すように芹沢と山南に投げかけた叫び声は、迫力がありましたね。「これで良いのか」という山南に対する問いかけは、山南を襲う運命を読み切っているかの様です。先の見える新見らしいセリフですね。彼ほどの者がつまらない罠に落ちたものです。

その新見の切腹を土方と山南が介錯もしようとせず端座して見守っていましたが、私には彼等が鬼に見えました。普通、切腹の時には必ず介錯人が付き、腹に刀を突き立てたかどうかという瞬間に首を打ってしまいます。切腹はとんでもない苦痛を伴うことからなるべく苦しませない為の処置なのですが、仮に一人で腹を切った場合には凄惨な事態を招く様です。このあたりは、浅田次郎の「壬生義士伝」の吉村貫一郎の最期のシーンに詳しく描かれていますね。ドラマで介錯をしなかったのは、首を落とすという行為が残酷に見えるためと思われますが、実際には介錯をしない方がよっぽど残酷な仕打ちです。いずれ出てくる山南の切腹シーンでは、どの様に描くのでしょうね。

最後に、第20回「鴨を酔わすな」で新見がつぶやいた「だから芹沢さんは今ひとつ大きくなれないのだ。」という冷笑とも取れるセリフは、今回の「同郷だから付いてきただけだ。」というセリフのための伏線だったのですね。今さらながら三谷演出の細かさに気が付かされたシーンでした。

この項は、子母澤寛「新選組始末記」、永倉新八「新選組顛末記」、新人物往来社編「新選組資料集」、「新選組銘々伝」、木村幸比古「新選組日記」、「新選組と沖田総司」を参照しています。


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コメント

新撰組もみてますよ~~面白かったですね。まさか、芹沢を切腹に追い込む前に新見だったとは、やられたかんじでした。伝記とか歴史はほんとにわからないのですが、いろんな説があるようで、なにを信じていいかわからないのがちょっと不愉快のあゆひめです。とことん書物を読んだりすればだいたいの予想がついてくるとはおもいますが、それもまた数冊よむ気力もないので、テレビだけの説しかわかりませんが、それなりに満足してます。でも土方はかっこいいですね、あの女ったらしも憎めません いずれ、山南さんが切腹してしまうのは、本当のところが知りたいかんじがしますが。。

投稿: あゆ姫 | 2004.06.23 11:21

新選組を知りたいなら、史実を書いたという訳ではないですが、司馬遼太郎の「新選組血風録」を読むと面白いですよ。分厚い本ですが、短編形式ですから全部を読む必要はなく、読みたいと思ったところだけ読んでもちゃんと話が通じる様になっています。お勧めは「沖田総司の恋」かな。沖田のイメージを形作ったとも言える作品で、新選組と言うより淡い恋愛小説と言った方が良いかも知れません。京都の街の雰囲気も合わせて楽しむ事ができますよ。すでに見て貰っているかも知れませんが、私のホームページでも少し触れています。
http://www.bbweb-arena.com/users/mnaokun/洛東_003.htm#bookmark5">http://www.bbweb-arena.com/users/mnaokun/洛東_003.htm#bookmark5

投稿: なおくん | 2004.06.23 18:45

新見錦を切腹に追い込んだ策謀は、古畑任三郎が犯人と見せる駆け引きに似ていたのか!なるほど。言われてみれば納得です。
そして今回の新見錦と山南敬助とのやり取りは、今後の物語の伏線と見て間違いなさそうですね。三谷氏は彼にどんなエピソードを作ってくれるのか…期待大です。

投稿: YRENA | 2004.06.23 18:56

新選組!での山南の最期がどうなるか、本当に楽しみですね。これまでの殿内、佐伯、新見の最期からみると、相当に突っ込んだ描写がされる様な気がします。脱走というシチュエーションを取るのかどうかは判りませんが、どういう解釈をするのか、またそれ以上にどんな心理描写をするのか、今から興味津々です。

投稿: なおくん | 2004.06.23 19:47

なおくん、司馬遼太郎の本の紹介ありがとう!ずばり情報おんちのあゆひめはアイニク持ってないよ。すごい偶然なんだけど、最近地元の新聞のエッセイにこの「新撰組血風録」が紹介されてて気にはなってたけど、すっかりわすれてて、でもそのほんすごくおもしろそうだけど、ぶっといというのがネックだね~図書館にあればかりてこう。。。いつもいつも色々教えてくれてありがとう 佐藤琢磨のHPも思いもしなかった・・・すっごいだいすきなくせにファンクラブとか入ったことないから(小学校のころムツゴウロウさんのは入ってた笑) アクセスしてみるね

投稿: あゆひめ | 2004.06.25 23:29

「新撰組血風録」は、最近あちこちで見かけます。やっぱり新選組を扱った文学としては傑作だからでしょうね。史実かどうかはともかくとして、新選組の醍醐味を味わうにはぴったりだと思います。佐藤琢磨の人気も凄くなって来ましたね。最近は、F1に関係ないメディアでも取り上げられています。いつか逢えると良いですね。

投稿: なおくん | 2004.06.26 08:13

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