新選組!12
新選組!第20回「鴨を酔わすな」、とうとうだんだら模様の制服
が出て来ましたね。これで、ぐっと新選組らしい雰囲気が出て来
ました。やっぱり、ユニフォームというのは大事なものですね。
この羽織を作ったお金ですが、ドラマでは芹沢が集めて来たこと
になっていますが、実際には大阪の平野屋という豪商から芹沢、
近藤、新見の連名で借りた100両でまかなった様です。この時
の手口はかなり巧妙というか執拗なもので、局長達の指示の下、
配下の土方、野口、永倉、沖田らが入れ替わり立ち替わり平野
屋を訪れ借金を申し込み、平野屋が音を上げるまでこれを繰り返
した様です。ただ、乱暴を働く様な事はしなかった様で、とにかく
しつこかったらしいですね。彼等は、この後鴻池家からも200両
の金を借り出しています。
この借金について、ドラマの中で芹沢が会津藩の広沢富次郎に
向かって「会津藩が何もしてくれないからだ」とからんでいました
が、実際にはこの事を知った会津藩が驚き、借りた金を会津藩が
立て替えて返済し、その後隊士に対して月々の手当を出す様に
なりました。しかし、新選組と大阪の豪商との縁は後々まで続き、
1864年(元治元年)には、会津藩公用の名目で近藤が保証人
となり、鴻池を主とするグループから、7万1千両(約42億円)に
も及ぶ金を引き出す事に成功しています。
さて、前回は芹沢と久坂、今回は芹沢と桂という具合に長州藩と
のからみが描かれていますが、当時は長州藩と水戸藩は概ね友
好関係にありました。1860年(万延元年)には桂と水戸藩の西
丸帯刀との間で水長密約を交わしていますし、浪士隊と前後して
京都に入った水戸藩の本国寺党は、長州藩の手引きで上洛して
います。ただ、水戸藩と言っても一枚岩ではなく、様々な党派があ
って複雑なのですが、芹沢の立場は本国寺党に近かった様で、こ
のことからすると久坂や桂ともめる事は考えにくいと思われます。
ドラマでは、芹沢や桂の口を借りて、当時の長州藩の世評や、三
谷流の芹沢の解釈を説明したかったのでしょうね。
芹沢は、久坂や桂に向かって、「長州藩は、攘夷を名目に、自分
達の野望のために朝廷を好き勝手に動かそうとしている。」と非難
しています。これは、当時の京都はほとんど長州藩の独走状態で、
これを見た幕府や薩摩藩などは、長州藩は毛利幕府を作るつもり
に違いないと観測しています。実際、ずっと後の事ですが、長州藩
主が左右に対して、「自分はいつ将軍になるのだ。」と聞いたという
逸話が伝えられています。桂や久坂が目指していたものは毛利幕
府ではなく、雄藩による連合政権という様なものだったと思われま
すが、多くは長州は政権を私にするつもりだという観測を持っていま
した。これが、後の八・一八の政変へと繋がって行きます。
また、桂は芹沢に向かって、「なぜ天狗党に入らないで、幕府の走
狗となっている。」と切り返しますが、確かにこれは芹沢にとって痛
い所でした。ただし、もう少し後になって、八・一八の政変で長州藩
を追い落とした後の事ですが。この政変以前の新選組は、芹沢達
の主導のもとにあり、あくまで尊王攘夷のための結社でした。ところ
が、八・一八の政変のときに御所の警備につき、尊王のために尽く
したのまでは良かったのですが、このあと市中警護の役目を請け、
長州藩を主とする尊攘派を敵に回す事となります。これは、芹沢に
とっては、大きな誤算だったはずです。彼の立場は佐幕には違いあ
りませんが、あくまで攘夷派であり、開国に反対する志士を取り締ま
る立場に立った事は、彼の中で大きな矛盾を産む事になったと思わ
れます。おそらく、郷党からも開国派に寝返ったと非難を受けたこと
でしょう。ドラマの中で芹沢は泣いていましたが、実際にも泣きたい
心境になった事もあったのではないでしょうか。
ここで、ちょっとおもしろいのが、新見錦の描写です。「だから芹沢さ
んは今ひとつ大きくなれないのだ。」と冷ややかにつぶやき、土方が
目をそばだてていましたが、新見と芹沢の微妙な立場の違いを表そ
うとしている様ですね。
以前にも書きましたが、新見は新選組隊士としては、唯一、京都護
国神社に祭神として祀られています(御陵衛士となった伊東達は除
きます)。すなわち、勤王の志士として認められているという事を示
し、芹沢とは際だった違いが見られます。ウェブ上の情報でしか確
認できないのですが、長州藩が外国船に対して砲撃を行った時に
新見も応援に駆けつけたという説があり、相当に長州藩寄りだった
事が伺えます。このことから長州藩の間者だったという説もある位で
すが、そこまで言い切る資料がある訳ではありません。そういえば、
相島一之さんの演じる新見錦は、どこか神道家の様な雰囲気があ
る気がしますね。このドラマで、新見錦を今後どのように扱うのか興
味深い所です。
新見錦については、次の所にも書いていますので、よろしければご覧
になって下さい。
http://www.bbweb-arena.com/users/mnaokun/洛東.htm#bookmark2
今回は長くなりましたので、マイナー隊士の紹介は、明日アップする
ことにします。
この項は、子母澤寛「新選組始末記」、木村幸比古「新選組日記」、
新人物往来社「新選組銘々伝」、学研「新選組」、別冊歴史読本「新
選組の謎」、同「新選組を歩く」、光文社文庫「新選組読本」及びウェ
ブ上の情報を参照しています。
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コメント
毎回貴重な新選組情報、感謝です。
おかげで、NHKの「新選組!」を100倍楽しく見られる気がします。私のブログでも、三谷幸喜ファンの一人として、敢然と三谷バッシングに対決していこうと思っています。
今後も、ドラマの進行に合わせたおもしろい情報をお願いします。
投稿: 合理的な愚か者 | 2004.05.29 11:55
合理的な愚か者さん(で良いのでしょうか)、コメントありがとうございます。
三谷バッシングはかなりのものがあるそうですね。確かに、龍馬と新選組が仲良く話していたりと、
予備知識なしで見た場合はとんでもない誤解を招く要素があり、問題なしとは思いません。
でも、三谷ドラマとして割り切って見ていくと面白いドラマですよね。何より、個々の隊士について、従
来の紋切り型ではなく、ちゃんと資料に基づいて性格付けしているあたりには好感が持てます。
これから先、ますます血生臭い展開になって行った時、どんな演出を見せてくれのか、楽しみにして
います。
投稿: なおくん | 2004.05.29 19:24